ある中学校で発生した小さな事件が予想もつかない方向へと進み、校内の秩序が崩壊していく様を、ひとりの新任教師の目を通して描いたサスペンススリラー。ドイツの新鋭監督イルケル・チャタクの長編4作目。

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を得ていく。ある時、校内で盗難事件が相次ぎ、カーラの教え子が犯人として疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自に犯人捜しを開始。ひそかに職員室の様子を撮影した映像に、ある人物が盗みを働く瞬間が収められていた。しかし、盗難事件をめぐるカーラや学校側の対応は、やがて保護者の批判や生徒の反発、同僚教師との対立といった事態を招いてしまう。後戻りのできないカーラは、次第に孤立無援の窮地に追い込まれていく。

主演は映画「白いリボン」やテレビシリーズ「THE SWARM ザ・スウォーム」で活躍するレオニー・ベネシュ。ドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞で作品賞はじめ5部門を受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。

2022年製作/99分/G/ドイツ
原題:Das Lehrerzimmer                  映画.comより転載

 

 

 

中学生ともなれば、大人でも子供でもない

大人であり教師という立場であっても熟慮が足りなかったということもあるし、子供だと思っても実は配慮もあり、大人以上の計算高さを持っていたりもする。

 

今になって思うが私も子供のころは大人はもっと大人、子供とは違うんだと思っていた。そして大人になった私はそれが間違いではなかったか、と思うようになっている、いや、間違いなんだ、大人になる人もいればならない人もいる。

なので大人に過剰な期待をしてはいけないと、もう人生の終りに差し掛かってそう思う。

映画とは何の関係もないような話だけれど、そうでもない。

 

日本と違い移民社会のドイツ、こういう学校の事情を描いたフランス映画は多いが、ドイツ映画は初めてで興味深い、しかも心理劇のサスペンススリラー。

どこの国でもこういう年代の子供の指導は難しいと思う、日本まだ移民はさほど多くはない、学校の負担になるほどではないだろうが、日本独特の問題があるのだろうと思う、この映画を観ても思うが、子供たちの成熟度は日本とはかなり違うように思う。

一見、何事もなく授業が進んでいても、何かの出来事で彼らのバックグラウンドがわかり、それぞれの個性が見えてくる。

それらに対処するのはかなりの力量が要るように思う、なので、校長が何度か口にする「ゼロ・トレランス(非寛容)方式」がこの学校では採用されているのだろう。

行われた事実にのみ処置方法や処分を当てはめる、情状酌量のようなものはなく、まあ、人情の入る余地がないというか。

それに反発をおぼえ、何とか回避したいと必死になればなるほど追い詰められていく新任教師のカーラ。

その行動が空回りしていくのは本人の未熟さのせいでもあるし、校長の対処がまずかったせいでもあるので、生徒や親たちばかりに問題があるわけではないとは思う、それでも日本もそうだけれど、とにかくストレス半端ない職業だ。

本作でもカーラは過呼吸に陥っていたし、日本でも鬱で休職という教師はとても多い。

 

主人公のカーラは誠実な人柄だ、なのでなおさら追い詰められていく。

ただ、分かってないな~というところがあり、それも彼女を追い詰めた原因だろう。
例えば、彼女が授業が始まる前生徒も含めみんなで行う朝の挨拶、中学でこれをやりますか?幼稚園じゃあるまいし、と思っていたら、案の定、生徒たちは誰もが”子供じゃないんだからさ~”と内心思っていたが、先生に合わせてくれていたというのを彼女が全く気が付いていなかったという痛さがあった。

そういう面は他の行動にも出ていたのだと思う、余裕がないということでしょうか。
演じるレオニー・ベネシュさんという女優、そういう一面も上手く演じていたと思う。

 

 

彼女が追い詰められていくのと入れ替わりに存在感を増していく一人の生徒、盗みの疑いを懸けられて休職に追い込まれた職員の息子。

カーラは彼をかばい気にかけている、でも心はすれ違っていくし通じない。

心というのはデリケートで厄介なものだけれど、カーラの手に余るのだ、そしてそこを少年に見抜かれていたと思う。

この少年が思いっきり魅力的で、終盤にはこの少年がすべてをさらって主役の座に座る、そんな感じ。

 

 

 

見応えはありました、ただ、これはどういう映画なんだろうか、教師の敗北と言ってよいのかな。
ラストシーンがこの映画の高評価につながっているのだろうけど、ちょっとあざとい描き方というか。