「ファミリー・ツリー」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」の名匠アレクサンダー・ペイン監督が、「サイドウェイ」でもタッグを組んだポール・ジアマッティを主演に迎えて描いたドラマ。

物語の舞台は、1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。生真面目で皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポールは、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役を務めることに。そんなポールと、母親が再婚したために休暇の間も寄宿舎に居残ることになった学生アンガス、寄宿舎の食堂の料理長として学生たちの面倒を見る一方で、自分の息子をベトナム戦争で亡くしたメアリーという、それぞれ立場も異なり、一見すると共通点のない3人が、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになる。

ポール・ジアマッティが教師ポール役を務め、メアリー役を「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」「ラスティン ワシントンの『あの日』を作った男」のダバイン・ジョイ・ランドルフ、アンガス役を新人のドミニク・セッサが担当。脚本はテレビシリーズ「23号室の小悪魔」「ママと恋に落ちるまで」などに携わってきたデビッド・ヘミングソン。第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した。

2023年製作/133分/PG12/アメリカ
原題:The Holdovers                 映画.comより転載

 

 

アメリカ映画の良さをじっくりと味わう大人の映画

アレクサンダー・ペイン監督作は大好きで『アバウト・シュミット』『ファミリー・ツリー』『サイドウェイ』など、本音の込められたユーモアが痛く温かく、甘さに流れない人情の機微を描いている。

ペイン監督×ポール・ジアマッティとなると(『サイドウェイ』のタッグだ)期待せずにはいられない、そして期待を外さない出来だった。

 

クリスマス休暇に寄宿舎に取り残された嫌われ者の教師ポールと斜に構えた厄介な学生アンガス、そして調理長のメアリー、大きな寄宿舎に取り残された三人三様、心に痛みを抱えている、それらが徐々に明かされていくとともに三人の距離が縮まり信頼感というか親密感というかも芽生えてくる。明かされていく傷がそれぞれに重くその重さがお互いの心のつながりを生むのだと思う、まあ、観客も同じで、共感というものはある程度心を開かないと湧かないもので、そのあたり説得力がある。

 

時は1970年、時代の音楽、ニューイングランドの美しい風景、とても男前とは言えないジアマッティの悲哀と滋味に思わず心打たれるが、それだけでは終わらない。

三人の関りのミラクルでそれぞれが人生の新たな一歩を歩みだしていくのだと思う。

ハッピーエンドな映画ではないが、未来は希望に満ちたものとわかる。

 

最終盤でアンガスとポールが握手するシーン、ポール・ジアマッティの慈愛に満ちた表情に胸打たれる、万感の思いがこもっている、さすが名優であるが、このシーンをクライマックスにもってくるところ、アレクサンダー・ペイン監督の腕の冴えが素晴らしい。

 

料理長役のダバイン・ジョイ・ランドルフがアカデミー賞助演女優賞を受賞した映画だが、演技だけを見れば『オッペンハイマー』のエミリー・ブラントのほうがふさわしいと思うが、作品全体を見てのダバインさんの受賞かな。

 

アンガス役の新人はなかなかの美形ですが23歳くらい?高校生には見えません、彼の不遇な環境から考えて早く大人になった、ということにしておこう(事実そうなんだろう)。