「海賊の経済学」(著:ピーター・T・リーソン)
船長の権限濫用を抑える為に、海賊では民主制・クォーターマスター制度による権力分立を採用していた。
商船は船主(プリンシパル)と船長(エージェント)に利害の食い違い(プリンシパルエージェント問題)があり、船長が私腹を肥やす誘惑に駆られる制度的インセンティブがあったのが問題だった。
政府(ガバメント)と統治(ガバナンス)の違い「強制力による脅しでルールに従わせる(ガバメント)か自発的にルールに従う(ガバナンス)かの違い」
海賊統治に必要なこと「海賊間紛争禁止」「負の外部性(例:飲酒で他の海賊に迷惑・タバコの不始末で火事など)の規制」「奪った財宝のフリーライダー禁止」。
海賊統治実現方法「民主的に取り決めた海賊の掟(例:分配方法成文化・行き過ぎた行動の規制・真剣に働かせる為に社会保障・労働補償・獲物をまっ先に見つけたらボーナス出す制度等の充実)」
*この海賊の掟は海賊相互に協力して商船などから略奪するには必須で、自然と生まれた(倫理ではなく海賊達の強欲さから生まれた)。
海賊は奴隷時代に黒人の仲間にも参政権と分配を平等にした。海賊は黒人の割合が多かった。
赤毛差別主義の経営者でも赤毛10ドル・黒毛20ドルなら赤毛を雇うという説明が分かりやすかった(心情では差別をしても、儲かるなら赤毛を雇う)。
それ以外にも費用(黒人が反逆するなど)と便益(黒人の奴隷労働があげる利益など)を計算して、黒人を奴隷ではなく仲間の海賊として扱うかを決定していた。
レントシーキング「立法プロセスを通じて特権を設けたり、新しい費用を負担させたり、競合に負担をかける事でどんな企業や産業でも成功させたり潰したりできるようになった為に、ロビー活動などで自分の企業を助け競合他社を苦しめるよう政府に働きかける事」
レントシーキングは現実路線としては有効だが、富(社会に役立つ財やサービス)の生産にお金が使われる訳でもなく、公平な競争も阻害するので妥当でないという説明が良かった。
全般的に
海賊達の中でも「心ある」海賊達は、自分達の稼ぎを増やす為に、理に適った制度や掟を決めて規律正しく略奪行為・残虐行為をしていたという話がとても面白かった。
荒くれ者の犯罪者集団の方が、組織内では、自由で平等で楽しかったというのが面白かった。
「海賊王に俺はなる!!」心にそう願う現実の荒くれ者達は苦手な小心者長七郎であった。