「真人間」(監督フリッツ・ラング 94分)

話の内容は、前科者が真っ当に生きるのは難しい

最初の「モノを買いたければ金を払う」の歌と次から次に出てくる色んなモノのショットが良かった(色んなモノが映されて、これを手に入れるには金が必要と歌う)

エスカレーターで、上ってくるヘレンと降りてくるジョーが、交差する時に手を出して手が触れ合う愛情表現がとても良かった

前科者の更生の為に何人もの前科者を雇っているデパートの社長が、奥さんから「切手集めならいいけれど、前科者集めはやめて欲しい」と言われているのがコミカルだった

ダンスホールでの演奏・ダンスシーンが良かった。ジョーがいるのにヘレンに声をかけてきた男を、ジョーがぶちのめすのはスカっとした

ヘレンが求婚をOKしたので、ジョーが走ってるバスの窓からトランクを投げ、運転手に頼んでバスを止めて貰って降りて、ジョーとヘレンが抱き合うシーンが良かった

夜暗闇のヘレンのアパートの階段を、ジョーが点けたマッチを掲げて上がる時に、自由の女神だ(マッチを掲げてるのを松明を掲げている自由の女神になぞらえる)と言っておどける演出がコミカルだった

面倒見のいい大家さん夫婦が良かった

結婚して死ぬまで離さないというのを「終身刑で仮釈放はなし」と言うセリフと「ツマラない結婚は監獄に入れられたようなもの」と言うセリフ、前科者だけに結婚を刑期に例えるセリフがシャレていた

新婚旅行と言って色々な国の料理を食べる演出が楽しかった(特に中国のフォーチュンクッキーが良かった)

ヘレンが社内結婚禁止の嘘をついたのに腹を立てて、感謝祭の雨の日に、ジョーが外へ出て行って昔の悪い仲間の所に行こうとしたが思い止まるのを、雨に濡れた信号機の「GO」から「STOP」に切り替えるショットで象徴する演出・撮り口がボク的に良かった

ジョーがクリスマス・イブにデパートの前科者の同僚達と飲んだ時の、同僚達が刑務所にいた頃の回想シーン、大物が刑務所から脱獄しようとして射殺される回想シーン、ヘレンも前科者だったと分かってジョーが荒れて同僚の仲間達を次々と殴り倒して(その内の1人が倒れた時にジュークボックスのガラスが割れて、音楽が流れる撮り口が良かった)去っていくシーンが良かった

勤めているデパートを、ジョー達前科者が襲おうとする時の、ギンピーと落ち合う時の店にビリヤードやってる人の影が映るシーン、同僚の1人が従業員として持っている従業員入り口の鍵で従業員入り口を開けてデパートに侵入するシーン、盗んだ商品を運ぶトラック2台がデパートに着き荷台から前科者の同僚達が降りてくるシーン、同僚の1人が商品搬送口の扉を開けそこにトラックが止まるシーン、と手際よくデパート襲撃逃走の準備を進めていくシーンが良かった

ギンピーのヘレンへの密告で待ち構えていた社長達に、ジョー達前科者が銃を取り上げられた後の、ヘレンによるアヒルさんの黒板に書かれた「犯罪は割に合わない」という算数の授業がコミカルだった

最後にデパートに1人残ったジョーが、ヘレンの為に香水を盗んで値札を捨てたが、思い直して値札を拾い、香水の代金と税金15ドル30セントをレジに入れて支払う事で、ジョーの改心を描く撮り口が良かった

ジョーが同僚の前科者達に頼んで、ジョーのもとを去ったヘレンを探してもらうのが良かった。雪の中雨の中濡れながら必死で探し、救世軍・職業斡旋所・質屋なんかにも聞いて回る。頭の悪いギンピーが頭を使ってヘレンが出産する病院を見つけるというのも良かった

ジョーと前科者の同僚達が、いつ産まれるか?とソワソワして、病院の椅子に1列に並んで座っているのがコミカルだった(前科者達だけれど人が良いという感じがコミカルだった)

最後ジョーとヘレンが結婚し直して、ギンピーが抱かえてきた生まれた男の子も結婚の立会人になるというハッピーエンドもとても良かった

全般的に

前科者の更生という題材がボク好みで楽しく観れた

撮り口的にも、最初のミュージカル調の歌と商品の数々のショットやジョーが犯罪を思い止まるのを象徴する信号機のショット、ジョーの改心を香水の代金をレジに入れて支払うので象徴するショットや、同僚の前科者達の刑務所にいた頃の回想シーンのフリッツ・ラング監督らしいドイツ表現主義っぽい撮り口なんかが、ボクはとても良かった

最後のヘレンの「犯罪は割に合わない」と言うのを、説教でなく算数で証明するというのも楽しかった

キャストも、ジョージ・ラフトはカッコ良かったし、シルヴィア・シドニーはチャーミングだったし、大家さん夫婦は面倒見が良さそうだったし、前科者の同僚達は前科者だけれど人が良さそうというのがとても良かった

派手なアクションは無いが、前科者の更生という人間ドラマ、ジョーとヘレンの恋、観ているたけで楽しい色々な撮り口が面白い、フリッツ・ラング監督の傑作と言える作品。観て良かった