さて、前回は子どもの成長を「学習曲線」という指標を使い、その子が指標のどこに位置するかを考えて、見立てや見通しを立てる、という方法を紹介しました。

 

このやり方というのは、極端に言えば「指標(学習曲線)が先」で「子どもが後」になります。「だから指標足り得る」と言ってしまえばその通りなのですが、指標とはあくまでモデル化された傾向やパターンであって、実際の状態やその変化を必ずしも確実に反映しているとは限りません。

 

では、「子どもが先」「指標が後」で考えることはできないのでしょうか?こうした視点から子どもの成長の見る方法の一つで、私自身が頭の中によくイメージしているちょっと変わった考え方を今回はご紹介します。

 

まず、子どもの状態や成長具合を時系列的にグラフ化(指標化)しようとする場合、うちの教室でなら毎授業の子どもの状態をグラフにプロットしていくことになります。あくまで頭の中での記録とイメージとしてではありますが。

 

ただ、問題はプロットやグラフのイメージの仕方です。例えば、ある種目での達成値を「1月は20、2月が25、3月が23、4月が26、5月が28…」と考え、そのプロットされた点を結べば折れ線グラフになります。学習曲線も、もともとは実験の中で統制された課題(技能)を多くの被験者にやってもらい、結果を折れ線グラフにしたら凸型や凹型に集約されたのでその形がモデル(指標)となった、というものです。

 

ただ、子どもの状態というのは肉体的にも精神的にも大人以上に敏感に変化します。1日の中で大きく上下するのは当たり前、うちの1時間の授業の中でさえ大きく上下します。また、上下幅が平均的に大きい子もいれば小さい子もいますし、それが上下どちらに振れたかが次回の授業での状態(初期値)に影響/傾向を与えることもあります。

 

しかし通常の折れ線グラフだと1回(1授業)の状態を一つの点(プロット)で表さなければいけないので、この1回の中での上下幅というものを表すことができません。ここで勘のいい人や資産運用をしている人などはピンと来たかもしれませんが、この「1回の中での上下幅も記録できる折れ線グラフ」に非常に適しているものに「株価チャート」というものがあります。

 

まず、株価チャート(株価グラフ)の見方について少し説明したいと思います。
株価チャートというのはこんな感じのやつです。

通常の折れ線グラフで使われる点の代わりに白と黒の棒が記されています(図内の赤線と緑線は今回は無視で)。これはその日の株価が「始値<終値」=株価上昇であれば白(陽線)、「始値>終値」=株価下落であれば黒(陰線)、となっています。また、棒の上下に線(通称ヒゲ)がありますが、これはその日のうちの最高値と最低値を表しています。この白黒の棒と上下の線を合わせて「ローソク足」と言い、それを時間軸に沿っていくつも並べたものが株価チャートなわけです。

 

一本のローソク足が示す一日の動きはこんな感じです。

※参考図:ダイアモンドZaiの記事より https://diamond.jp/articles/-/43546


では、このローソク足で子どもの状態を考えるとどうなるか。例として、その日の授業で逆上がりの練習をしていたA君。逆上がりの練習を仮に10段階とし、A君は前回の練習で5段階までクリアして終わったとします。

 

今日の練習では1発目こそ前回の5段階の練習をクリアしたものの、意識すると体が固くなってしまい、一旦3段階まで戻して復習をしました。しかしすぐにコツを思い出して3,4,5と戻り、更にその日はコツを掴んで6,7,8と段階を進めていきました。しかし最後の方では身体的な疲れと心理的な飽きが起こり、最後は一つの下の7段階に戻ったところでその日の練習を終えました。

 

これをローソク足で表すと、こうなります。

(左がローソク足、右がローソク足に表された内容=時間的推移)

 

そして、これを毎回の練習ごとにプロットしていくと、株価チャートと同じようになります。

 

大抵は授業の最初より最後の方が上達して白棒になりますが、疲労の蓄積や体調不良(運動会前の時期に多い)、リズムの不調(考えすぎる子に多い)、心理状態の乱れ(精神的に未熟な子に多い)、などがあると授業開始時(始値)よりも授業終了時(終値)には段階が下がってしまい黒棒になることもあります。

 

1授業内での上下幅が大きい子なら上下のヒゲが長く(下図左)、上下幅の少ない比較的安定した子なら上下のヒゲは短く(下図右)なります。

また、たとえ白棒でも前回述べた停滞期に入っていると棒の長さは短く(=変化率が小さい・下図左)、上昇期には棒の長さが長く(=変化率が大きい・下図右)なりやすいことになります。

 

短期的にはこのローソク足の前後2本分くらいで考えるのに対し、中期的にはそれをもう少し増やして数本分をまとめて見ることで上昇傾向か下降(停滞)傾向かを見ることができます。
これを株価チャートでは「上昇トレンド/下降トレンド」と言い、この考え方を子どもの学習曲線に応用すると、どの辺(上昇期/停滞期)にいるかを把握することができます。

※CRIPCY トレーディングビュー入門の記事より https://cripcy.jp/category/tradingview

 

まぁ、あとは株価チャートにおける出来高(取引量)を練習量に見立てるなど、その他にも株価チャートにおける指標を子どもの成長曲線に当てはめて考え方はまだあるのですが、そこまでいくと長く&細かくなりすぎるので省略します。一番基本的な見方や考え方は今述べたとおりなので。

 

こうして「子どもが先、指標が後」として子どもの状態をプロットしていき、それを前回述べた「指標が先、子どもが後」の学習曲線による予測と重ねて分析すると、現在の状態や今後の予測についてより確率の高い見立てや見通しを立てることができるようになります。

 

株というと「ギャンブル」のように考えている人も多いため、この株価チャートの表記を子どもの成長の見方に転用することに対し、「子どもの成長をギャンブルのように考える気か?」と受け取る人もいるかもしれません。ただ、ここでは株がギャンブルか否か、子どもの成長がギャンブルか否かということを論じているのではなく、単純に「株価チャートの表記の仕方が、通常のグラフより子どもの成長推移を把握するのに適している」というだけに過ぎません。

 

通常の折れ線グラフでは1日内での上下の動きを表記できないけどローソク足ならそれが可能であり、また「指標に子どもを当てはめる(指標が先、実状が後)」ではなく「子どもの成長推移に指標を当てはめる(実状が先、指標が後)」という考えをするにも適している、というように。「使えるものは何でも使う」ことと、「ゼロから何かを創り出すより、すでにあるものを転用/応用/連結する方が容易で確実」が私の信条なので(笑)

 

さて、今回紹介した株価チャートというのは株取引では「テクニカル分析」と呼ばれます。株取引にはもう一つの考え方として「ファンダメンタルズ分析」というのがありまして、次回はそちらについて少し紹介して、今回のシリーズの最後としたいと思います。