先日、年差クオーツに関する熱い記事群を発見したため、とりあえずここに書き留めておいたのですが、なにせ情報量が多くて消化不良気味なので、ちょいと咀嚼しておこうと思います。

 

 発見した記事群の中心コンテンツはシチズンの技術者の方へのインタビューだったので、ほとんどシチズンの話しか出てきませんでしたが、年差クオーツの歴史を振り返るとしたらセイコーの動向を抜きに語ることはできないのではないか、と私は考えました。そこで、セイコーとシチズンのクオーツ腕時計高精度化の歴史を調べて比べてみました。

 

 1969年12月にセイコーが世界初のクオーツ腕時計であるセイコークオーツアストロン35SQを発売したことがクォーツショックの幕開けだったわけですが、調べてみたところアストロンの精度は月差±5秒だったそうです。それ以降のクオーツ腕時計の精度の記録更新の歴史はどうやらこんな感じのようです(外部からの入力によって時刻を補正する電波時計はここでは除いています)。

 

1969年 月差±5秒(年差60秒)

セイコークオーツアストロン35SQ

 

1974年 月差±2秒(年差24秒)

セイコークオーツスーペリア

 

1975年 年差±3秒

クリストロン メガ

 

2019年 年差±1秒

ザ・シチズン Caliber 0100

 

 精度の世界記録を更新したクオーツ腕時計って、初代のアストロンを含めても実は4つだけのようですね。やはりクリストロン メガは世界発の年差クオーツであり、しかも40年以上もの長きにわたって自律型の腕時計として世界最高精度の座を譲らなかったようです。すげえ!(ちなみにクリストロン メガは最初のモデルを含めて3モデル開発されたようです。)

 

 こりゃあ、精度フェチの方が記事を書いたなら、シチズン一辺倒になってしまうのも無理からぬところですね(褒めてます)。

 

 クリストロン メガ以降もシチズンやセイコーから年差クオーツは数々発売されたようですが、クリストロン メガで実用上充分以上の精度まで行きつくしてしまったために、精度以外の性能(電池寿命等)の向上が志向されたと言えましょうか。クリストロン メガの電池寿命1年というのは、いかにも短いと考えられたようです。クリストロン メガがいかにも変態的に精度を追求していたことが感じられます(めちゃくちゃ褒めてます)。

 

 クオーツ時計の精度に大きく関わってくる要素として水晶振動子の温度特性(温度変化に応じて周波数が変化する)がありますが、この問題に対してクリストロン メガが採用していた手法は、ATカットという温度による周波数変化が小さい水晶振動子を4.2メガヘルツという高い周波数で振動させることだったようです。この手法は電力消費が大きすぎて、電池寿命が1年と短かったようですね。そのため、その後の開発の中ではシチズンもセイコーも、ATカットよりも温度特性に劣るものの消費電力が少ない音叉型の水晶振動子を32キロヘルツで振動させ、その出力を温度に応じて補正する方式に傾倒していったようですね。

 

 で、ザ・シチズン Caliber 0100は、ATカット水晶振動子を、8.4メガヘルツというクリストロン メガ以上の高周波数で振動させ、さらに温度による補正で追い込む、という贅沢な造りをすることで年差±1秒を実現したみたいです。

 

 ところで、精度に直接関わる技術ではないのですが、シチズンが得意とするエコ・ドライブ(光発電)は、Caliber 0100の仕組みを実用時計に落とし込むために必要不可欠だったように思われます。2021年12月10日の記事の中でシチズンの方が以下のように語られているのを読んでそう思いました。

電池式のクリストロン・メガは、確かに年差±3秒を実現しましたが、電池寿命が1年程度しか持たないため、その高性能を完全に活かすまえに電池が切れてしまい、結局は時合わせが必要となってしまいました、エコ・ドライブであればソーラーによって動き続けることで、年差±1秒による高精度の恩恵を止まることなく受けることができます。

 

 超高精度だけど年に1回電池交換が必要、というクリストロン メガの宿痾を、Caliber 0100はエコ・ドライブによって打破したわけですね。

 

 私の持っているザシチの和紙モデル(↓)は、音叉型水晶振動子を使って、温度による補正をすることで年差レベルの高精度を実現しており、光発電式。こういったモデルを開発する過程で培われた技術が、Caliber 0100の開発に活きている言えそうですね。というか、そう思いたい。

 いや年差±5秒も充分すごいよ。今後もよろしく、和紙モデル。