私たちが二年生に進級し、新一年生が入学した数日後のことだった。
レンが楽しそうに、私たちに話した。
夏央の初恋の一つ年下の女の子が、偶然にも同じ高校に入学してきた、と言うことだ。入学式で彼女を見つけた夏央が、それまで見たこともないほどに興奮し、ハイテンションでそのことをレンや友哉に話した、という。
レンからその話を聞いた翔太郎は、その場は大して反応していなかった。むしろ隣にいた私の方が興味津々でその話を聞いたくらいだ。いつも冷静沈着、と言うイメージがあった夏央がそんなに大騒ぎすることが想像ができなかったので、とても驚いた。
夏央は、裕福な家庭で、真っ当に育った人、という印象があった。優しいし勉強もできる。努力家で、バイトも休むことなくコツコツと通い、毎月決まった額を稼いでいた。誠実な人、透明な人、曲がってない人、と私は思った。
そんな夏央が、計画通りに、念願のバイクを購入した。
そのバイクは、翔太郎もいつか欲しいと話していたものだった。
が、翔太郎は、バイトも続かない人だった。
時間通りに動かない上に、上の人にキレたりするので、あっという間に辞めてしまうのだ。二ヶ月以上同じバイトが続いたことがなかった。そもそもバイクの免許も、取るといいながらも取っていない。そのお金を親が出してくれるわけもない。希望や願望は確かにあるのに、そこに向かうことを自分で閉ざしていくのだ。そのくせ、他人のせいにして愚痴を言う。そんな自分に酔いしれている様にも見えて、痛々しいと思った。そんなところも、自分に似ていた。
翔太郎にとって、夏央は、妬ましい、羨ましい、コンプレックスの塊なんだな、と思った。
夏央が、タイミングを見て、一つ下のあの子に告白をするらしい、と耳にした翔太郎は、ただ夏央に嫌がらせをすることにしたのだ。
夏央が告白する前に、翔太郎が先に奪い取る、という下らない計画を聞いた時、私は心底呆れた。そんなことが現実に起こるわけがない、と思った。なぜなら、翔太郎の支離滅裂な性格をよく知っていたし、ただ悪ノリで言っているだけ、だと思った。そもそも深い関係になった私に、誰とも付き合う気はない、と言ったのだから。
レンや友哉も、その他の友達も、内心、ただのノリだよな?冗談だよな?と思っていた様子だった。
ハタナカメイと言う、その女の子を私も目で追うようになった。
彼女は、小柄で可愛らしい顔立ちだった。いつ見てもニコニコしていて、ポニーテールを揺らしていた。ああ、きっとこの子は男子にモテるに違いないと思った。
胃の中が、ムズムズとした。
妬みだ。
私は小さな頃から背が高く、顔つきも冷たく見える。愛想もない。私とは真逆な彼女が、私から翔太郎を奪っていくのでは、私は負けるのでは、という恐怖が急に芽生えた。その不安は、自分の中でどんどん広がっていった。
が、絶対そんなことにはならない、という気持ちもどこかにあった。あんなどうしようもない男でも、私はどこかで信じていた。私と彼の間には特別な何かがあり、だから彼も私が必要で、週に一度は関係を持っているのだ、と。
だから、翔太郎が、ハタナカメイの肩を抱き、体育館に突然現れた時の衝撃は、耳元でシンバルを激しく鳴らされたようだった。
一瞬にして、自分が壊れた感じがした。
つづく