KERA MAP #010
2022年12月9日(金)14時開演
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

キャスト:井上芳雄、緒川たまき、ともさかりえ、松尾諭、安澤千草、菅原永二、清水葉月、富田望生、尾方宣久、森準人、石住昭彦、三宅弘城、三上市朗、萩原聖人
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ケラさんの作品は、ついつい見たくなっちゃう。
KERA MAPは6作目のグッドバイ、7作目のキネマと恋人、8作目の修道女たち、9作目のキネマと恋人(再演)に続き5作品目です。
修道女たちは外せない用事と被ってしまい、1幕で出ちゃったので、最後まで見られず本当に残念。
DVDを買う決心をしたんですけどね。
KERA MAP10作目は、キネマと恋人の舞台、梟島(ふくろうじま)での物語、ですが、キネマと恋人の登場人物は出てこない。
同じ島の別の人々の物語。
でも役者さんは被っている人もいて、ややこしいことこの上ないじゃないの。
これもケラさんの遊び心のひとつかもしれませんが。

この梟島に住む人々が話す言葉(方言)はとても愛らしく独特なんですが、恐らくすべての役者さんが苦労されたんだろうと思います。
だって架空の方言ですからね、正解がわかりづらい。
まぁ、言葉って生き物ですから、正解じゃなくても大丈夫なんですが、特に緒川たまきさんの言葉がね、とっても素敵なんですよ。
声とか口調と、この方言の相性が良過ぎる。
サンドロヴィッチ夫人だけのことは、ある。

タイトルの「しびれ雲」は島の空に浮かぶ不思議な雲だそうで。
具体的にどんな雲っていう説明はないのですが、しびれ雲が空に浮かぶとその日を境に島の潮目が変わると言われているらしい…。
何かが変わる、何かを変える、しびれ雲。

時は昭和10年(1935年)頃のある秋の日、梟島のとある村では石持国男の七回忌の準備にその妻波子と波子の妹の千夏らが忙しくしている。
親戚筋も少しずつ顔を見せる中、千夏とその夫文吉は海辺で倒れている男を見つける。
けがをしているようなので、波子宅で介抱することに。
その男は村人ではなく、本人は自分の名前も年齢も出身地もわからない、記憶をなくしているようだ。
記憶が戻るまではと、文吉と千夏の家で居候する男に呼び名がないのは不便なので、波子は彼を「フジオ」と名付けた。
フジオは村のケーキ屋さんで真面目に働き、共に働く安江に淡い恋心を抱く。
波子は娘の富子のお見合いなどを気にかけつつ、婚家との付き合いについて考えている。
千夏は夫の文吉と喧嘩ばかりしてしまい、落ち込むことも多い。
やがてフジオの素性がわかり、小さなコミュティは騒然となる。

いくつかのストーリーが交錯しつつ、日常生活を描くように村の時間が流れていく。
それぞれの心模様が丁寧に描かれて、喜怒哀楽が独特な方言とともにダイレクトに伝わってくる。
当たり前のこととか、特別なこととか、それが生きている楽しみだったり時には苦しみにもなって…。
劇的な展開はないんだけど、それなりに波乱があって、でも収まって、空を見上げればそこには、みたいな。
この先、未来がなんとなく平和なような、幸せなような、いい感じのラストもよかった。

会話のそこここに「笑い」の要素がちりばめられていて、それは奇をてらったものでもなく、もちろん意図的な何かは仕込まれているんでしょうけれど、役者さんたちの力量が大きいのか、とても自然な笑いにあふれていて、全体的に楽しいトーンではありました。
人間関係のことですから、何かと疑心暗鬼になったりすれ違って落ち込んだりしますが、それも含めての、生きるって素晴らしいことかも、というところでしょうか。
パンフレットの作りが独特で凝っていて、読み応えがありました。
KERA MAP第11作も楽しみだ。