1999年 日本映画

監督:森田義光 脚本:大森寿美男 原作:永井泰宇

出演:鈴木京香・堤真一・岸辺一徳・山本未来(現・未來)・樹木希林

   江守徹・国村隼・吉田日出子

 

1回や2回観たくらいじゃ到底理解できない複雑な人間模様です。

ただ、出演者が全員演技力が高く、脚本も巧いのでだらける部分が無く

イッキに観れますし、何度でも観れる作品だと思います。

1度は御覧になって欲しいです。

 

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【刑法第三十九条】

一、心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス

一、心神耗弱者ノ行為ハ其刑ヲ減軽ス

 

突然の雨に濡れながら走る小川香深(おがわかふか:鈴木京香)

着いた先は精神科教授の藤代(杉浦直樹)の事務所だ。

裁判所から依頼された精神鑑定の助手を頼みたいと言う。

 

裁判所から届いた事件記録に目を通す香深。

それによると、マンションの1室で妊娠中の妻・畑田恵(春木みさよ)と夫の畑田修(入江雅人)が惨殺されて、現場には血痕が付いた劇団員・柴田真樹(堤真一)の

ひとり舞台のチケットが落ちていた。

 

舞台上では、戦時中に同胞の死肉を喰って審判される男を演じている柴田がいるが、

突然舞台上で嘔吐する。

本番中、駆け付けた警察に連行され事情聴取される柴田だが、

「僕がやったんだと思います」「多分」

あっさりと、そしてあやふやに犯行を認める。

 

柴田には人権派の長田弁護士(樹木希林)が任命されたが、柴田との接見中に突然柴田の人格が変わるのを目の当たりにする。

おとなしい柴田から交代した狂暴な柴田に殺害の動機を聞くと

「殺すのに動機なんかいらねーんだよ」

地の底から沸いたような低い声で言った。。。

 

公判では、居酒屋で働く被害者の畑田恵と些細なことで口論となり、自宅まで尾行して押し入り、夫の修共々殺害に至ったとのこと。

その公判の最中に柴田の交代人格が現れて意味不明なことを叫ぶ。

 

これが精神鑑定に至るまでの流れです。

 

香深が事件記録を読みながら帰宅すると母親(吉田日出子)の様子がおかしい。

和室の座卓には食べた形跡がある2~3人前はありそうなお寿司の桶があるのに、

リビングのテーブルには山のような料理が並んでいる。

喋り方もおかしい。。。

連絡もせず夕飯を済ませて帰宅したことを責められた香深は、仕方なく食べることにしたが、母親も食べ始める。

「また食べるの!?」

 

※母親は摂食障害かな。太ってないので食べたら吐くを繰り返してそうです。

 細かい演技ですが、食べ始めて吐き気を模様してました。

 この母親とのふたり暮らしで香深は暗い性格なんでしょうが、母親がこうなって

 しまった理由も追々明かされそうです※

 

