母と2人きり。
出るのは溜息、そして涙。
息子は白装束の上に軽い白い布団のようなものを被されている。
今朝私が彼の死に顔を見たとき、不自然に出ていた舌はどういう風に口内に収められたのか、きちんと口が閉じてあった。
母が「…寝てるみたい」を繰り返す。
たまに「あれ?今動いた!」と布団に近付く。
私は心ここにあらずと言った状態だった。
そう言えば朝から何も食べていない。
空腹感も感じない。
私の妹のような存在の後輩が仕事を終えて来てくれた。
目に涙を溜めながら線香に火をつける。
担任の先生にクラスの中で一番仲がよかった二人の男子生徒には最後の姿を見て欲しいとお願いをしていた。
やがてその子たちとそれぞれの親御さんが来てくださった。
「ごめんね…受験とか色々あるのに…」私は声を出すのがやっとだった。
15歳の少年たちの目に息子はどう映ったのか。
見せない方が良かったのか。
親御さんたちが息子の名前を呼び捨てにして号泣してくれた。
それはまるで我が子を一人失ったかのように…
亡骸にすがりついて泣いていた。
続いて学校関係者が来られた。
先生方も皆ハンカチで涙を拭っていた。
担任の先生から「お母さん、ちょっといいですか?」と声をかけられた。
「お通夜はしないとの事でしたが、クラスのみんなが一目会いたいと言って聞かないんです…」
私は暫く考えてから「わかりました。明日は友引なので引き続きこちらに遺体は安置されています。明日みんなに来てもらって下さい」と深々と頭を下げた。
翌日の夕方、遺体は畳の部屋からホールの方へ移動となった。
納棺の儀。
葬儀社の方々や私、妹分、私の母と皆で息子の遺体を棺桶に入れる。
もともと足が長かったのと、少しつま先立ちのような形で死後硬直していた事が重なって、Lサイズの棺桶に彼を入れる事は容易ではなかった。
枕を取ることにした。
すると首が少し曲がって苦しそうだったので、本来は足を揃えないといけないのだが、棺桶の角に足を開く形でなんとか納めることが出来た。
枕は高さがあった為、急遽バスタオルを頭の下に敷いて見栄え良くして下さいました。
22時頃まで息子の傍にいたけど、お通夜のないプランだったので泊まり込みは出来ないとのこと。
「また明日来るからね。ごめんね、一人で寂しいね…」
そう言い残して無言で車に乗り込もうとした時、妹分が「姉さん、姉さんの気持ちが辛いのはわかります…でも…でも…お願いですから生きて下さい…私は姉さんのことが大好きなんです…」と涙を流して言ってくれた。
「大丈夫だよ。明日も仕事でしょ?こんな遅くまでずっと居てくれてありがとう。気をつけてね」と言い、私と母は息子のいない家へと帰った。