PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
2023年12月4日(月)18時30分開演
森ノ宮ピロティホール

キャスト:中井貴一、藤原丈一郎、永作博美、村杉蝉之介、清水くるみ、木下政治、金子岳憲、奥田一平、たかお鷹、今井朋彦
作・演出:G2


始まりは2019年春、新生PARCO劇場のオープニングシリーズとして、ゼロから打ち合わせを行った、とのこと。
G2さんと中井貴一さんがどんな作品にするかを話し合われたそうで、貴一さんのご希望がなんとも素敵。
曰く「ライトでオシャレな男と女の物語」で、「しかしながら、心にしっかりと残る」「けれど小難しくなく」さらには「台本上はベタっぽく見えるが、いざ観劇するとベタではない」だって。
とても抽象的なこのご要望をカタチにされたのがG2さんで、タイトルが決まったのは2020年春だったそうです。
折しも新型コロナウイルスが蔓延し始めた頃に着々と戯曲が書き上げられ、稽古を終えていざ上演の手はずが整った2021年春、その威力が衰えない件のウイルスのため、全日程中止の憂き目に…。
振り返れば2019年の年末からの約3年は、全世界の誰もが、何らかの形で辛い想いをした日々でした。
エンタメ業界は「娯楽」であることから「冷遇」されて、それを生業にされている方々は本当にしんどい日々だったと推察します。
お客さんである私にしても、そりゃ、なくても生きていけるんだけど、人生の大きな楽しみをことごとく奪われて、チケットの払い戻しは20件以上で、滅多に取れないチケットだったりして、文字通り泣きました。

それはともかく、いろいろな想いを詰め込んで構想から約4年、G2さんも貴一さんもようやく日の目をみることとなったこの作品に寄せる想いは並々ならぬものがあったのではないかと思います。
で、期待は裏切られませんでした。
とても良いお芝居だったと思います。

とある地方都市の小さな映画館「ムーンシネマ」が舞台で、セットもその映画館のロビーが基本。
主人公は東京でフリーの映画プロデューサーをしている並木憲次。それなりにヒット作は手掛けているが賞には恵まれず悶々と過ごす中、長らく交流をしていない父の訃報が届く。
ムーンシネマは父が大切にしていた映画館で、ボランティアスタッフの瑞帆や特別会員の涼太から熱烈に愛されている。
憲次は映画館を売り払おうとするが、実はこの映画館を相続したのは瑞帆だという事実が判明する。
瑞帆は市の職員で、ムーンシネマをまちおこしの拠点にしようと張り切っているが、市では別の動きがありすこしきな臭い。
まちおこしのメインイベントは気鋭の映画監督の榊による、この市を舞台に撮る映画作品。
榊とは因縁がある憲次は複雑な心境で若き日の自らと父の日々を思い出す。
そこに別れた妻の万智子が現れ、市の職員による、なんらかの不正を調べている様子。
いくつかの面倒くさい事情が重なって、ややこしい話になっていくが、父との確執がある行き違いであったという真実を知り、憲次はこれからのことを真剣に考え始める。
そして露になる、数々の事実とそれぞれの思惑。
映画館はどうなるのか、憲次はどうするのか?!

登場人物は多くないのですが、なかなか複雑な構図で、一見バラバラなピースが次々と回収されてひとつに「できあがっていく」感じが味わえて、面白い舞台でした。
会話の随所に「笑い」が取り入れられ、なにわ男子の藤原くん、とても頑張ってられたと思います。
声が良く通り、表情とか、少し大げさ目なアクションとか、存在感があってよかった。
中井貴一さんと永作さんのカップル(元)もとても自然で素敵だったし、わけアリ気な雰囲気を漂わせる人々がなかなか名演技で、騙されそうになりました。(笑)

この作品を観たあとに、村杉さんがちょっと残念なことになり、とても個性的で良いお芝居をする人だけに複雑な想いでした。
できればまた、舞台に立っていただければいいなぁ。

今や全国的にシネコンが主流で、それが悪いわけではないけれど、地域に密着して地元の方々から愛されるような映画館ってとても魅力的だなぁと思います。
つまりは経営が成り立たなくなりやむを得ず姿を消していくんでしょうけれど…。
この作品で、主人公のお父様が人生をかけて映画館を運営される姿にはとても好感が持てました。
もちろん、その妻であるお母様との素敵な関係性があってこそですが。
回想シーンの微妙な二役をこなす役者さんたち、流石ですね。
場面転換も含めて、同じセットを上手に使う手法に感心しました。

残念な所業をしてしまう人、夢を追いかける人、胸に何かを抱えている人、それぞれの想いが静かに集まる場所。
大切に想う人や場所やもののために頑張ることができるって、いいなぁと思います。
心温まる素敵なお芝居でした。