トルコの地震について

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トルコの地震の緊急報告会を聴講しました

 

今日は自分用の備忘録な感じです

 

 

先日、今回のトルコの大地震について、防災学術連携体の主催で、現地トルコのファティ・スチュ先生のお話を聞く機会に参加しました

 

Prof. Fatih Sutcu(ファティ・スチュ先生)

イスタンブル工科大学助教授

東北大にて博士号取得、東工大客員教授等を歴任

専門は耐震構造、免震構造、制振構造

専門用語は若干間違った日本語になってるところはありましたがほぼ完璧

日本語でお話してくださいました

 

 

まず今回の地震について、M7.8、M7.5の2つの大地震をはじめとする6000を超える地震が起こっている大地震です。

 

トルコは日本と同じように4つのプレートが複雑に入り組んでいるそうです。今回はそのプレートの境界部で起きた地震です。

 

・200kmにわたる横ずれ断層(最大滑り量は11.2m)

・1923年の関東大震災に近く、過去の大きな地震の中では 

 1906年のサンフランシスコ地震に最も近い

 

横ずれってなんじゃい?という話ですが要は上下にずれるのではなく2次元的にずれるということ

こちらのページの画像がわかりやすいかと

活断層とは何か | 国土地理院 (gsi.go.jp)

 

 

断層直上の写真も何枚も見せていただきましたが、横にもずれていたし、隆起して上下にもずれた部分もありました

 

 

なぜこれほどの被害になったのか?

 

1.現地の耐震基準

ニュースでも言われていますが、今回の地震で被害の大きかった建物のうち、90%は2000年以前の基準で建てられた、日本でいういわゆる旧耐震(日本だと1981年以前)の建物。

 

古い基準で建てられた崩壊した建物の写真を見ましたが、コンクリートの柱が地震が来た時に横からの力に抵抗するように配筋されている鉄筋が全然入っていませんでした。スカスカ。

 

 

トルコでは1999年の大きな地震で2000年に法規の改定があって、その後2007年にも改定されているそうです。

 

2000年以降に建てられている建物の被害は小さく、大破や崩壊に至っている建物は全体の10%だそうです。

やっぱり耐震診断・耐震補強大事!!!

 

2000年以降で大破となっている建物は、大きな原因が2つ

・1つはトルコでは、建物は隣同士、隙間なく建てられていて、地震で大きく揺れて、建物同士がぶつかって壊れた

・1つは、基礎設計の問題。地盤が液状化して、杭が打たれていなかった建物が足元から倒れてしまった

 もしくは液状化ではなくても、大きな地震の揺れで基礎から持って倒れてしまった

 

ニュースで少し耳にしましたが、施工の問題(いわゆる手抜き工事)みたいな物件の数は実際はそれほど多くないそうです。

 

 

2.地震の大きさ

内陸型の地震では、今回の地震は世界最大級の地震でした。

日本の基準では速度でいうと、50kineで設計されています

(50kineの地震でも倒壊、崩壊しない)

今回のトルコの地震で観測されたのは170kine

3倍以上でした

 

ちなみに過去の日本の地震だとこんな感じです。

兵庫県南部地震   (1995):112kine(神戸海洋気象台)、169kine(JR鷹取)

新潟県中越地震   (2004):148kine

東北地方太平洋沖地震(2011):106kine

熊本地震前震    (2016): 92kine

熊本地震本震    (2016):133kine

北海道胆振東部地震 (2018):158kine

 

 

地震の被害はエネルギーに相関するので、最大速度が大きいと被害も大きくなるという理屈です

 

 

3.2度の大きな地震

熊本地震の時もそうでしたが、トルコでも繰り返し地震に対する設計はされていません。最初の地震でダメージを受けた建物が、そのまま2回目の地震を受けてしまうと、損傷した部分は力がないので、簡単に壊れてしまいます。

 

先生も、この誘発される地震に対してはどのように対応すればよいのか大きな課題だと仰っていました。

 

個人的には、建物自体の強さでカバーするというよりも、地震に対する行動として、ある程度の期間、避難するなど社会の仕組み的なものが必要な気がします。

 

 

以上、3点が大きな理由として考えられるようですが、一方でほぼ無傷、その後も問題なく使用できた建物もあります。

それが、”免震の病院

 

 

免震建物の今回の地震における状況

大きな被害がでた地域で、免震の病院が6棟あったそうですが、いずれもほぼ無傷

 

地震後、すでにトルコ免震協会のエンジニアと各大学の先生方との調査チームで各病院の地震の被害状況を調査されているそうです。

 

・トルコの免震装置は球面滑り支承(積層ゴムではない)

・柱頭免震、基礎免震、全てで効果が発揮された

・地震計などは設置されておらず正確な記録はない

・ただし、球面滑り支承なので、免震装置の中をカメラで確認すると、どのくらい動いたのかは球面の傷(マーク)を見ると分かり、約30㎝位動いたそうです(上面15㎝、下面15㎝)

 

 

ちなみに、トルコで採用されていた球面滑り支承は高価で、免震装置の基数が多いとかなり高額になります。日本ではあまり採用されていませんが、海外では今回の病院などのようにある程度お金をかけられるところでは、高くてもがっつり使っているようです。

 

 

