第67回カンヌ国際映画祭脚本賞、第72回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞を受賞した、ヒューマンドラマ。権力を振りかざして横暴な土地買収を進める市長に立ち向かう、ある自動車修理工場経営者の男の姿を見つめる。メガホンを取るのは、『ヴェラの祈り』『エレナの惑い』などのアンドレイ・ズビャギンツェフ。『マネー・ピラミッド 札束帝国の興亡』などのアレクセイ・セレブリャコフや『エレナの惑い』などのエレナ・リャドワらが出演する。濃密な人間模様と荒涼としたビジュアルの融合に圧倒される。                                                                      シネマトゥデイより

 

 

 

縛られた人間たち。

アカデミー賞外国語映画賞を『イーダ』と競った映画らしいです。
作家性ということにおいてはこちらに軍配が上がるでしょう、圧倒されます。
当たっているかどうかはわかりませんが、無神論者の一撃をこの監督が振り下ろした、そんな感じも受けました。

邦題『裁かれるは善人のみ』うーーむ残念なこのタイトル、ことはそう単純ではない、原題の『リヴァイアサン』で良いのに。上映時間2時間半、観客動員は難しいのではないでしょうか。
かなりの傑作であると思います。
観賞には大変なエネルギーが要ります、面白くないかもしれません、そこを我慢して観ていると後半打ちのめされます。

ロシア北部、入り江に面した小さな町、海に横たわる廃船、何やら巨大な生き物の骨(鯨か)、シュールな映像。岸壁には激しく打ち寄せしぶきを上げる波、寒々とした空気、映画冒頭からそれらが不穏な空気を醸し出す。
人間を支配する荒々しい自然、凄い映像です。

 



主人公とその家族、決して上手く行っているとは言えない家族だが、何とか均衡を保って持ちこたえている。
そこに降りかかる災難、理不尽な政治権力に抵抗を試みるもなすすべもなく打ちのめされ崩壊してゆく。
緊迫の不幸の連鎖、国家の枠の中で生きている以上誰もがその枠内から逃れられない、その権力が一方的に理不尽に国民を支配するだけだとしたらどうだろう。
そして、ここではロシア正教だが、宗教は権力者のもので彼らが国民を縛るために利用している、悪を働く者もまた宗教によって自己正当化できる。
そういう社会で生きていくには盲目に宗教に救いを求めるしかないのか。

旧約聖書 ヨブ記
ーー善人の苦難ーー

これを監督がどう解釈しているか、それが映画のテーマではないだろうか。
原題の『リヴァイアサン』とは旧約聖書ヨブ記に出てくるレビヤタンという巨大海獣のことであり、イギリスの政治哲学者ホッブスの著書「リヴァイアサン」のことでもあるようだが(読んでいないので)、内容は国家主権への絶対的服從を説いているようだ。
リヴァイアサンの二つの意味にロシアという巨大な国家を重ね、登場人物たちがなすすべなく蹂躙される姿を描いた物語だ。

人と国家、善と悪、人が人として生きることの重いテーマが描かれています。
それでは救いはないのか。
いえ、かすかに明かりが見えるラストシーンが胸を打ちます。

ロシア映画ですが驚いたことにクレジットの音楽にはフィリップ・グラスの曲が使われています、緊迫感に圧倒されます。
長く厳しい映画ですが、クレジットの最後まで席を立てない迫力がありました。

真面目一方の映画のように見えるレビューですが、かなりきわどいシーンあり、夫婦、親子、友人、それぞれの人間が深く掘り下げられていて、あまりにも人間臭い。特に思春期の息子の描き方が後半大きな余韻を残します。
文学的とも言えると思います。

                 2015年11月Yahoo‼ブログにUPした記事を転載