『果たされた運命』⑦
ポニーの家に向かう汽車に揺られながら、テリィはこの旅に同意したことを後悔していました。
キャンディを止めることが出来なかった。自分が同行しなければ一人ででも向かっただろうと。
実際のところ、体調の悪さを自覚していたキャンディでしたが、テリィには決して言えないと思っていました。
ポニーの家に到着した二人。
出産にまつわる一部始終を手紙で知っていたレイン先生は驚き、無茶をしたことを叱りました。
ポニー先生に会わせて欲しいと言うキャンディを部屋へ。
ベッドに横たわっているポニー先生はキャンディを見ると、安らかな表情を浮かべ、いつものように優しく微笑みました。
「ポニー先生、ポニー先生!会いたかったです」
「私のためにこんなに長旅をする必要はありませんでしたよ、キャンディ。本当に大丈夫。すぐに元に戻りますから心配する必要はないのです」
「分かっています」
微笑みながら答えるキャンディ。
リビングに戻ったキャンディはレイン先生にポニー先生の本当の病状を聞き出そうとしますが、
「言うことは何もありません。ポニー先生はたくさんのものを与えてくれました。神は慈悲深いのです」
そして、
「わが子よ、人生は神からの贈り物です。私達の時がいつ終わるのかは誰にもわかりません。心配する必要はありません」
「先生は重病ですよね?」
レイン先生は何も答えませんでした。
ポニーの丘に佇むテリィのもとへ駆け寄ったキャンディ。イギリスから戻ってきた日のことを思い出し、彼をしっかりと抱きしめました。
「どうしたんだい?」
「・・・テリィ・・愛しているわ、とても」
「俺も愛しているよ。どうしたんだ?」
「・・・何でもないわ」
泣きながら答えるキャンディ。
「何でもない?じゃあ、なぜ泣いている?」
キャンディがあの日のすれ違いを話すと、初めてそれを知ったテリィは言葉を失いました。
「人生はとても短いから、私達は幸せな時間を大切に、そして幸せのために戦わなければならないわ。今ならそれが分かるの。一部の人達が本当に幸せになることがどれほど難しいかを理解しているわ。ポニー先生とレイン先生はいつも私と子供達のためにそこにいてくれたの。本当の両親を知らなくても気にならなかったし、周りにはいつも素晴らしい人達がいたわ。だから、私は本当に幸せなのよ」
*
帰りの旅はとても悲しいものでした。
喪服を着たままのキャンディは涙が枯れ果てたのか既に泣きやみ、ただ黙って窓に向かって体を預け座っていました。
キャンディの深い悲しみを理解しているテリィは、そんな彼女の姿に心が痛み、自分に何ができるだろうか、と思うのでした。
夜遅くに自宅に到着した二人。
子供達の面倒を見ていてくれていたテリィの母から、問題なかったと聞くや安心したのか急に眠くなったキャンディ。部屋へ入るとテリィはそんなキャンディの為にハーモニカを演奏します。
ほとんど眠っていたキャンディ。どのくらい経ったのか、演奏をやめると
「やめないで・・・」
ハーモニカの音色に心の痛みが和らぐのを感じました。テリィはそれからしばらくののち演奏をやめると、彼女を腕に抱きました。
優しくキス。抱きしめて慰め、ベッドに寝かせ
「何も考えず休むんだ」
「テリィ・・・私が何も考えられないようにしてくれる?」
テリィは鋭い視線を向けました。
「・・・お願い」
キャンディは彼の首に腕を回し言いました。
テリィは迷うことなく…。
*
**
日が経ちすっかり元気になったキャンディは、悲しみは忘れ、良い思い出を心に残し決して忘れないと誓います。
そんなある日、突然テリィの父であるグランチェスター公爵が訪ねて来ます。
テリィに会いたい、と帰りを待つことに。
しばらく待ったのち去ろうとする公爵にキャンディは、会えなかったと分かればテリィが残念がると引き留めます。
「それはない」と言う公爵に子供達を紹介すると、エリーを見るなり
「テリュースによく似ている。エレノア・ベーカーを思い出させる」
その時、テリィが帰宅。
父親を見ると言葉を失います。
公爵に構わず予定通りキャンディと出かけようとするテリィ。
「出かけられないわ。お父様がいらっしゃるのよ」
「邪魔をするつもりはなかった」と、公爵。
「無駄にしないでーー」
キャンディの言葉を遮るように、
「キャンディ、準備するんだ」
「テリィ、お願い」
そう言って手を取ると、キャンディは部屋を出て行きました。
「テリュース、調子はどうだ?」
「ご覧の通り」
「帰ってほしいのか?」
「はい。あなたがここにいる理由がわかりません」
「会いたかっただけだ。全て大丈夫なのかを確かめたかった」
「大丈夫です。見たでしょう」
「・・・わかった」
公爵は出て行きました。
ドアの音に気付いたキャンディが駆けつけると、既に公爵は去ったあと。
話せたのかを訊いてみますが、
「それについては話したくない」と答えるテリィでした。
予定通りレストランで食事をしながらキャンディは、テリィが表には出していないものの不機嫌なことを理解していました。今は父親について言及すべきではないと。
そんなキャンディにテリィは、ハートの形をした金色のロケットペンダントをプレゼント。
「昔母が持っていたから君にもプレゼントしようと思った」と打ち明けます。
中に何を入れていたのかを訊ねると、「自分が幼いときの写真だ」と答え、
「君が考えていることはわかっている。俺はあの人のことを知りたくない。あの人は俺を母さんから引き離し、望まない学校に入れた。俺が頼んだことを拒否したんだ。あの日以来会っていなかった」
「何を頼んだというの?」
「君が学生牢に入れられた時、助けてくれるようにさ。でも、拒否された。もしあの時助けてくれていたら、俺は君から離れることはなかった。俺達が別れることはなかっただろう」
「テリィ、そんなことでお父様を怒らないで。物事には必要だから起こることもあるわ。あなたが学院を去った後、お父様はシスターに連れ戻すよう頼んだの。そして別の学校に入れると言ったのよ。だから私はお父様に話を聞いてもらおうと追いかけたわ」
テリィは言葉を失います。
「あなたの翼を切らないで放っておいてあげて欲しいと言ったの。お父様は当時のあなたのことをあまりご存知ではなかった。今日まであなたに対して何もなかったでしょう?」
テリィは頷きました。
「お父様はあなたを自由にさせてくれたのよ。私達に会いにいらっしゃる前にお母様にお会いになったと言ってらしたわ」
「母さんにあった?」
「ええ」
翌日二人は公爵に会うために宿泊先のホテルを訪れました。
公爵に挨拶を済ませたキャンディは席を外し、父と二人になったテリィが母に会ったのかを問うと、公爵は自分が間違いを犯し息子を最も苦しめたこと、もう一度彼女に会いたかったと告白しました。多分まだ愛しているとも。
テリィは自分が聞いていることが信じられず、言葉を失い続けました。
公爵は
「自分と同じ間違いを犯さないようにするのだ。あの娘は良い子だ。本当にお前を愛している。学院で会った時も愛していた。残念ながら私がお前を助けるには遅すぎた。だが、重要なことはお前が誰の助けもなく自分自身を見つけたことだ」
テリィは父のその言葉に
「何といったらいいのかわからない」
そう答えるのでした。
二人はイギリスでの再会を約束し別れました。
*カバー画像お借りしました🙇