被害の一番大きかった地域の中でも、Erzinという町には被害が本当に少なかったみたいで、Erzin市長曰く、基準に満たない建物は建てさせないと旧耐震の建物も含めて耐震化については厳しかったそうです。

 

 

 

ひとまず、こんなところですがイスタンブールでは今回の地震被害を受けて、『耐震診断、耐震補強』と人々が大騒ぎだそうです。

 

それはそうですよね。

本当にこんな被害が起こらない世界になってほしい

免震が効果があるとわかっているなら、自動車の自動ブレーキのように標準装備になっていけばいいのに。

 

国と経済界が連携して、免震装置を安価に導入できるようになったら、本当の意味で人々が安心して暮らせる地震に強い国になっていけるんじゃないかなぁ

 

なんてそんなことを考えました。

 

 

 

ちなみに今更ですが、私が建築の世界に戻ってきたのは2011年の東北の震災がきっかけです。

大学まで建築を学んできたのに、無力だなぁ、なんにもできないんだなぁと当時打ちのめされて、何か力になりたいと思ったんです。

 

 

ところどころ、ある程度確認はしていますし、私もこれを仕事にしてはいるので、おかしなことは言っていないと思いますが、あくまで個人ブログとして記録しています。

 

正確な情報(新しい情報が更新される可能性もあります)については専門の機関による情報をご参照いただければと思います。

 

 

いつ見えなくなってしまうかわからないのですが、今のところまだ残っているので、もしご興味があればご覧になってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

その他、ここからは更に備忘録です

(質疑のメモなど)

 

□旧基準の建物

・柱の帯筋が少ない、かつフックがない

 →簡単にせん断破壊してしまう

・主筋に丸鋼をつかっている

 

・今回のトルコの地震では柱のせん断破壊がほとんど

・フラットスラブ構造が多いが柱が細くスラブ厚が厚いため、ほぼ柱破壊

 →層崩壊が連続してパンケーキクラッシュになる

 

 柱の帯筋について

 最新の基準ではどのようになっているのか?

 

 2000年~ 異形鉄筋、フック135、ピッチが厳しくなる

       接合部80㎜ピッチ

       (仕様規定)

       2000年、2007年の改定で厳しくなった

       現状はせん断破壊に強い建物になっている

 

 

□コンクリート強度(in トルコ)

~2000年 住宅   8~10Mpa →Fc8~Fc10

2000年~2018年 16Mpa    →Fc16

2018年~     25Mpa        →Fc25

 

(日本はFc21~24が一般的かな)

 

 

□道路、橋梁などの被害について

・トルコも建築と土木が完全に分かれている為、今のところ橋梁、トンネル、道路の被害状況は正確には把握していない

・土砂崩れもあったがトルコ土木協会に確認する

 

□トレーニング(震災訓練)について

訓練はやってない

 

□地震力については、設計基準に比べると大きなものだったが、2000年以降の建物については、現行の基準のレベルで概ね問題がないと考えている

(崩壊、倒壊には至っていない)

 

□耐震補強について

2000年以前の建物の耐震補強については?

この地域では500年地震がなかった

→特に住宅は耐震補強はしていない

→住宅以外で耐震補強した建物は残っている

 

 

□パンケーキクラッシュの建物について

・フラットスラブ構造のものが多いのか?

・RCスラブの厚さはどのくらいで設計されているものが多いのか

 

→柱のサイズは鉛直荷重のみで設計されている

→耐震壁はほとんどない

→フラットスラブはせい250㎜、幅600㎜

 フラットスラブの方が柱よりは強い→柱が壊れる

→上階と下階の柱の主筋がつながっていない建物もある

 

 

□補修が可能かどうか、今後住み続けられるか

残っている建物をどうするのか、そのような体制はどうなっているのか(応急危険度判定)

 

・トルコの国交省のようなものがあって、省のエンジニアと大学の先生で災害地域で被災建物の区分を行っている

・小破、中破・大破・崩壊

・大破・崩壊は壊す

・小破は自分で補修する

・中破は一旦修理して、それから耐震診断をして判断する

 

 

□被害状況

<目立った被害>大破・崩壊

パンケーキ状の被害

柱梁(スラブ)接合部の破壊

 

<その他の被害>

中破→梁の曲げクラック、柱に小さなせん断クラック

   多数

小破→非構造部材の被害程度

   多数

 

・建物は問題ないが基礎の問題で傾いている建物

・衝突する建物(隣同士の建物が)

 →連続して建てている建物は、法律上は10㎝の隙間を作る必要があるが、ほぼくっついていて、衝突して壊れている

 

 特に2回の地震ではお昼だったため、2つの建物がぶつかり合っている動画がたくさん撮られている

 

<高層建物はあったのか?>

災害地域では一番高くて16階程度

(トルコは71m以上が超高層)

14~16階の建物は崩壊していた、基礎の問題が大きい

建物がねじれて層崩壊している


 

今回の報告会は緊急開催であったが、ZOOMで600人(質問可)+YouTube(閲覧のみ)を超える参加者だった

各大学の先生も多数参加していて、とにかく質問が途切れず時間いっぱいまで質問が続いていた

 

国際的に知見を出し合って交流していくことが世界の被害を少なくしていくのではないか

 

とのファティ・スチュ先生のお話は、本当にその通りで今回の地震で被災された方のご冥福を祈りつつ、これを教訓に世界がみんなで経験をシェアして被害を少なくしていけたらと思いました。