精神科閉鎖病棟で約20年前、数ヶ月研修生として働いていたときの話です。


Aさんはお人形さんのような大きな目で、私をじっと見て年齢を尋ねました。


『27歳ですよ』と答えると。


「良かった!私より年上!」と嬉しそうな表情をしていました。


その時の彼女は26歳。

身長は160cm、体重は30kg台と、とても細く弱々しく、色白でボブカットの黒い髪をしていました。

一見、中学生か小学生の様にも見える華奢さ。

とても同世代の女性には見えません。


なんで年上だと嬉しいのかな?

しかも一歳しか変わらないけど…

とその時の私は意味がわかりませんでした。


拒食症。

彼女は閉鎖病棟で私が来るもう数ヶ月前から入院していました。


医師からの指示されていたことは、病院で出される食事の8割以上を食べれなければ、鼻から管を入れ経管栄養を注入。それも、自己抜去しないようにナースステーションの中で見張られながらの注入。そして、食べた後、嘔吐はしないこと…などでした。


自分で食べようと思ったら食べる事も出来るのに…


私はその頃、神経内科で勤めていて難病の進行により口で食べたくても食べれず経管栄養より栄養を摂ってる方は沢山知っていました。

だので、鼻から管を入れ、栄養を摂っている身体機能には全く問題のない彼女を見て愕然としました。


嚥下機能の問題があり、口から摂取できない難病患者にとって経管栄養は生きる為の栄養。

同じく、心が受け付けず食べることのできない彼女にとっても生きる為の栄養。


彼女は、完食をした後に吐いたり、逆にカートに下げられた他の患者さんの残したご飯を盗み食べてしまったりと…なかなか行動は改善されず体重も増えませんでした。


結局3ヶ月の研修中彼女は退院することもなく、閉鎖病棟の大部屋で、ときには状態が悪く保護室で過ごしていました。


彼女は、体重を増やず成長しないことで永遠の子供でいようとしているように私には見えました。


20代と若く、色々と経験でき、輝け楽しい筈の時期なのに…


彼女のカルテをみるとバレリーナを目指し母と二人三脚で頑張ってきたとのこと、中学で挫折しその頃より過食嘔吐を繰り返し…母親との共依存。そのような事が書かれていた記憶があります。


もし、母親が娘の過剰な期待をせず、母親は自分の人生を楽しんでいたのなら…


彼女は大人になれたのでしょうか