茶柱豆子の小説 -4ページ目

茶柱豆子の小説

ちょっと小説読んでかない?




 翔太郎は気だるそうにタバコに火をつけた。
 窓を開けて、外に向かって白い息を細く吐いた。それはまるで長いため息の様だった。部屋は真っ暗だったので、窓を開けたら街灯の明かりで彼がよく見えた。サラサラの髪をかきあげて、外をただ見つめる彼が、鳥肌が立つほどカッコいいと思った。うっかりそんな風に思ってしまうことが、何度もあるのだ。そしてその度に、ズキッと、どこかが痛んだ。
 私は今日も彼に会えたことで、私たちは、この先も変わらない、この関係は終わらない、と安心していた。
 私は床に落ちている服を身につけて、ぴょんと、彼の隣に立った。彼のタバコを手から取り、少し湿ったタバコを吸い込んだ。いつもよりも、喉にグッときた。
 「帰る」
 そう言って彼は暗闇からシャツを拾い上げ、着た。私は引き止めるように、
 「ねぇ、あれどうした?本人にちゃんと聞いたの?」
 と、彼に聞いた。
 彼は足を止めて、振り向いた。
 「なにが?」
 あからさまに、冷たい声だった。ああ、いつも通り機嫌が悪いな、と思った。いつものことだ。終わった後は、とことん冷たいのだ。一時間前は優しさもあった気がするのに、毎回このパターンだった。そして私は何度も傷つくのだ。
 私は、翔太郎も嫌な気分にさせてやりたいと思った。
 「夏央と彼女、仲良さそうだったよ?夏央の上着まで着てたし」
 と、タバコを消しながら、もう彼に話したことを、再び伝えた。
 たまたま体育祭の閉会式に向かう途中で、私は夏央と彼女を見かけた。
 2人の雰囲気は、普通ではなかった。まるで恋人の様に見えたのだ。私はそれを見てすぐに、そのことを翔太郎に伝えた。少し意地悪な気持ちと、ワクワクする気持ちが混ざっていた。その時、彼は大きく息を吸って、そのまま私から離れた。

 部屋から出て行こうとしていた翔太郎が、突然鼻で笑った。
 「あいつらさぁ」
 そう言い、再びこちらに振り向いて、ベッドに腰掛けた。
 「なに?どうしたの?」
 私は、彼がまだ帰らない様子に安堵して笑顔になった。
 翔太郎は、また鼻で笑って、
 「あいつら、二人でバイクで消えた」
 と、言った。
 「あいつら?だれのこと?」
 私の頭はまだ理解できていなかった。
 その問いに何も返さず、彼は下を向いていた。
 「…夏央と?彼女?」
 私がそう聞くと、彼は黙っていた。
 「いつ?いつの話?」
 私がまた聞くと、
 「さぁ、まだ二人でいるんじゃない?」
 と言った。
 私はとても驚いた。何がどうなっているんだろう、と混乱した。

 翔太郎の、夏央へ対しての敵対心は周りの誰もが気づいた。なぜそんなに対抗心を燃やすのか、なぜそんなに夏央を意識するのか、初めは全くわからなかった。
 同じグループで、いつも一緒に行動しているのにも関わらず、だ。
 対して、夏央は面倒臭そうにはするものの、あまり気にしてなさそうに見えた。翔太郎に変に絡まれると、さっと離れたり、話題を変えたり、うまく避けていた。

 私と翔太郎は、家庭環境が似ていた。
 両親の不仲により離婚、母子家庭で育った。母は仕事で忙しいので、私も翔太郎も勝手に生きてきた感じだった。お互い家で一人のことが多いので、仲良くなるにつれて、どちらかの家で一緒に過ごすことが多くなった。
 私は彼の外見がとても好きで、見るたびに、会うたびにどんどん惹かれていった。彼と深い関係になるのも、あっという間だった。
 じゃあ、私たちは恋人同士なのか、と聞かれると、それは違った。
 初めて彼と寝た日は、恋人になれたと舞い上がっていた。でもそれは一瞬で、砕けた。
 「なぁ、石川、おまえ勘違いすんなよ。俺は誰とも付き合わねえから」
 そう翔太郎は言い放ったのだ。
 
 優しさも思いやりもない、自己中で独りよがり。屈折していて乱暴な奴。
 何度もそう思った。
 今度こそ彼と距離を置こう、といつも思う。
 それなのに、彼から連絡が来ると、振り出しに戻ってしまうのだ。
 甘えたいのに甘えられない、寂しい人だと知っているから。






つづく