さて、柴田との面談の時がきました。場所は面談室です。

精神鑑定の前に、まずは生い立ちを聞く藤代教授と香深。

母親は幼い頃に離婚した為に記憶がなく、父親は2年前に病死。

現在は天涯孤独。

15才の時に父親と地元新潟の港町を離れ、そのまま父親とは別々に暮らすが、

10年振りに再会して一緒に暮らし最期まで看取る。

記憶がない期間もある。

父親の話になると、病院のベッド上で臨終間近の父親からの謝罪の言葉が

回想される。

 

~~~港町の浜辺で、体は土中に埋められ頭部だけの柴田真樹少年(吉田勇己)。

顔には口紅で落書きがされている。

一升瓶片手に、呑みながら棒切れで真樹の頭を小突く父親・利光(國村隼)

真樹はされるがままに、空を飛んでいる沢山のカモメを見つめていた・・・~~~

 

父親はこんな酷い虐待をしたことを詫びて逝ったのだ。

 

それから幾日もかけて色々な検査がされ、並行して柴田の関係者にも話を聞く香深。

たった1回観た舞台のセリフを丸暗記する能力や、毎日決まったメニューしか食べないなど知ります。

 

香深は真剣に柴田真樹に取り組み、思ったことを柴田に言います。

警察に連行された日、舞台上で吐いたのは「心因性嘔吐」じゃないか?

同胞の肉を食べるストーリーと事件は何か関係があるんじゃないか?

そして、入手した台本を読み出します。

 

すると、柴田の両手が激しく震え、ついに交代人格が現れました!

交代人格は藤代教授を突き飛ばし、一直線に香深の首を絞めます。

「あなたは・・・誰ですか?」

何もしないし話を聞くだけだと、藤代教授がなだめて交代人格を落ち着かせます。

 

交代人格の方の名前は【カモメ】

畑田夫妻を殺したのはカモメの方でした。

 

※埋められて身動きが取れない真樹少年が、カモメのように自由に飛びたいと

 思ったんでしょうね※

 

診断結果は【解離性同一障害】多重人格です。

それらは藤代鑑定として裁判で用いられますが、検事の草間(江守徹)は納得

できません。

次の公判で藤代教授の召喚を要請します。

裁判は多重人格の方向で進んでいきそうです。

 

        *              

 

香深は柴田真樹の故郷の港町を訪れます。

父親の利光の漁師仲間に話を聞きます。

母親が男を作って東京に逃げてからは飲んだくれては真樹を虐待してた。

埋められた時の傷が彼を変えたのではないか?

要因を探して歩きます。

 

問題の浜辺に着くと、空には沢山のカモメが飛んでいました。。。

 

        *

 

迎えた公判で、柴田真樹が解離性同一障害である根拠を藤代教授が語ります。

これまでのデータを元に説明します。

「交代人格は人間ではありません」

「人格の一部に過ぎません」

 

それでも草間検事には理解できません。

ーーーーーじゃあ、被害者を殺したのは誰なんだ???ーーーーー

 

公判を終え、香深は草間に声をかけます。

「教授の鑑定は間違っています」

「柴田は病気のフリをしてるだけ」

「詐病です」

根拠を求める草間に

「首を絞められた時、殺意を感じなかったんです」

※大分前から怪しんでいたんですね※

 

草間検事の要請で、小川香深による再鑑定を裁判所は認めます。

 

草間は香深に警視庁の名越刑事(岸辺一徳)を紹介します。

香深は名越から衝撃的なことを知ります。

柴田が殺害した畑田修は15才の時に少女を殺して無罪になっていた過去があったのです。 【刑法第三十九条】の適用で。。。

 

だが、畑田と柴田を繋ぐ線はなく、少女殺害の事件当時、柴田真樹はまだ新潟で

暮らしてたので、ふたりは全くの無関係なのです。

 

 

香深は今度は殺された畑田修の故郷の愛知県の犬山に向かい、地元警察で少女殺しの事件記録を読ませてもらいます。

 

被害者は小学1年生の工藤温子(古谷彩子)ちゃん。

加害者の少年・畑田修は温子ちゃんの前にも3人の少女を暴行してた。

温子ちゃんの亡骸は惨いもので、首を絞めて殺害後に死姦して、右手首を切断し、

その右手首で自慰行為に耽っていたとある。

 

遺体の第一発見者は当時中学2年生の兄・工藤啓輔。

山の中を一晩中探して無残な姿の妹を見つけたのだ。

犯人の畑田修はすぐに捕まったが、刑法第三十九条が適用され不処分となった。

 

香深は次に兄・工藤啓輔が通ってた中学校へ行く。

するとそこには名越刑事がいて工藤啓輔の足取りを追っていた。

当時の担任教師によると、事件後に母子家庭の啓輔は母親と引っ越してしまい、その後のことは知らないが、今年になって年賀状が届いて住所は分かると。

 

