成年後見と住所② | 成年後見日記

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前回の「成年後見と住所」の続きです。

 

前回、被後見人が介護老人保健施設(老健)に入所したり、病院に入院したりした場合に、住民票上の住所を置く場所がなくなることがあると書いたところ、

 

同職の方から私は老健と話し合って、住所を異動させてもらいました。」というコメントをTwitterにいただきました。

 

つまり、同じ老健でも、住民票上の住所を置かせてくれるところと、置かせてくれないところがあるということになりますが、

 

どうしてそのような違いがあるのでしょうか?

 

ネットで検索したところ、老健や病院に住民票上の住所を置ける根拠として、「国民健康保険質疑応答」を挙げている方がいましたので、国立国会図書館で「国民健康保険質疑応答集」を閲覧・謄写してきました。

 

「国民健康保険質疑応答集」第二章被保険者 第二節住所(p.447)

 

老人ホーム入所者であった者の入院が一年に満たぬ被保険者の住所について

 

(問) A町のB養護老人ホームに入所していた甲は、C市の病院に入院して三か月経過しました。そこで、B養護老人ホームは甲に対する入所措置を解除しました。ところが、病院の診断では、甲の入院期間は一年に及ばないことは明らかです。この場合の甲の住所はどこにあると解すべきでしょうか。

 

(答) 甲が家族を有さない単身の老人であれば、甲の住所は病院にある。

  甲に家族があれば、具体的事情によって異なってくる。例えば、家族との関係が密接であるなど、甲が退院すれば家族のもとへ帰るであろうような事情があるような場合であれば、甲の住所は家族の居住地にあると解される。これに対し、家族があっても、単身の老人と同様の実態にあると認められる場合には、たとえ入院期間が一年に及ばないことが明らかであっても、当該病院に住所があると解することが妥当である。

 

この質疑応答は、国民健康保険法第5条の被保険者の住所の認定に関するもので、直接的には住民票上の住所の認定に関するものではありません。

 

(国民健康保険法)

第五条 都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。

 
もっとも、「各法令における住民の住所は、地方自治法及び住基法の趣旨にかんがみて、各種行政の中で一致した解釈をしなければならず、また民法第22条に規定する生活の本拠として理解されるので当然に一致すべきものである。」とされています(「住民記録の実務」(日本加除出版) p35)。
 
そうすると、この質疑応答の考え方は、住民票上の住所の認定にも及ぼすことができると言えるのではないでしょうか。
 
また、この質疑応答は病院に関するものですが、老健についてもその趣旨は妥当すると言えるでしょう。
 

では、どうして、同じ老健でも、住民票上の住所を置かせてくれるところと、置かせてくれないところがあるのでしょうか?

 

①現場がこの質疑応答を知らない。

②「家族を有さない単身の老人」「家族があっても単身の老人と同様の実態にある」という認定について厳しい・緩やかの違いがある。

ということが推測されます。

 

私たち後見人としては、老健や病院から「住民票上の住所は置けない」と言われた場合に、簡単にあきらめるのではなく、粘り強く説明していくことが必要になるでしょう。

 

今後、家族のない高齢者の方が後見人を必要とするケースは増えていくと予想されます。

 

後見人個人の努力に委ねるのではなく、住民票上の住所の認定についても上記質疑応答と同趣旨の通達を出す、上記②の認定を緩やかにする、住所を置く場所がない場合に前住所を職権消除しない等の措置が必要ではないでしょうか。

 

(東京ジェイ法律事務所 司法書士 野村真美)
 

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