自分の人生で深く関われる人は
そう多くない。


どれだけ深く関わっていても
その人の全てを
理解することはできないのだから
人生のたった一瞬関わった人の
全てを理解するなんて
絶対にできないことだとわかっている。


わかっていながらも
小さな棘が心に刺さったように
チクチクとした痛みを伴って
ふと思い出してしまうことがある。














棘の一つに触れてみる。


面と向かって誰かに
わざわざ話すほどでもない話を
ここに書こうと思う。














1週間前、仕事で。


その日はカフェ勤務で
私はレジを担当していた。


前会計なのでオーダーを伺い
お会計をする。


レジの前に立ったのは
30代半ばの母親と
小学校中学年くらいの兄妹。


妹はぐずって泣きながら
「このケーキが食べたい」と
母親に訴えていた。


母親は言った。
「お兄ちゃんとママは
こっちのケーキが食べたいの。
多数決だよ。」


妹は泣きながら言った。
「いつもママとお兄ちゃんが
全部決めちゃうじゃん。」


母親は言った。
「ケーキとパフェを頼むから
パフェは選んでいいよ。」


妹は涙目を擦りながら
「パフェじゃなくてケーキが食べたいのに」
と呟きながらパフェを選んだ。
















たったこれだけのこと。


どんな背景や関係性が
あるのかわからない。


それでも私はなんだかとても
苦しくなってしまった。


その間、兄がどんな表情を
していたのかは見ていないから
わからない。


ただ、その瞬間の妹の表情に
私は苦しくなってしまった。


心がリンクしてしまったようだった。


" なんで? "


というたった一言の言葉が
喉につっかえる感覚。











 



母親に対しても
兄に対しても
妹に対しても
赤の他人の私からは
何も言うことはないけど
心に刺さったこの棘は
しばらく抜けない気がする。


ケーキとパフェは同じ値段だった。