酔っ払いがやってきた日 | Spin Spin

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大好きな人、映画、漫画、小説、曲など自分の琴線に触れる物が毎日風化していかないように書き留めておきたくて始めました。自分の好きなものをその日の気分で一緒に載せています。これをふらっと読んで下さった皆様の1日と私の1日が不思議と合致することがあったら面白いな。






昨日来たお客様は最初から酔っ払っていた。

まずお店に入る前、ガラスの自動ドアの横に缶ビールをそっと置いたのを私は見逃さなかった。そんでもって何食わぬ顔で店内に入ってきたのだ。



そんなにお年には見えないが杖をついていて、膝くらいのズボンからのぞく両方のふくらはぎには、湿布が1枚ずつ貼ってあった。目にかかるくらいの前髪に、白髪混じりの髪はクルクルと色々な方向に向いている。あご下が少し長く、目は丸くてギョロギョロとしていた。




私のお仕事は、なるたけ早くお客様のご要望を汲み取り、丁寧かつスピーディーにお客様に施術をするお仕事です。

そのお客様にも他のお客様と同じようにご要望をお聞きすると「適当でいいんよ」と赤い顔でおっしゃった。


私も「適当でいいんですね」と繰り返すと、「適当でお願い」と可愛くおねだりされた。

適当といえど適当にしたら怒られることくらいは知っているので、再度箇所ごとにご要望を聞きながらなんとか施術開始。



それでもじっとしているわけではないのが酔っ払い。

「くも膜下失血になったことがあるんよ」

と、髪の毛をかき分けて頭の傷を見せてくれた酔っ払い。

「シュシュシュシュってやってバーッとやってザーッとやればオッケイ」

擬音がやたら多い酔っ払い。

そして無言から突然の大爆笑。

かと思えば、

「あーあ、こんなに白髪になっちゃって寂しいな」

と、しょぼくれる酔っ払い。

だんだん可愛く見えてきた酔っ払い。


さいごはご機嫌で

「俺ってかっこいー」

と言い放ち、自動ドアから出ていった。





久しぶりに色濃い時間だった。

あーあ、缶ビール置いてかれたから片付けなきゃなと思って外に目をやると、酔っ払いはまたそれをゴクゴクと飲んでいた。




いや、空じゃないんかい!


一応お店に缶ビール持ってったらいけないという道徳感は持ち合わせていたのね。








今日のお供口笛


森見登美彦さんの
『夜は短し歩けよ乙女』



めまぐるしく楽しいお話。

終始ワクワクして、一気に読み終えてしまう。


それにしてもおもろい酔っ払いだった。

電気ブランで乾杯したら仲良くなれたかな。