案の定、翔太郎から連絡はなかった。
夕方までには何か連絡があると勝手に思っていたので、自宅で夕飯を食べ、お風呂を終える頃には、もう彼からの連絡が来るのを諦めていた。
優樹菜から、私を気遣うLINEが届いた。彼からはその後何も音沙汰なしだと伝えると、彼女も呆れていた。そんなやりとりをしている最中に他の人からLINEが届いた。何の気なしに開くと、それは、翔太郎からだった。
「S」というアカウントだったので、一瞬わからなかったが、プロフィール画像が翔太郎の後ろ姿だったので気付いた。ようやく収まりかけていた憂鬱な気持ちが再び蘇った。
彼からは、
【おまえんちどこ】
と、だけ送られてきた。
まさかうちまで来る気なのか?
ドキドキした。とても怖かった。でもきちんとハッキリさせたい気持ちも強く、2人で会って話せるのなら、その方がいいだろうと思った。少し考えてから、家の近くにある大きな公園の名前を伝えた。が、
【今から行く】
と、彼から送られてきたのは、三十分後であった。
こんな時間に出かける理由を親に伝えるのにとても悩んだ。とにかく心配させないように、駅前に優樹菜が来ているから、一緒にお茶してくる、優樹菜のお母さんが迎えにくるから、帰りは家まで乗せてもらうね、と冷静を装ってさらりと言った。
母は意外にもすんなりと、あらそうなの、気をつけてね、と言った。とてもホッとした。
部屋着のままではダメだ、着替えよう、と思ったが、気がつくとあれもダメこれも変、とベッドの上には服の山が出来ていた。デートでもあるまいし、と自分に呆れた。シンプルにジーパンに白いTシャツにした。
公園までは自転車で二分ほどだ。が、彼の言う今から行く、は、どこからなのか。それがわからないから待ち合わせの時間がわからない。何時頃来るの?と送ったが返信はなかった。
時計を見るともう二十一時になるところだ。外は思ったよりもひんやりしていて、暗かった。自転車を漕ぐと肌寒く感じた。街灯はあちこちにあるし、仕事帰りの人も多く歩いていたが、公園の付近は静まり返っていた。公園の入り口は二つあり、私は大きい正門の前にいた。人気がなく、怖いな、と思った。じっとしているより、自転車でこの辺を走っていようか、と思い自転車にまたがった。
その時、反対の入り口に音を立ててバイクが二台、やってきた。距離はあるのだが、すぐにかなりうるさい騒ぎ声が聞こえた。あの人たちに絡まれたら嫌だな、と思い、その場にとどまることにした。
そこからヒューという花火の音が聞こえた。どうやら彼らはロケット花火をしているようだった。
数分経った頃、そこから翔太郎の声が聞こえた。私はびっくりした。その騒がしいバイクの人たちは、翔太郎たちだったのだ。
私の想像では、翔太郎一人が来ると勝手に思っていたので、友達と連れ立って会いに来たことに躊躇した。が、どこかで小さくホッともした。怖いことを、憂鬱なことを先延ばしにすることは性格上抵抗はあったのだが、安堵していた。
私は勇気を出して、自転車に乗り、そちらへ向かった。が、なんとなく自転車姿を見られるのが恥ずかしく感じ、少し離れたところに自転車を停めて、彼らの方まで歩いた。
翔太郎と、レン、友哉が三人でネズミ花火のようなものをお互い投げ合っていた。もう一人はバイクに座りスマホを見ているようだが、暗くてよくわからなかった。
「あー!きた!」
私に気づいたレンがそう大きな声で言った。すると、翔太郎が私の方を見て、手に持っていたネズミ花火に火をつけ、こちらにに投げた。とても驚いた。それは足元に落ちて、パンッという大きな音を立てた。昨日から彼の言動には呆れていたが、更に呆れ返った。火傷をしたらどうするのか?服に火がついたら?そんなことも考えもしないのか。たった二日間しか関わっていないが、もううんざりするほどだった。
「女の子に怪我させたらどうすんだよ!」
友哉がそう言った。すると翔太郎は、ベンチの上からネズミ花火をいくつかまとめて手に取り、全部に火をつけて友哉に投げつけた。パンッパンッと立て続けに音が鳴り、思わず耳を塞いだ。翔太郎と友哉は追いかけっこをしながら、お互い花火を投げつけていた。どこまで走っていくのか、彼らの騒ぎ声が少し離れて行った。その場に残ったレンのスマホに着信があり、彼は誰かと楽しそうに話し始めた。
もう一人、バイクに座っている人に目をやると、その人もこちらを見ていた。さっきは誰かわからなかったが、今度はわかった。
夏央だった。
私は彼だと気づくと、脳天まで一気に血が湧き上がった。顔も耳も、一瞬にして真っ赤になったのがわかった。暗くて良かった、と思った。ドキドキして手が震え、胸が苦しくなった。それまで当たり前のように見ていた景色が、一瞬で明るくなり、空気も、花火の香りすらも愛おしく感じた。初めて味わう感情だった。
私は少しずつ、夏央の方へ歩いて行った。彼の近くにいたい、彼と話したい、そう強く思い、止まることはできなかった。
つづく