お願い、やめて…! | ママ、わたしは生きていくよ。

ママ、わたしは生きていくよ。

バリキャリ母と、平凡娘ひとり。
母子家庭を襲った母の癌。
闘病3年9か月で風になった母。

母の知らないわたしを徒然したためます。

金曜から母の部屋に入り浸っていた。

友達が代わるがわる

そばにいてくれて

片付けという心の整理を進めていた。

 

母のことがきっかけで

 

今まで接点がなかった

幼馴染や高校の友達と、

Y子や最近ずっと支えてくれてる友達が会し

母の思い出を語る。

 

あぁ、ママがみんなを引き合わせてくれたんだ。

 

寂しん坊で、あかんたれのわたしが

少しでも泣かないで済むように。

 

アパートの片付けで

30年来の幼馴染と

いつも話を聞いてくれる友達が

初対面にもかかわらず

母という共通点で仲良く作業してくれてる光景を見ながら

しみじみと感じていた

日曜日。

 

いよいよ、いらない家具は処分しなければ

それでも思いきれない中

使えるなら貰ってくれると

話を聞いてくれる友達のご主人が申し出てくれた。

 

母が大事にしていたダイニングテーブル。

 

わたしがまだ1歳にも満たない頃

そこによく隠れては

裏面に盛大に落書きをしていて

それをそのまま残して使っていた。

 

母とわたしの想い出のテーブル。

 

わたしの家にはどうしても入らない大きさで

どこかで有り続けられるなら

そう思って他の家具と一緒に見てもらうことにした。

 

友達のご主人。

仲良くしていたのが遠慮を失くさせてしまったのか。

 

 

ご主人は一向に進んでいない片付けに

一役買おうと申し出てくれた。

 

ベッドはY子に譲ることが決まっていたし

家具も移動するには人がいる。

 

男手がなかったので有難かった。

有難かったが、

わたしの 捨てられない気持ちを

理解できない人だった。

 

今の今まで

目の前には母がいた時の光景が残っていた。

 

片付けが進まない―とか言いながら

進まないことにホッとしていた。

 

母の息遣いをまだ聞いていたかった。

玄関をあけてママが帰ってくるのでは…

「なんやのあんた!片付け下手やなー!」

そんな悪態をついている母を

馬鹿げた妄想を持っていたかった。

 

母が逝って一週間。

 

ご主人は

なにも聞かずに次々にそれらを

“壊し”ていった。

 

正確にはお願いしていないものまで

無配慮にいるものいらないものとして片付け始めた。

 

母のことも知らない人が

押入れから、チェストから母のものに触れ

中身引き出し、

「こんなんいらんって。捨てたほうがええ」

そう言ってカーペットも引き剥がしていく。

 

母とわたしとムスメーズの空間が

無残に踏みにじられていくようだった。

 

わたしは息が出来なくなった。

おかしくなったように涙が出続け

「おねがい・・・」

「おねがい、待って・・」

「待って・・・ 待ってください・・・」

 

「やめてーーーー!!!」

 

泣いて叫んでも止めてはくれなかった。

わたしはそこから記憶がない。

 

気が付くと床に寝ていた。

幼馴染は看護師で、わたしの手首で脈をとっている。

友達は「ごめん。ごめんな。」と号泣している。

 

母の居場所がなくなっていく光景に耐えられず

意識を失ってしまったのだ。

 

これまでの疲れもあったのだろう。

目が覚めても目から水が流れ続ける。

 

「息、息止めたらあかんやろ!」

幼馴染が涙交じりに叱責する。

 

「し、 死んでしまうのかと思った・・・」

ご主人のことを謝りながら泣きじゃくって友達は言う。

 

目だけを空間に這わせて

あたりを見回してみると、

意識を失っている間に 母の家は

ただのアパートの一室になっていた。

 

倒れてもご主人は作業を止めなかったという。

 

そして

宝物だったダイニングテーブルも

処分するものとして軽トラックに積まれていた。

 

 

わたしはもう何を頑張ればいいのか

何を感じているの

何を

何を失ったのかわからなくなってしまった。

 

ただただ

悲しみだけが心を蝕んで行った。