「隠し剣鬼の爪」(監督:山田洋次 131分)

話の内容は、身分違いの恋が、身分が解消される事で結ばれる、ハッピーラブストーリー。

コミカルだった所
松田洋治と藩士達とのコミカルなやり取り(砲術の勉強・砲術の実践練習・秩序だった行進の練習など)
永瀬正敏が松たか子の話を真剣に話しているのに、下女のババァは居眠りして話を聴いていないという演出が基本的だけれどコミカルだった。
藩主の前での大砲発射披露の時の、弾が出た反動で大砲が後ろにすっ飛んでてんやわんやになる演出がコミカルだった。
鶏を捕まえた下男ごと吉岡秀隆がカゴをかぶせる演出がコミカルだった。
「謀反人の話をしていると首が飛ぶぞ」と話している藩士がキセルを叩くとキセルの頭が飛ぶ演出がコミカルだった。

良かった所
病弱の下女に、吉岡秀隆が鶏をしめて食べさせると言ったら、田畑智子が「鶏は脂っぽくて病弱の松たか子は食べられないのでおもゆを食べさせる」と切り返す演出。
「武士は刀を手入れ以外滅多に抜かない。武士にとっても人を切るのは怖い」と永瀬正敏が松たか子や松たか子の小さな妹に笑いながら説明する所。
刀や槍・弓矢で戦えと力説する田中邦衛達老人二人に、永瀬正敏が西洋の新しい創意工夫が積み重ねられた武器の良さを説明する所。
西洋走りと日本古来の難波走りとの競争で、西洋走りが競争には勝ったが、走っていた松田洋治は体力がなく走った後寝込んでしまったという所。
薪の切り方を説明しながら永瀬正敏が薪を割る所(薪を本番で上手く割った永瀬正敏はどのくらい練習をしたのか気になった)。
松たか子が手前で料理している後ろで、永瀬正敏がかつお節を削っているシーンが良かった。
家を出る松たか子が下女のババァに仕事を引き継ぐ所は、「家事をテキパキこなす仕事のできる女」という感じが出ていて良かった。
戸田先生はよっぽどいい役者じゃないとダメだと思ったらいい役者だった(田中泯。殺陣の上手さ・闘い方のレクチャーの仕方も良かった)。
悪役に緒形拳・小林稔侍といい役者を起用していたのが良かった。
対決の民家の家のセットとか良く出来ていると思った(さすがは山田組。きっと美術スタッフに腕のいい年季の入った人がいるのではないかとボクは思った)。
永瀬正敏の刀は闘う前に砂できちんと研がれたもの・小澤征悦の刀は農家にあったボロボロに錆びた刀というコントラストが良かった。
永瀬正敏と小澤征悦がきちんと対決するのが良かった。
藤沢周平作品には珍しく、悪の親玉緒形拳を永瀬正敏が「隠し剣鬼の爪」できちんと倒すのも、観ていてスカっとした。
最後の永瀬正敏と松たか子の身分違いの恋が、身分の解消で結ばれるというオチもとても良く、観た後味がとても良かった(前フリのある「命令」演出が上手いと思った。又江戸や京都ではなく二人で蝦夷に行くというのも良かった。)。

全般的に
コミカルな所はきちんとシーンの撮り口としても面白く出来ている所(絵的に笑える)はさすがだと思った。
俳優陣がとても良かった(主役のマジメな永瀬正敏・働き者の松たか子・誠実な吉岡秀隆・丸顔の田畑智子・悪役の緒形拳・小林稔侍コンビ・落ち着いているけど芯の強い剣豪田中泯・好きな男の為に悪家老に抱かれる高島礼子などなど)。ボクは松たか子はあまり好きではなかったが、この作品の松たか子には惚れた。
山形の景色も楽しめた。
この作品は基本は藤沢周平の微妙な人情の機微を楽しむマジメ映画だが、所々コミカルな演出を交えていて良かった。最後の悪家老も倒すし、身分違いの恋も結ばれて、観た後味もとても良く、「清々しさ」を感じた作品。

笑って感動して泣ける娯楽時代劇の好きな母は最初は「陰気臭い」と言って途中寝ていましたが、それでも最後には「面白かった」と言っていました。いい映画を母に観せる事ができて、いい親孝行になりました。「藤沢作品の主人公のような人物にはまだまだ程遠い」心にそう願う血気盛んな長七郎であった。