~ブログ版・第7号~
<学会参加報告~腸内細菌とアンチエイジングのお話>
医局長 産科婦人科医 上村淳一
今回は“アンチエイジング医学(抗加齢医学)”についてお話をさせていただきます。
“アンチエイジング”という言葉に皆さんはどういうイメージを持っているでしょうか?
多くの方は“シワやシミ、たるみを防ぐ”など美容面のことを思い浮かべるかもしれません。
見た目はもちろん重要ですが、現在の長寿社会のなかで最も重要なのは、単なる長生きするだけでなく自立して生きられる期間、いわゆる“健康寿命”を伸ばすことです。
魔法の薬で不老不死を実現するようなダイナミックなことではなく、健康寿命を伸ばすための正しい知識を取り入れ、地道に予防医学を実践すること、それが“アンチエイジング医学(抗加齢医学)”の本質です。
最新の研究データをもとにアンチエイジング医学に真剣に取り組んでいる“日本抗加齢医学会”という学会があり、先日横浜市で行われた総会に参加してきましたので、簡単にご紹介させていただきます。
日本抗加齢医学会は色々な分野の先生が参加する学会なので、「細胞老化のメカニズム」、「運動と骨の健康について」、「ビタミンの活用法」、「栄養学に関する最新情報」「睡眠とアンチエイジング」、「歯周病の制御法」など講演内容は多岐にわたっていましたが、なかでも「腸内細菌」が最近の一番の話題(トピック)のようでした。
腸内細菌は遺伝子レベルでの正確かつ迅速な菌の解析が可能になった現在、飛躍的に研究が進んでいる分野です。
一人あたり約1000種類、約100兆個存在しているといわれる腸内細菌の形成は出生直後から離乳期までの環境に大きな影響をうけ、老化によって多様性が低下し分布が変わることから、健康寿命へ何らかの影響を与えるのではないかと考えられています。
最近の研究結果によると腸内細菌の乱れが腸の病気や便秘症に限らず、糖尿病・動脈硬化症などの生活習慣病、自閉症など様々な病気にも関連していることが明らかになりつつあるようです。
現在腸内細菌を整える治療法は確立していませんが、国内でも内視鏡による便移植治療などが臨床試験段階で行われていて、将来的に様々な病気の予防や治療に役立つかもしれません。
また、腸内細菌の形成は乳児期の環境がとても重要といわれていますので、産科医として授乳や食事、薬が腸内細菌にどのように影響を与えるのか最新の情報に注意しながら患者さんへの情報提供を行っていきたいと考えています。