「レオン」のリュック・ベッソンが実際の事件に着想を得て監督・脚本を手がけたバイオレンスアクション。

ある夜、1台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装男性がおり、荷台には十数匹の犬が乗せられていた。「ドッグマン」と呼ばれるその男は、自らの半生について語り始める。犬小屋に入れられ、暴力を浴びて育った少年時代。犬たちの存在に救われながら成長していく中で恋を経験し、世間になじもうとするも、人に裏切られて深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼は、生きていくために犬たちとともに犯罪に手を染めるが、「死刑執行人」と呼ばれるギャングに目をつけられてしまう。

「アンチヴァイラル」「ゲット・アウト」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主演を務め、圧倒的な存在感でドッグマンを演じきった。共演は「フレッシュ」のジョージョー・T・ギッブス、「ザ・ベイ」のクリストファー・デナム。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。

2023年製作/114分/PG12/フランス
原題:Dogman                      映画.comより転載

 

 

犬は裏切らない

リュック・ベッソン監督作は『レオン』を観て以来だ、嫌いではないが特に好きでもない。

鑑賞予定になかったが、上映終了間近になって鑑賞を決めたのは、主演がケイレブ・ランドリー・ジョーンズがどんな俳優だったかわかったからだ。

『スリー・ビルボード』で、あっ、好み、この俳優注目だわ、と思いながらすっかり忘れていた。もう一つ鑑賞の決め手になったのは、やはり犬だろう、犬を傷つけてはいない、主人公との信頼関がよさげだったから。

 

傷を負った女装の不審人物ダグラスが警察署に収監されるシーンから始まる、トラックに多数の犬を積んでいたこの男は何者か。

担当の精神科医との対話でこの男の生い立ちが回想されていく、精神科医の現在の不安定な私生活が同時に描かれているのも良い。

犬小屋に押し込められ、父からの暴力で脊椎損傷の傷を負い車いすでの生活に、養護施設を転々として生活する、公営の犬のシェルター管理の仕事を得るも、そこが閉鎖になり、犬たちとの新しい生活を始めるが、社会との接点ができるとともに厄介な問題が起きてくる。

ダグラスは命が惜しくないのだから、事件は起きるべくして起きる、生きていくには金が要る、犬を使っての窃盗、罪悪感はないし、犬は可愛いし、ユーモラスで楽しませてくれるが、命が惜しくない人間だから残虐というわけではなく、人間性を失わない、というより心の芯に聖なるものを持っているといってよい人物なのだと思う、だから魅力的。

 

職を求めようやく拾ってくれたところが、ドラァグクイーンの舞台を売りにしている酒場、女装したダグラスは口パクでエディット・ピアフを歌う、ものすごく魅力的、マレーネ・ディートリッヒにも熱狂的な拍手が、そして次はマリリン・モンローというところで事件が起きて冒頭のシーンへと続く。

ここから最終盤へと。ダグラスが選んだのは、これはリュック・ベッソンならではの”絵”である、どっぷりと浸れる映画かなと思います。

ケイレブ・ランドリー・ジョーンズという魅力的な俳優を得てベッソン監督が作り上げた新境地というところあります、かつての新感覚派の監督、面目躍如というところあり。

 

本作もまた使われている音楽がとても魅力的です。