「そして、バトンは渡された」などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。

PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。

NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が山添くん役と藤沢さん役でそれぞれ主演を務め、2人が働く会社の社長を光石研、藤沢さんの母をりょう、山添くんの前の職場の上司を渋川清彦が演じる。2024年・第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品。

2024年製作/119分/G/日本              映画.comより転載

 

 

鑑賞予定になかった映画だが、ブログ友さんの記事で俄然気になって、上映終了間近に鑑賞、観客も多く、自分の情報量の貧しさを反省。

『きみの鳥はうたえる』の監督作なのですね。

三宅監督は、『きみの鳥はうたえる』で、一皮むけたというか、個性が確立してきたというか、本作も目に見えないような微細な心の機微を作品に潜ませるのがとても巧みです。

キャストもとても良いし俳優さんもそれに応える演技で、見応えという言葉ではなく、暖かい気持ち?優しい気持ち?幸せな気持ち?そんな言葉を並べたくなる映画です。

藤沢さんと山添くんはお互い生き辛さ(障害かな?)を抱えているのだけれど職場ではじめて出会ったころは分かり合えなかった、二人が同志のような気持になれたのは周りの人たちの思いやりとか程よい距離感とか余裕のある気持ちがあってのことだろう、絶妙なフォローがあったりして。

周りの人との距離感を掴めない孤立気味の山添君と過剰に適応しようとする藤沢さん、二人に恋愛に発展するような接点は全くないのだけれど、男女の友情は成り立つね、みたいなところがあって、ここ、何か説得力があるのです。

 

ちょっと危うい空気の読めなさ、上白石さん上手い!

 

山添くんの元の上司が、彼の状態を心配して現在働いている会社を紹介して働くようになったようだが、元上司も現社長も過去にいわくあり、あたたかく二人を見守ってくれる、事情を分かっている同僚もまた同じだ。

あくせく働かなければいけないような会社ではない、現実にはこんなところはないのだろうと思う、でも現実を描くばかりが映画ではない。

最後のプラネタリウムがクライマックスだろうが劇的なことが起こるわけではない、でもなぜか(何故かではなく理由があるのだけれど)心にしみる。

映画中ごろにあった台詞「太陽は東から昇って西に沈む」っておかしくない?

太陽は動かないよ、地球が動いているだけ、という言葉は、映画最後まで心に残っている。

そして藤沢さんは新しい人生の選択をする、山添君も自分の立ち位置を確認する。

 

藤沢さんを演じた上白石萌音さんがとても良い、彼女でなければこの映画は成功しなかったのではないかという個性だった。