ーーふたりはそのまま門司の住所先に向かったーー

 

集合住宅の1室。

玄関から現れたのは工藤の妻の実可子(山本未来)。

中学からふたりは交際してたので実可子は事件のことも知っている。

事件後、母親と引っ越した啓輔だが、心労が重なった母親も程なく亡くなっていた。

啓輔にとって辛い記憶だ。

「だから、事件のことは触れて欲しくない」

言った側から夫の工藤啓輔(勝村政信)が帰ってきた。

 

啓輔の口は重く、

「事件のことなんてもうどうでもいいんだ」

「俺には関係ない」

念の為、名越は免許証を見せてもらうが、その男は確かに工藤啓輔本人であった。

 

一通りの調査を終え、香深はいよいよ柴田真樹との面談に挑みます。

 

今日の香深は様子が違います。

柴田の両手を自分の両手でベタベタ触ります。

「本当のあなたを見せて」

「来て」

妖艶に迫る香深ですが、どんな作戦なのでしょう。。。

 

柴田の両手が激しく震えます。

人格交代の合図です。

そして交代人格のカモメが現れました。

※人格交代と交代人格・・・ややこしいですね※

 

カモメは香深に襲いかかり、シャツを引き裂きます。

香深は挑発を止めません。

妖艶な声を出し続けます。

まるでSMシーンのようです。

「首絞めないの?」「絞めなさいよ」

俺にもアイツにも近づくな!

「随分優しいのね」

 

勃起までしてたのに結局何もしなかったカモメ・・・

この挑発は実験だったのです。

残虐に殺しができるカモメが何もしてこなかったのです。

香深は詐病を確信しました。

素の柴田真樹は心優しい人間だということも。。。

 

     *

 

香深が帰宅すると、テーブルには様々なケーキが山盛りでした。

母親に優しく声をかけます。

母親は、「今まで黙ってたけど・・・」

「お父さんがあの人を殺したのはお母さんのせいなの・・・」

香深の父親は殺人者だったのです。

 

     *

 

香深と名越刑事はとあるホームレスの集落に来てました。

ここは新潟を出て、離ればなれになった柴田真樹と利光親子が10年振りに

偶然再会した場所です。

 

父親の利光は故郷を出てホームレスになってたのです。

なんの為に故郷を捨てたのでしょうか?

真樹はなぜホームレスの集落に来たのでしょうか?

利光と仲良しだったホームレス仲間の手塚(笹野高史)によると、真樹は良い息子で、暫くするとアパートを借りて一緒に暮らしだした。

でも「息子が生きてた!」なんて面白いことも言ってたと。

 

「息子が生きてた!?」

※えっ!?息子が生きてた!?※

※真樹は死んでると思ってたの!?※

 

名越刑事曰く「死亡届けが出せない死に方だろう」

※どんな死に方!?※

 

柴田父子、新潟を出たのは一緒。

だが東京に着いた時には別々の暮らし。

父親は息子は死んでると思ってた。

香深は色々と考えますが、名越刑事の方はやはり警視庁のベテラン刑事です。

すぐにピンときたから香深にヒントを出したのでしょう。

ふたりは、

事件を起こした柴田真樹はニセモノだと推測するのです!

 

そして、拘置所の柴田真樹が壁に向かってブツブツ言ってます。

それはなんと!柴田真樹のプロフィールです!

柴田真樹はニセモノでした。

では、この男は誰?

ーーーそう、工藤啓輔でした!!!ーーー

 

工藤啓輔は、妹と母親との幸せだった日々を回想しながら、

柴田真樹のプロフィールを暗唱してたのです。

 

そして再び香深と柴田真樹(工藤啓輔)の面談

※柴田真樹のニセモノと推理はしても、まだ香深は工藤啓輔に辿り着いてません。

 視聴者だけが知ってる段階です※

 

香深は柴田(工藤)に自分ちの秘密を話します。

父親は国語の教師で、お酒の席で素行の悪い同僚教師と口論になり、相手を殺してしまいました。

翌朝、張り込んでた警察の前で車道に飛び出して撥ねられて死んだのです。

香深と母親は窓からその一部始終を見てて、今でも脳裏に焼き付いているのです。

 

香深が心理学を専攻したのは、父の最期の思考を知りたかったから。

※香深と母親が病んでる原因がついに明かされましたね※

 

柴田(工藤)の両手が激しく震えます。

カモメが現れて、作り話だ、嘘だ!と言う。

事実だが、嘘だと認める香深。

何か考えがあるのでしょう。

「何の為に嘘を吐くんだ?」

質問に質問で返す「あなたは何の為に嘘を吐くの?」

柴田(工藤)の眉がピクリとします。

 

返す言葉を失い、香深を見つめながらあの「悪夢の日」を回想します。

 

