『ホワイト・バレンタイン』 | 一寸笑閑話

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日常のなかの、考えや、思いつきを書き散らしています。

 
『いま、東京駅に着いた。たぶん、終電に間に合わないな、北千住までは常磐線で行けそうだから、そこからタクシー捕まえるよ』

 そうメールが来たのは、2月14日、23時58分。
 
 先週末、2月14日のバレンタインは、関東は大雪で、前週7日に降った雪よりも、積もっていました。

 3階西角部屋にあたる私の住むマンションは、ほかの部屋とちがって、屋根がありません。
 屋根がない、って、少し語弊がありますね、玄関上のルーフがない、って意味です。
 つきあたりの角部屋にありがちな、玄関前が広いスペースになってて、廊下は隣の302号室でおしまい。
 大人の歩幅で4歩もない、ほんの2mくらいの距離だけど、雨雪のときは傘をさします。
 だから、雪が吹き溜まるには、ちょうどいい角部屋なのでした。

 昼すぎに 友人の会社も帰宅命令が出たとかで、午後14時には 帰ってきていました。
 小学校も、時間割短縮で早帰りになるだろうか、と 予定をキャンセルして待ちましたが、結局 通常通り、6時間授業でした(笑)。
 夕方から人の行き来もなくなり、陽が落ちても、降った雪の白さが明かりとなって、とても明るかったです。 
 夜9時ごろ、車のワイパーを上げに玄関を開けたら、――正確には、開けようとしたら――ドア前に積もった雪で、なかなか開かず、私は 玄関前の雪かきをしました。
 
 『新幹線、30分遅れだよ。着いたら連絡する。』

 …さっき、そうメールが来ていました。


 部屋は エアコンのおかげで、20度、快適でした。
 夕飯は、寒いから、「鍋ちゃんぽん」。お腹が空いたら、いつでも温めて食べられるように、ってことで、ズン胴鍋いっぱいに作りました(笑)。

「ねー、ママ、今日はスケート観るんだっけ?」 

 4歳の末っ子が聞いてきました。

「そうだよ。夜中だから、さっちゃんは寝なさいね」
「やだっっ! さっちゃんは『ねんこ』しないもん、きょうは とくべつな日だから、起きてるんだもん!」
「そう? じゃ、頑張ってごらんなさいな。寝たら運んであげるから」
「ねないもん!(怒)」
「わかったわかった(笑)」

 発売したばかりの、幼児雑誌『わんぱくぶっく』を抱えながら、ソファに どっかと腰かけました。
 部屋のカレンダーには、2月14日にしるしがつけてありました。 

「パパは、何時ごろ帰ってくる??」

 宿題とバイオリンの練習を終えた息子が 3DSから目を離さずに聞いてきます。

「どーせ、夜中だよ。12時すぎだよね、ねえ?ママ?」

 借りてきたマンガをソファに寄り掛かって読みながら、やはり目を離さずに、お姉ちゃんが私の代わりに返事をしました。

「ちびっこは、寝とけよ」
「…なんで、にーに(お兄ちゃん)に寝ろ、って言われなきゃなんないの!あたしは『ちびっこ』じゃないもん!」
「おもらしするヤツは、『ちびっこ』だよ」
「うるさい、うるさいっっ!にーに なんか、だいっきらい!」
「お~、お前に嫌われても困らないもんね」

 毎日、くだらない弟妹ゲンカをしても、結局は 一緒に遊び、笑って、布団に入り、次の日を迎える。
 私の毎日は、いつも何かに追われていて、予定がギリギリで、余裕というものがありません。
 いつも、せわしない生活なせいか、予定外に時間が空くと、手持ち無沙汰になります。

 本を読んでみる??

 お姉ちゃんが借りたマンガ、面白くなかった…(笑)。
 最近のマンガ、みーんな似たような話ばっかりで、昔 感じたような ドキドキ感、まったくなかったです。 
 それって、私がオバサンになった、ってことかな…(^_^;)

 時計を見ると、24時40分を過ぎたころでした。

(25時には着くかな…)

 マンションの非常階段から駐車場をのぞくと、車が スキー場にいるみたいに 雪で てんこ盛りになっていました。

(えーっ、さっき、ワイパー上げたときは ぜんぜん積もってなかったのに。…車を屋根あるとこに移動させとこうかな…)

 雪かき用の身支度をして下に降りると、先客がひとり、音楽聴きながら雪かきしてました。

「きゅうに降ってきましたね」
「こんばんは、これから主人が帰ってくるらしいので、車を移動させておこうかと思って」
「車を出すんですか?」
「あ、迎えには行きませんよ、スタッドレスタイヤですが、この雪じゃ、さすがに無理です。タクシーにするそうです」
「そうですか、じゃ、スコップ、要ります??」
「ありがとうございます」

 すでに30㎝近く積もっていて、真夜中で誰の足跡もつかない雪をどかすこと1時間、ちっとも主人の着く気配はなく、雪は あとからあとから、どんどん積もってきます。
 エンジンかけたまま、車の周囲と前方の雪をどかしますが、フロントガラスには あっという間に雪が吹きつけられ、すぐにワイパーがきかなくなりました。
 雪をどかしては積もる、また雪をどかす、…そんなことを しばらく続けていたら、またメールがきました。

『タクシー、やっと乗った』

 26時14分。
 深夜2時をまわったところでした。
 腕も限界に近かったので、車を 数メートル離れた 屋根つきのスペース(ふだんは、来客用駐車場)に動かし、部屋に戻りました。

「ただいま。…なあに、まだ起きてるの?!」

 なんと、3人とも起きていました。
 末っ子は、夕方に少し寝たせいか、まだパッチリ(^_^;)
 
「パパは? まだなの??」
「いま、タクシー乗れたみたいだから、あと30分くらいじゃないかな」
「ママ、スケートはじまるよ」

 テレビは、フィギュア・スケートの男子フリー演技が始まるところでした。
 ほどなく、玄関の外でバタバタと雪を払う音がしたかと思うと、

「…ただいま」
「おかえりなさい!パパ!!」
「ええっ、さっちゃん、まだ起きてたの?!」
「パパ待ってたの」
「夜中だよ、元気だなあ…(^_^;)」

 金曜日だし、
 大雪だし、
 オリンピックやってるし、
 パパ帰ってくるし…
 子供たち、興奮して眠れなかったんだよね(笑)。
 とうとう、羽生選手が金メダルを獲得したのまで見て、全員寝たのは明け方5時…(*_*)

「…ちょっと、どうして帰ってきたわけ?? 雪がすごいから来るな、って言わなかったっけ?」

 大雪に、しかも夜中に、タクシーで、なんて、どうかしてる。
 釈然としない私をよそに、主人が涼しい顔で言いました。

「帰る、って言っただろ?約束は、守らないとね。…さて、子供たちが言ってる『チョコケーキ』とやらは、どれ?新幹線のなかで、オニギリ食べたきりでさ、腹ぺこなんだよね」

 来るな、って言ったら、必ず来るという、主人なんでした(--;)