「野火」「斬、」の塚本晋也監督が、終戦直後の闇市を舞台に絶望と闇を抱えながら生きる人々の姿を描いたドラマ。
焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできずに日々をやり過ごしていた。そんなある日、空襲で家族を失った子どもが、女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込む。それ以来、子どもはそこに入り浸るようになり、女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしていく。
「生きてるだけで、愛。」の趣里が主人公の女を繊細かつ大胆に演じ、片腕が動かない謎の男役で森山未來、戦争孤児役で「ラーゲリより愛を込めて」の子役・塚尾桜雅、復員した若い兵士役で「スペシャルアクターズ」の河野宏紀が共演。2023年・第80回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され、優れたアジア映画に贈られるNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。
2023年製作/95分/G/日本 映画.comより転載
戦争が終わっても人々の体や心から戦争の傷痕は消えない、生き延びたとしても生きながら人生が終わってしまった人たちもいる。
戦争はどうやって始まったのか、どうやって終わったのか、悲惨な敗戦、ボロボロの国民、その原因はどこにあったのか。
わずかに日本軍は加害者であったということは描かれている、でもそれはわずかだ。
それでも従来のように、国を守るため、愛する人たちを守るためというきれいごとだけを描いているわけではない。
ちょっと話がそれますが、敗戦時日本はボロボロだった、国民は本作で描かれるように悲惨な状態だった、戦争の責任はどこに。追及はされた、そしてA級戦犯と判決を受けた人たちがいる、その中の一人の末裔が後年日本をボロボロにした、その後遺症が腐臭を発しているのが今の政界だ、そしてその人物を熱狂的に支持した人たち、無関心な人たち、その人たちも今現在の日本の戦犯と言えると思う。
つまりは戦時は未だに続いている、そして世界はどんどん不穏な状態になっている、先行き不透明だ。
映画に戻ると、前半は戦争で夫も子供も失くしたと思われる女、焼け残った飲み屋で酒と体を売って暮らしている、ここまで堕ちたのは絶望しか残されていなかったからだろう。若い復員兵と戦災孤児の少年が出入りし始め、肩を寄せ合って暮らすかに見えたが復員兵は心を病んで闇に堕ち、彼らの関係は、崩壊する。
後半、少年は別の復員兵と出会い彼の手伝いをすることになる、復員兵の目的とは復讐だろうけれど、それで彼は救われるのか、そんなはずはない。
女も男も絶望からは逃れられない。
しかし、国民はたくましく、少しずつであるが復興の途につきつつある、人は弱いものでもあるが強いものでもある、これは少年の物語だ、生きる力が復活しつつある闇市で少年は自分の人生を切り開いていくであろう、少年には日本国民が投影されているのでしょう(飲み屋の女と後半の復員兵の屍を超えて、というところあり)。
映画は前半の趣里さんパート、後半森山未來さんパートとなっていますが、お二人とも演技が舞台的というか、インパクトはあるのですが不自然なところを感じ、描きたいのは少年の物語という主題が薄れてしまったのは残念。