~~~14才の工藤啓輔は外で幼い妹・温子の遊びに付き合ってましたが、交際相手の実可子との待ち合わせで温子と別れます。

 

夕方、帰宅すると母親は夕飯の支度をしてます。

「温子と一緒じゃなかったの?」

不安を覚えた啓輔は家から飛び出し、遊んでいた山の中を探し歩きます。

警察も大人数で捜索します。

一晩中探して、朝になって変わり果てた温子を発見した時、啓輔の両手が激しく震えました。~~~

※人格が交代する演技の時と同じです。

 あの震えは本当に演技なのでしょうか?

 もしかしたら、この時のことがフラッシュバックしてるのかも知れません※

 

工藤啓輔がなぜ嘘を吐くか?

答えはこの回想にありました。

 

小川香深の鑑定結果は詐病です。

弁護側は【藤代鑑定】、検察側は【小川鑑定】で公判は進みます。

が、論理的根拠の乏しさと、法定で達者に話せない香深を見て、長田弁護士(樹木希林)は次回公判に藤代教授の召喚を裁判長に要請します。

それに伴い、香深は草間検事にあるお願いをします。

 

迎えた公判では、召喚された藤代教授が柴田(工藤)の受けたバウムテストという

心理テストの結果を元に理論的に多重人格を示唆します。

藤代鑑定では解離性同一障害で間違いないだろうと言います。

 

それに対し香深は「完璧に異常のある回答を作った」と対抗しますが、根拠のない言い分だと長田弁護士にしてやられます。

裁判長にも「下がってよろしい」と言われ、うなだれる香深。

そもそも香深は物事を理論的に話すことには長けていないのです。

 

そこで草間検事が裁判長に直訴します。

大根役者ばりに棒読みで。

香深が【お願い】したことだとすぐに分ります。

「心理テストや絵で何が分るのか理解できない」

「裁判長のその目で見て頂きたい」

と、法廷での公開鑑定を要請したのでした。

前代未聞のことです。

 

     *

 

名越刑事はあるアパートに来てます。

大家さんが鍵を開けます。

生活感のないこざっぱりとした部屋の押し入れを開けると、

そこには大量の精神科関係の本があり、どの本にも付箋がびっちりと貼られ、

入念に勉強した様子がうかがえます。

恐らく柴田(工藤)の隠れ家でしょう。

 

名越刑事は地道に捜査を続けて、辿り着いた答えを柴田(工藤)に話します。

いつもの面談室です。

 

【動機のない殺人】それがおまえの目的だ。

その為には戸籍を変える必要があった。

戸籍を金で売る相手を探している内に柴田利光(國村隼)と出会った。

そこでおまえは息子になりすました。

本当の柴田真樹は死んでいることを知り、生きていたと思いこませたんだよ。

証拠はない。

利光が死んだ以上、永久に謎だ。

それと、おまえが仕立てた偽の工藤啓輔と実可子が姿を消したよ。

 

※工藤啓輔がホームレス集落を転々としてたのは、条件の合う戸籍を探して

 いたからなんですね※

 

名越は更に柴田(工藤)を追い込む。

妹の残忍な殺し方や犯人の畑田修の明るい人生を語る。

不処分となり堂々と外を歩き、大学も出て就職もして結婚もした畑田修。

工藤啓輔の方は妹を殺され、心労の母親まで亡くし、地獄から抜け出せない人生を歩んできた。

「もう十分だろう。関係ない畑田の女房まで殺したんだから、これ以上の復讐はない     

 だろう」

 

名越の話に工藤は回想する。

畑田修の不処分を聞かされた時のこと。

母親が病院で息を引き取った時のこと。

実可子が側にいてくれたこと。

その実可子とダム川の前でうっすらと微笑みながら見つめ合ったこと。

 

