今シリーズ第4回です。

さて、前回までに「頭のてっぺんを上に向ける」→「それにより首肩と腰がまっすぐになる」→「重力に逆らわないので負荷が減るから」という話をしました。今回はそこで出てきた「股関節」の話と、それに伴う「パフォーマンス向上」についてです。

まず前回述べたように、人間は前傾姿勢をとる際、「腰を曲げる」のではなく「股関節を曲げる(使う)」方が構造上負荷が少なく、効率の良い動きができます。

例として一番わかりやすいのが「長座体前屈」です。股関節を使わずに腰を曲げて体を折ろうとすると、骨盤が後傾したままなので可動域が狭く、ほとんど前に行けません(①)。逆に、股関節を使って体を曲げると骨盤が前傾するので可動域が広くなり、かなり前まで手が届くようになります(②)。

①腰を曲げて起きようとするも骨盤が後傾していて起きられない

 

②股関節で体を曲げ骨盤が前傾しているので起きるのが容易

長座のような「静」の動作だけでなく、いわゆる「運動」=「動」の動作でも同じことが言えます。
ちょっと長くなりますが、「体育的運動動作」におけるそれをいくつか挙げてみましょう。

たとえば、一見腰を曲げて(丸めて)行う動作に見える、マットの前転(でんぐり返し)一つ見てもそうです。最初の構えの時点で、腰を丸めるよりも(③)股関節を曲げた方が(④)腰の位置が上がって回りやすくなります。

  
③股関節の角度が浅く腰が低いので回転半径が小さい=回転力が小さい

 

④股関節の角度が深く腰が高いので回転半径が大きい=回転力が大きい

そこから回り始めてからは確かに丸まる必要がありますが、それも腰ではなく背中です。そして最後に立ちあがる際には、股関節を使って足を引き付けなければ立てません(⑤⑥)。前回りで立てない最大の理由はこの「股関節による足の引き付け」ができていないためで、それがタイミングよくできれば腹筋が弱くても回った際の回転力を使って立てます。
 

⑤腰を曲げて立とうとするので股関節の引きつけが弱い

⑥股関節を曲げて足を体に十分に引きつけている

 

鉄棒の前回り下りも同じで、腰をどんなに曲げても頭は十分には下にいかず(⑦)、股関節を使って体を折りたたむことで初めて頭が下になって(⑧)スムーズに回れます。
  
⑦腰(腹)で引っかけているので回りきれず、お腹も痛い

⑧股関節で引っかけているので頭が下になり、かつお腹は痛くない

跳び箱が跳べない子も、理由は複数ありますが、その動作的理由の一つに「股関節を曲げて足を前に出さないため体が前に進まない(後ろに残る)」があります(⑨⑩)。
 

⑨股関節の角度が浅く、足が前に出ないので体重が後ろに残る

⑩股関節を深く曲げることで足が前に出るので体重が前に移動する

走り方もそうです。まずスタートの構えの時点で股関節を使えない子は腰を曲げてしまって骨盤が後傾し、体重が前ではなく後ろにかかってしまうため、スタートが出遅れます(⑪)。対してスタートの上手い子は腰で曲げず、背骨と骨盤がまっすぐになっているので骨盤が前傾し、力のロスが少ないのでスタートのタイミングロスも少なく、一歩目のダッシュも強くなります(⑫)。 

⑪腰(腹)で曲げるので骨盤が前傾せず体重が前に乗らない

⑫骨盤を前傾させて上体と一直線になっているので体重が前に乗る


走っている最中も、股関節を使った大腿骨(太もも)の引き上げが少ない子は足の回転の半径が小さく、それにより地面を蹴る筋力と地面からの反力が小さくなるため、速く走れません(⑬⑭)。 ※下の画像は台に足を乗せてますが、台はないものと思ってください(笑)

 
⑬股関節の角度が浅く、足の回転半径(青丸)が小さいため出力が低い

⑭股関節の角度が深く、足の回転半径が大きいため出力が大きい

この走り方における「股関節を使う=腰を曲げない=骨盤を後傾させない」考え方は、球技にもそのまま適用できます。股関節を使えず腰を曲げて骨盤が後傾していると動きの初動が遅れ、体幹が崩れて力もロスし、一歩目の動きが弱くなります。

球技では守備や相手と対峙したときの構えについて「腰を落とせ」とよく言いますが、これは単に骨盤を位置を下げるということではなく、腰を落とすことで腰を曲げず、骨盤と背骨をまっすぐにして力のロスを減らす、ということを意味しているわけです(⑯)。逆に、腰を曲げて落とせば頭は必要以上に前傾となり、それでは前が見えないので更に首を曲げ、首肩と腰に必要以上に負担をかける上に力の効率が悪い構えになります(⑮)。
 
⑮腰を曲げている=腰が引けているので上体と下肢が分離しているので、それを繋ぎなおす時間が必要となるため反応が遅く、力が腰で抜けているので出力も弱い

⑯腰が入っている=腰椎で曲げていないので上体と下肢が一体化していて反応が速く、力が上下で伝わっているので出力も強い

以上、各種目動作における「良い動き」と「悪い動き」の一例を挙げてみましたが、重要なのは腰は上体と下肢を繋げる連結部である、ということです。今挙げた悪い例の方は、要は腰椎を曲げて力がそこから逃げることで、上体と下肢の連結が上手くいっていない状態ということです。下肢の力を上体に伝え、上体の動きを下肢に繋げるという体の全体性が崩れているから、非効率な動きとなって反応が遅れ、出力も減るというわけです。

 

このように「腰(腰椎)を曲げるのではなく、股関節を曲げる」ことが自分の本来の力を発揮すること、つまりパフォーマンス向上には非常に重要となります。そして、そのためには「腰を曲げない=尾てい骨から背骨を一直線にする」必要があり、そのための意識として「頭のてっぺんを上に向ける」ことが自分の体に対して簡単でわかりやすい指示になる、というわけです。

なお、すでにお分かりかと思いますが一応断っておきますと、「頭のてっぺんを上に向ける」とは常に地面と垂直方向というわけではなく、体が前傾すればその分てっぺんの位置も前傾にする、ということです。要は「首肩」と「腰」を曲げないためなので、たとえば体が地面と平行になる水泳であれば、頭のてっぺんも地面と水平方向、つまり真横となります。

さて、「頭のてっぺんを上に向ける→腰を曲げず股関節を使う」ことが運動におけるパフォーマンス向上に直結することは、これでわかっていただけたかと思います。次回は「頭のてっぺんを上に向ける」ことのパフォーマンス向上以外の効果として、「ケガ予防・健康促進・スタイル改善」について話をしていきたいと思います。

 

なお、途中でサエキ君5号(骨)が4号(ウルトラマン)に変わったのは、5号に無理をさせすぎてヒジが折れそうになったからです(苦笑) やっぱ細いと脆いですよね…。

それでは、また♪