男性が女性を力づくでモノにしようとも、やはり男性は女性に勝てないというのが、僕の基本的認識だ。
力づくというのは、女性が男性を見向きもしないからこそ出てくる行動であって、そのことからもイニシアチブは女性側にある。
もちろん、仮に凌辱された女性がいたとしたら、それに対しては、同性として申し訳ないという気持ちと、悲惨な目にあった人々への同情を持つにしても、それをさせるだけのものが彼女には、やはりあったとしか言いようがない。
そんなことを言うと、すぐに女性蔑視だおか騒ぎ立てる女史がいるが、そうではなくて、それだけ魅力的だと言うことを言いたいし、それがなければ、我々人類の歴史や、現在の国家やいまここにいる我々の存在自体が成り立たないものだと考える。
すなわち、過去の名言のように、女性はいつの時も太陽なのだ。
まずはそれを前提条件として、この物語を読み進めれば、残酷そうに見える小夜子の行動は合点のいくものとなる。
彼女は、自分を強姦しようとした大沢を殺し、自分の父親と姦淫を通じていたおばを殺し、自分をてごめにして、自分そのものの存在と、彼女の財産を奪おうとした暁を殺し、そしてその父親を殺し、ついには自分と同じ空気感を持っている涼をも殺してしまった。
涼の殺人は、彼女の意図したものか、偶発的になったものかは意見が分かれるところだが、ラスト涼の妹を引き取る=独占する、という行動が暗示するように、迷いはあったにしても、涼を殺してしまった、というのが私の考えである。
美しすぎるというのは、女性にとって幸せかどうかというテーマもここで現れてくるのだ。
小夜子は6歳の時にその人間離れしたうつくしさのため、浮浪者に強姦されそうななってしまう。
その事に対する怒りに導かれ、彼女ははじめての殺人を犯してしまうのだ。
この事件は、祖父母の尽力もあり、彼女の住んでいた神社の火災という仕掛けとともに、有耶無耶になってしまう。
これは小夜子の原点である。
美しいがため男性からあらぬ仕打ち、対応を受けてしまう。自分はただ単にそこにいたいだけなのに、男達がそうはさせてくれない。
また、ある女性達は、小夜子のように男性に言い寄られたら、自己肯定感を感じるケースもあるかと思う。このような境遇にありながら、男性を拒否する小夜子の姿勢に反発を覚えたり、理解しがたいものを感じることもあるはずだ。
いわば、小夜子は贅沢であると。
しかしもとより男性の統制から独立を保とうとする気質の小夜子にしてみれば、そうした一方的な要求は苦痛以外の何者でもない。
それは彼女が涼に言ったセリフに端的に現れている。
「女のオフェンスは男のオフェンスとは違うのよ」
男のオフェンスが暴力と、それを盾にした恐怖による支配という単純至極な方法であるのに対し、女のオフェンスとは、女性であることを最大限に利用し、男性の内面から、自分の思う方向へと仕向けて行くことである。
この物語の素晴らしい点の一つとして、女性であることの武器を小夜子が容赦なく、行使していることだ。男であれば、魔性とも呼ばれる魅力的な女性に、それこそ骨抜きになるほどたぶらかされてみたいという欲望を持っている筈である。
小夜子は見事に、男を骨抜きにして行く。
しかも、そこには男性への愛情のひとかけらもなく、怒り以外に何もないことから、スパイのようにストイックで、残酷かつ美しい。
例えば暁。
彼はなりあがりの不動産会社の社長の息子で、父親に似て、傲岸不遜、すべては金と力で、ほしいものは手に入れられると考える俗物である。
しかし、小夜子はそんな彼には全く見向きもしない。
それだけに自尊心を傷つけられた彼は、自分の仲間を使って小夜子を襲う計画を立てるなど、手段を選ばない男である。
そんな彼に最初は好意を見せ、身体までを許し、完全に彼女は彼を許したと思わせる。
そこまで来て、急に彼に冷たく当たったり、そうかと思えば思うば親密な態度で迫ったりと、彼の心を翻弄して行く。
時には、彼に冷たくする一方で、義兄弟の涼と仲良くする事で嫉妬親密を煽るなど、ますます彼を術中にはめていく。
そして極め付けは、彼が帰ってくるのをわかっていながら、彼の父親にパトロンよろしく、身体を密着させたりして親密にしているところを、わざと彼に見せつける。
そして、彼は自分の父親をナイフで殺してしまう…。
男性の心をたぶらかし、自分からは何一つ手を出す事なく、目的を達成してしまう。なんと恐ろしく、甘美なことか!
男なら仮に自らが破滅する事になっても、彼女にたぶらかされた瞬間の一つ一つは素晴らしい思い出になる事だろう。
小夜子は自らの身体を呈してまで追い求めていたのはなんなんだろうか?
彼女を取り巻く環境は魑魅魍魎のかたまりである。その中で、彼女は掃き溜めに鶴というところか?
広大な土地を持つ祖父に呼び戻され、その庇護のもと生活する小夜子。祖父は彼女の理解者だが、年齢的なものもあり、病を患っている。
彼女の母は世間知らずのお嬢様。父親は凡人で、彼の義理の妹にたぶらかされている。
その妹はというと、暁の父親の実の妹で、小夜子の家の乗っ取りに一役買っている。
また暁の父親は、成り上がりの不動産会社の社長であり、計略を巡らせ、小夜子の家の乗っ取りを企んでいる。その計略の一つに、小夜子と暁の婚約があるという環境の中、小夜子は生きているというわけである。
しかも彼女は代々続いた女系の神官の跡取りであり、家を守るという宿命を背負わされ生まれて来ている。
周囲の平凡だが、自分のことだけを考えればいい友達に対し、自ら背負う環境や宿命のため、普通に自分らしく生きることができない呪いの根源を男性の排除に求めているとしか思えない。
その究極の形が涼の死であろう。
これについては彼女が求める結果だったかはわからない。彼女は涼の自然な感じ、男とか女とか関係なく対等に付き合おうとすると姿勢にすくなからず惹かれていたし、それ故に自分の術は効果なく、苦手だと、涼に告白しているのである。
涼は暁に対する義理のようなものから、暁の代わりに、猟銃で小夜子を殺そうと試みる。
しかしその銃には小夜子による仕掛けがしてあり、暴発してしまい、それが手負いとなってラスト間際に死んでしまうのだ。
猟銃を涼が使うとわかっていたのか?
これは最後まで謎である。
しかし、彼女は求めるものを得ることができたのだ。つまり男を排除した、自分だけの世界。
彼女は身寄りのない、病弱な涼の妹を引き取る。
これもある意味、男の性を受け取らず、自分の後継を得ることができたと読めるのではないだろうか?
彼女は彼女の完成させた世界で、永遠に生き続けるだろう。それは一度この世に舞い降りて、ふたたび天に戻った天女のように。