※事件後、啓輔と母親は引っ越していますが、母の臨終に実可子もいました。

 なので、そう遠くに引っ越したわけではなさそうです。

 ダム川での見つめ合いは、誓いと別れだと思います。

 啓輔は実可子に妹と母の復讐を誓い、実可子も協力を誓った。

 その微笑みだと推測します。

 そして啓輔は愛知県をひとりで出て行くのです。

 まだ14才の啓輔が、地獄の中で10年以上も彷徨いながら、綿密に復讐の計画を         

 練り上げてきた日々を想うと心が抉られます。

 復讐することが生きる支えだったのではないでしょうか※

 

永い時を懸けた闘いの場です。

名越の言葉にも柴田(工藤)は平然を装いました。

でももう、全てが明らかになる時が近いことを感じていることでしょう。

 

     *

 

裁判所に向かう香深の前に男が近付いてきます。

キャップを深く被り顔を隠してますが、それは偽の工藤啓輔(勝村政信)でした。

そして、本物の工藤啓輔のノートだと言って香深に渡します。

実可子のところから持ち出したそうです。

「実可子は必死で自分を探しているだろう」

「実可子は本当の工藤啓輔を愛しています」

「実可子に本当の工藤啓輔を返してあげて下さい」

 

偽の工藤啓輔の本当の名前は砂岡明。

借金に追われる砂岡に工藤啓輔の戸籍を与えた。

工藤には柴田真樹の戸籍がある。

そして、工藤啓輔の妻は実可子でなければいけない。

砂岡の監視役としても実可子は必要だ。

復讐の協力者として、啓輔との愛ゆえに実可子は砂岡に抱かれた。

  

     *

 

ノートには多重人格者を演じる為のシナリオが書かれていた。

実可子は砂岡と結婚してからも本当の工藤啓輔と会っては会話の受け答えの練習の

相手をしていた。

多重人格者ならこう答えるというシナリオを膨大な資料から作り上げたのだ。

 

それが名越刑事が発見した大量の本というわけだ。

 

     *

 

香深は和室の座卓でトーストで軽い朝食中。

扉の向こうのキッチンシンクには大量の洗い物が山積みされている。

リビングテーブルには母親が大量のおかずで朝食中だ。

※細かい演出です※

 

香深がこれまでに何度も聞かされた、

「お父さんが死んだのはお母さんのせい」

「お母さんがあの人は嫌いって言ったから、お父さん殺しちゃったのよ」

 

父親が死んで辛いのも苦しいのもお母さんだけじゃない。

それなのに自分だけが自分の世界に閉じこもってる母親に対して、

優しくしたいけどぶつかってしまってた香深。

 

精神鑑定人として真摯に事件と向き合ってきて、母とも向き合うことを決意する。

 

リビングの母親の隣に行き、

「話したいことがあるの」「初めて言うわ」

いつも言う母の言葉を自分に置き換えた。

「お父さんが死んだのは私のせいだとずっと思ってたの」

「私があの人は嫌いって言っちゃったから」

母親は「私もよ」と同調する。

「お母さんも同じこと思ってたなんて・・・」

更に強く同調する母親。

父親の優しさや誠実さを語り、

「だから私、お父さんのしてきたことを疑わないって決めたの」

と畳みかけると、母親はようやく殻から抜け出せたように、

「私だけじゃなかったのね」「良かった」「ありがとう」

そしてふたりで泣きながら笑うのです。

※お母さんは大好きなお父さんを香深に否定されることが辛かったんですね。

 香深の共感的態度が成功して良かったです※

 

そして香深は公開鑑定に立ち向かいます。

鑑定の前に、香深は裁判長・弁護士・検事に封筒を渡します。

鑑定が終わるまでは開けてはいけないと伝え鑑定が始まります。

 

傍聴席には実可子もいます。

 

香深はテーブルの上に父の形見の万年筆とノートを置きます。

今回は公開鑑定なので、証言台の代わりにテーブルが用意されてます。

香深と柴田(工藤)がテーブルで向かい合います。

「あなたは人を愛したことがありますか?」

そして、工藤啓輔の過去を語ります。

 

香深の話を聞きながら、柴田(工藤)は回想します。

精神病院に入院してた畑田修は、たった半年で退院して自由になってたこと。

見付けた畑田は妻と仲良く歩いていたが、すれ違う幼女の足を引っかけて

転倒させたこと。

内股で気持ち悪い歩き方をしてたこと。

 

