老人ホームの内偵のため入居者として潜入した83歳の男性セルヒオの調査活動を通して、ホームの入居者たちのさまざまな人生模様が浮かび上がる様子を描いたドキュメンタリー。妻を亡くして新たな生きがいを探していた83歳の男性セルヒオは、80~90歳の男性が条件という探偵事務所の求人に応募する。その業務内容はある老人ホームの内定調査で、依頼人はホームに入居している母が虐待されているのではないかという疑念を抱いていた。セルヒオはスパイとして老人ホームに入居し、ホームでの生活の様子を毎日ひそかに報告することなるが、誰からも好まれる心優しい彼は、調査を行うかたわら、いつしか悩み多き入居者たちの良き相談相手となっていく。舞台となった老人ホームの許可を得て、スパイとは明かさずに3カ月間撮影された。第17回ラテンビート映画祭や第33回東京国際映画祭では「老人スパイ」のタイトルで上映。第93回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。

2020年製作/89分/G/チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作
原題:El agente topo                                                   映画.comより転載

 

 

言葉にすればとても簡単なこと  (ネタバレ)

「母が虐待されていないか心配、調べてほしい」そんな依頼で高齢な潜入捜査官を必要とする探偵社の面接を受けた83歳のセルヒオは見込まれてというよりほかの老人より役に立ちそう、ということで老人ホームへ、スマホの扱いもスパイグッズの扱いもおぼつかないのだけれど、という”ドキュメンタリー”なのですが・・・これってドキュメンタリーと言えばそうだけれど、そこにはあまり意味がないような気がします。

チリにあるキリスト教系の老人ホーム、ごく普通のところではないかなと思います、高級でもないし、劣悪でもない、完全個室というわけではないですが入居者にさほど不満もないようで・・・・たぶん、歩行が不自由とか認知症が入っているとか、ふさぎ込んで心を閉ざしているとか、そういう人には個室ではないほうが安心なのかもしれないし、皆さんそんなに不満もなく生活していらっしゃるように見えましたが老いていることの大変さはうかがえます、入居者の大半は女性、日本と状況が似ていると思えるのもこの映画の着地に共感を覚える一因になっています。
もちろんドキュメンタリーですから老人たちが演技をしているわけではありません、その日常を撮影しているのですが、演技など必要ない、彼女たちの心のうちの寂しさ、不安感はとても伝わってきます。

3か月間の撮影、セルヒオさんの人徳というか誰からも好かれる人柄、やさしさとか率直さとかが伝わってきます(彼が選ばれた理由はそこかも)。

その率直さで彼が感じ吐露した思い、それは自分が恵まれていて幸せなのだなということ。
自分の状況と対比して、ホームの老女たちの寂しさがよくわかる、老人同士なればこそ。
「虐待はない、必要なのは家族が面会に来て自分の目で確かめること」だったか?はっきりとは記憶にないが「家族の写真を送って」とも、そんな意味の結論が出たのだったと思う。

でもセルヒオは言外に会いに来てあげてと思っているし、観客もそう思う。

当然というかありきたりな着地なのですが、そのありきたりということが実はとても難しい、人間というのは自分のことには勝手なものなんだ、と思いました。
映画を観ていると、どの老人にもほとんど面会はない、これは特殊ではないというのが現実でしょう。

ドキュメンタリー映画ということはすっかり失念していましたが、実在のチリの老人ホーム、建物は可愛くて、花がいっぱい、猫があちこちにいました、日本のホームにはセラピー犬、猫のいるところも多いですが、このホームの猫にはそういう役割はないようです。