・BAT DAYS
信濃町駅から神宮球場に向かう道すがら、4面コートの草球場が嫌でも目に付きます。
運動音痴のボクは、プロ野球や高校野球を超人的な身体能力によって成り立つスポーツと捉えていますが、普段はサラリーマンとして週5で働く普通のおじさんたちが、休日にわざわざユニフォームを揃えてプレイする側に回ってこのスポーツを楽しむのだという、当たり前の事実にここで気づかされるのです。
まあ一塁から二塁までボールが届かず、体育の授業の「ティーボール」で空振りを連発していたボクからすると、炎天下で90分だか7イニングだかこなす彼らもまた相当なものですが。
ティーボール(イメージ図)
と、いうわけで実録草野球マンガ「BAT DAYS」をkindleで購入しました。
このマンガを知ったのは先月、後輩の家に遊びに行ったときのこと。クソバカ水島新司信者であるこのボクに、後輩は「御大と草野球をやったときのエピソードもありますよ」と教えてくれ、興味を持ったボクは横暴にも「Wi-fiを貸せ」とのたまい、その場でダウンロードしたのでした。人ん家で無遠慮に酔っ払ってたのでその辺記憶があいまいですが。っていうか結局読むのに一ヶ月かかってるんじゃ意味なかったじゃねーか!
草野球マンガというジャンル自体、水島新司御大が「がんばれドリンカーズ」と「草野球列伝」、あとこまごまとした短編で描いていた以外はちょっと思いつきません。ましてやエッセイものなど、まさしく「ありそうでなかった」というところ。
何年か前に ある人にこう言われた
「徳光くんはプロの漫画家というより プロの草野球選手だよね」
なるほどそー言われてみれば たしかに
ここ数年 漫画を描いている時間(72時間)より
あきらかに確実に 草野球をやっている時間(203時間)の方が長い
(中略)
試合後 チーム全員で食事になる なんとチームオーナーのオゴリである
そこで「徳ちゃんホームラン打ったんだから もっとビール飲みなよ」
―と ビール飲み放題となる
さらにあるチームでは ホームラン1本につき2枚のビール券が出る!
ホームランでなくその日の首位打者 打点王 MVP MIPにも ビール券が出る!
さらにさらに別のチームではシーズンオフに忘年会が開かれ
チーム内の本塁打王 首位打者 打点王 盗塁王などの各個人タイトルに商品券が出る!
おととしそのチームで8冠王になった 冷蔵庫が買えた
(タダメシ ビール飲み放題 ビール券 商品券)
「埋まっとる グラウンドには銭が埋まっとるんや それをわしゃあッ バットで掘り返しとんじゃ
プロや まごうことなくワシは プロの草野球選手や」
(第一話「プロの草野球選手」より)
この地点でもうめちゃくちゃ面白いです。初回先頭打者ホームランです。
草野球による収入で食っていく、マンガはあくまで副業……こんな人間が平成の世にいたなんて!
6チームを掛け持ちし、年間100試合をこなす徳光先生。100試合と言えば、2軍の試合数と大して変わりません。
そこで垣間見える多種多用な人間模様が見ものです。やっぱり野球って人柄が出るっぽいですね。編集者のチームやマンガ家のチームに参加することが多いようなのですが、破天荒な編集者のエピソードが面白いのなんのって。
あと変な審判とか試合後の飲み会のエピソードとかも正直作り話にしても荒唐無稽としか思えないものばかりで、笑いをこらえるのに必死でした。
でもやっぱり水島新司とのエピソードを綴った第三話は見ものですよね。
御大は年間200試合をこなし、還暦過ぎまでピッチャーとして200勝、その後もショートを守り続けていたある意味徳光先生以上のプロ草野球選手なわけですが、ランナーの御大に相対して緊張しすぎるシーンはものすごく感情移入してしまいました。これが見たかったんだ!
御大にタッチプレイとか絶対出来ねえ、打球が来たら「こっちに転がすな!」とピッチャーの頭をはたきに行くかもしれない(運動音痴の痛すぎる妄想)
余りにもマニアックすぎるネタの応酬
草野球とは直接関係ないエピソードもグッと来ます。
徳光先生は1963年生まれの阪神ファン。巨人のV9をゲーム差ゼロで阻止できなかった、伝説の1973年を小学生のときに経験している世代です。当時の休み時間に野球をやったり、授業中、紙に書いた野球盤をやったりと様々な形で野球を楽しんでいたエピソードが、臨場感たっぷりに伝わってきました。当時は野球がスポーツの王様だったんだなということが実感を持って理解できます。
当方、十数年前まで毎日地上波で巨人戦をやってた、ということすら信じられない世代なので……。
ともかく自信を持っておすすめできるので、もし面白くなかったらオレが君んちの口座に振り込んでも良いくらいの気持ちはあるから、是非読んで欲しいよね。
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あと書ききれなかったけど、バッティングセンターめぐりをする第四話とかもオチが秀逸なので、是非!