PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
ANY DAY NOW
2023年11月3日(金・祝)15時30分開演
豊中市立文化芸術センター 大ホール

キャスト:東山紀之、岡本圭人、八十田勇一、まりゑ、波岡一喜、綿引さやか、斉藤暁、大西多摩恵、エミ・エレオノーラ、矢野デイビット、穴沢裕介、丹下開登(トリプルキャスト)、高木勇次朗、シュート・チェン、棚橋麗音、小宮山稜介、山西惇、高畑淳子
MUSICIANS:横山英規(Bass)、テラシィイ(Guitar)、松田眞樹(Keyboard)、松本淳(Drums)
翻案・脚本・演出:宮本亜門
原作:トラヴィス・ファイン

2021年の初演を同日の昼夜公演連続で観ました。
再演があれば観たいと思っていて、今回の再演にやった~っと思ったのも束の間、豊中かぁ…。
南河内の住人からしたら、梅田と豊中はそれほど違わないのもその通りですが、何となく遠いからどうしよう・・・、と二の足を踏んでいました。
次の再々演が梅田かもしれないから、見送ろうかな、という気持ちになったところ、突然の東山さんの年内引退の発表…。
これがショーゲキ過ぎてくらくらしました。
ってことは、再々演があったとしても東山さんじゃないじゃん。
でもチケットエントリーはほぼ終わってるし・・・、と諦めかけていたところ、友人が生協でチケットを入手してくださり、晴れて再演を鑑賞することができました。

演出は初演と同じ宮本亜門さん、キャストは18人中10人が続投、セットを含め、初演からの大きな変更はないように見えました。
主演のおひとりポール役が初演の谷原さんと雰囲気の違う岡本さんで少し若い感じなのでどうなるのかなぁと思っていたら、とても自然にハマっていました。
熱い情熱と、愛がある。

この作品は、アメリカで2012年に上映された映画〝Any Day Now″の舞台化。
日本でも2014年に同映画が上映されたらしいのですが、当時の社会のLGBTQを認識度を反映してか、当初は単館上映(全国で1館のみ!)だったとのことです。
今の社会が当時とどの程度違うのかはよくわかりませんが、LGBTQというキーワードに違和感がないくらいにはなっているのかもしれません。
とはいえ、わざわざそういう言葉で取り沙汰しなければならないほどには、いろんな偏見や差別がある、ということでもありそうです。
舞台初演は2021年、今回新型コロナウイルス原因のさまざまな制約を経て、3年ぶりの再演にこぎつけたとのこと。
原題はボブ・ディランの"I Shall Be Released"のワンフレーズで、「今すぐ」というニュアンスらしい。
そう、私が解き放たれるのは、遠かったり近かったりする未来じゃない、まさに今この時、すぐに、なのだと。
これは当事者には切実な願いであり、当事者でない者にとってはよくわからない願いなのかもしれない。

物語は1979年のカリフォルニアが舞台。
ショーダンサーのルディと、ゲイを隠して生きる検察官のポールが恋に落ちる。
ルディの隣室の薬物依存症の母親が逮捕され残されたダウン症の少年マルコをルディたちはこっそりかくまうがすぐに施設に送られてしまう。
マルコを合法的に自分たちの家族として取り戻し、幸せな3人での生活を始めるが、それは長くは続かない。
再びマルコと引き離されたルディとポールは、再度法に訴えて幸せな生活を取り戻そうとする。
彼らの切なる心の叫びは法曹の人々の心を動かせるのか、施設で彼らを待ち続けるマルコの願いは叶うのか…。

この時代には社会から「認められて」いなかった、ゲイの存在。
それは同性愛全般も同じで、偏見だけでなく差別が横行していた。
ダウン症に関してもその実際を正確には理解されていなかった節がある。
・・・、現代社会の人々のほとんどが「正確に理解」できているかどうかは・・・、例えば自分自身、今一つ地震はないけれど…。

ルディとポールとマルコは、確実に「愛」で繋がっていた。
なぜ、「愛」だけではダメなんだ?!
闘うルディとポール、そしてマルコ。
悲しすぎる結末。
それでも救いはきっとある、そう信じている、そんなメッセージが聞こえるような舞台でした。

ルディの人生の中での大きな存在である職場、そこで働く支配人や踊り子たち。
その表現は圧巻でした。
ダンサーさんたちのダンスはキレがあり美しく、見惚れるほどに素敵でした。
東山さん含め、クオリティの高いダンスだと思います。
ダンサーさんたちの、仕事に対する誇りを強く感じました。
そこにルディの居場所が確かにある、と思います。

子役さんの演技がまた素晴らしく、恐らく初演と同じ役者さんだと思いますが、実際にダウン症の方が演じられていて、リアリティがありました。
ダンス、台詞、表情など、役者さんとしての技量も高く、感情移入してしまいました。
マルコはとても素直でまっすぐで、健気で本当に泣けました。
悲し過ぎる結末…、もう少しなんとかならんのか、とも思いましたが、原作はもしからしたら実話ベースの映画だったのかもしれません。
それでも・・・、舞台の最後くらいはHappy endを観たかったかも、と思わずにはいられませんでした。
ただただ、愛しい人と普通に幸せに暮らしたかっただけの3人なのに。

恐らくだけど、世の中から(人間の世界から)偏見も差別もなくならないと私は思っています。
でも、傷つけるのも、制度を整えないのも、社会として受け入れないのも、それは誰に対してもダメなことだと思うから。
人間の社会が少しでもマトモになって欲しいと切に思います。
それで、自己責任を果たさずに甘い汁を吸う人間も多いところが本当に気に入らないと思います。
自分がどの立ち位置かによって感想は変わるのかもしれないけれど、人は皆、他者から不当に傷つけられたり虐げられたりしてはいけませんっ!
そして、人は皆、他者を不当に傷つけたり虐げたりしてはいけないんです。言葉を含め、暴力は否定されるべきだと強く思います。

どんな展開かしっていても、泣いて笑って見惚れて、ぐいぐい物語に入っていける作品でした。
そしていろいろなことを考えました。
やっぱり本当に素晴らしい舞台で、観てよかったと思います。
が・・・、東山さん以外のルディだと、観るかどうか悩むような気もします。
あまりにもハマり役だと感じたので。
作品と役者の関係ってなかなか奥深い気がしました。