「さて、ここからが私の問診です」

「あなたが芝居を始めたきっかけは何ですか?」

「その時カモメは何か言わなかったですか?」

「まるであなたの中にカモメがいるようですね」

 

【カモメはなぜあなたに協力するの?】

傍聴席の実可子が心の中で呟きます。

香深は同じことを言います。

 

【僕が弱いからです】実可子

柴田(工藤)が同じことを言います。

 

【それに逆らうとどうなるの?】実可子

香深が同じことを言います。

 

これが続くのです。

なぜでしょうか?

長田弁護士(樹木希林)が我慢できずに封筒を開けます。

そこには、この問診のシナリオが書かれていました。

そう、砂田明がくれたノートのシナリオだったのです。

だから実可子も知ってるのです。

 

実可子と練習を重ねたシナリオ通りに進むことに柴田(工藤)は気付きますが、

ここで退けません。

実可子も砂岡が持ち出したノートが香深に渡ったのだと気付きます。

 

シナリオは進みます。

柴田(工藤)の両手が激しく震えます。

人格交代の合図です。

 

工藤啓輔は畑田修を殺した時のことを回想します。

工藤は畑田の妻の恵も殺したことになってますが、実は工藤が押し入った時に既に恵は惨殺されていました。

工藤は恵の惨殺体の前で呆然とします。

 

そこに、隠れていた畑田がナイフを持って工藤に襲いかかりますが、床に零れた

牛乳らしき液体に滑ってしまいナイフが手から離れます。

運が良かった工藤です。

そうでなければ殺されてたのは工藤の方でした。

 

恵を惨殺したのは畑田修です。

妊娠中でしたし、牛乳を準備してる時に殺害されたのでしょう。

 

揉み合いになるふたりですが、腕力勝負なら工藤の方が勝ってて、

畑田の首を絞めて絶命させることができました。

そして左手でナイフを持ち何度も何度も刺したのです。

 

これが畑田夫妻殺害の真相です。

 

そして今、柴田(工藤)の右手には万年筆があり、香深を羽交い絞めにして

首を刺そうとしてます。

「私を刺しなさい」香深

【刺して!そいつを殺して!】実可子

 

シナリオ通りなら、ここで刺せば解離性同一障害と診断されるチャンスです。

そうなれば不処分です。

 

でも、柴田(工藤)に香深は刺せませんし、殺すなんて無理でした・・・

柴田(工藤)は万年筆を捨てました。

この瞬間、柴田(工藤)は刑法第三十九条に敗北したのです。

いいえ、香深との関わりの中で、香深への情愛が芽生えたのかも知れません。

 

悲しみの表情で、実可子は傍聴席から消えていきました。

 

「これで問診は終わります」

裁判長と検事が封筒を開封するとシナリオが書かれています。

柴田(工藤)のミスは、香深を刺せなかったことと、万年筆を右手で持ってしまったことです。カモメは左利きの想定です。

 

「私には被告人が奥さんやお腹の赤ちゃんまで殺したとは到底思えません」

「裁判長、刑法第三十九条で被告人を無罪にすることは、被告人の人権を守ることで   

 はなく、逆に奪うことではないでしょうか」

 

長田弁護士が反対尋問をしようとするが柴田(工藤)がそれを遮る。

「もういいよ先生」

やっと、やっとここまできました。

背負ってきた重い荷物を降ろして、工藤啓輔に戻れる時が。

 

工藤は長田弁護士と藤代教授に感謝の言葉を述べ、香深の存在だけが予定外だったと

言う。

香深がいなければ早い段階で刑法第三十九条が適用されてましたから。

 

「刑法第三十九条、僕が凶器を突き刺したかったのは、この理不尽な法律に対してだ!」

「裁判長、僕は工藤啓輔です」

 

閉廷して連れて行かれる工藤啓輔は、じっと香深を見つめていた。。。

 

裁判は長期化するだろう。

 

             完

 

 

【39 刑法第三十九条】~感想~ ※ネタバレあり※