しばらく、いつまでになるか映画館で映画を鑑賞という楽しみはお休みになりました。

大手映画館はともかく、ミニシアターはどこも大変な苦境でしょう、映画は単なる娯楽ではなく文化と位置づけ補助金、助成金などの予算をお願いしたいです。

この機会に見逃した映画よりもう一度観たいという映画を、あのシーンをもう一度観たいとか、あの時の演技が素晴らしかった、あの表情をもう一度、というわけで鑑賞。

 

英題  De-Lovely

監督  アーウィン・ウィンクラー

脚本  ジェイ・コックス

出演  ケヴィン・クライン アシュレイ・ジャッド ジョナサン・プライス

制作年 2004年

制作国 アメリカ・イギリス合作

 

         

 

人生は舞台(ネタバレ)

この映画はコール・ポーターの名曲ありきです、その名曲を、ダイアナ・クラールやシェリル・クロウ、エルヴィス・コステロといった贅沢な実力派スター歌手が歌ってくれます。

映画はよくある回想ということでコール・ポーターの人生が描かれますが、ミュージカル形式の舞台として進行します。

 

「葬儀に遅れてもいいのかい?」

ピアノを弾く老いたコール(ケヴィン・クライン、老けメイクが巧い)に寄り添うように現れるゲイヴ(ジョナサン・プライス)。

結構凝った造りで、コール・ポーターの葬儀なのです、なのでこのシーンは幻想というものなのでしょう、では、ゲイヴは?

 

次のシーンで二人は古びた劇場の観客席に、さあ、舞台の幕開け。

です。

案内役はゲイヴ。

 

パリでの出会い、ピアノを弾くコール、一目見て彼の才能を感じたパリで一番の美女と言われたリンダ(アシュレイ・ジャッド)、二人は恋に落ちる。

この時の二人の思いには表面上描かれていないものがあったというのは後々にわかってくるのだけれど、それでもロマンチックで美しい。

 

コールは働く必要がないくらい裕福であったらしい、ベニスでの華やかな暮らし、リンダの才覚でNYへ、ブロードウェイでの成功、心機一転気が進まないながらもハリウッドへ、このあたりの事情がミュージカル形式で描かれ、彼らは成功の螺旋階段を上っていく。

ブロードウェイ舞台の魅力は、映画中舞台またその中の舞台シーンとして本作の見所です。

 

華やかなショービズ界、社交界のスター。

しかし幸せなばかりの人はいない。

コールはゲイであり、リンダはそれをわかって結婚した、才能に惚れたということもあるだろうし、自分をだれよりも大切にしてくれるコール、離婚を経験して男と女というより人間対人間ということを求めたのかもしれない。

だけど、気が付く、自分は彼にとって大切な複数の人物の中の一人にすぎないと。

結婚をどう考えるかだけれど、結婚は契約でもある、コールはその契約を守る気はなかった。

「あなたは変わったわ」

変わってはいない、コールの身勝手は最初からだと思うが、でも彼はリンダを必要としていたし大切にも思っていたのは間違いないだろう。

 

彼らはお互いに必要としていたし、そういう意味で愛し愛された夫婦として美しく描かれている。

人生の終盤、不幸に打ちのめされる中でも素晴らしい曲は紡ぎ出される。

ピアノを弾き曲を口ずさむコールの横に寄り添うリンダ、すべてを理解していてそれでもという彼女の心のうちはどうだったんだろう。

切なく、美しく、そして満足そうだ。

 

「すべて君のために作った曲だ」

「その中のいくつかはね」

 

 

最終盤は冒頭に戻り劇場の観客席

ゲイヴの台詞「彼女のために曲を作ったんだろう?」

「いくつかはね」と答えるコール。

 

「ガブリエル、ラッパを吹け」

ゲイヴが歌って踊る、走馬灯のように華やかに彼の人生を彩った人たちが歌い踊る。

リンダもいる、思い通りに生きた幸せな人生だった。

 

大天使ガブリエルにいざなわれ、新しい舞台に。

 

苦い毒を含んだ美しい夫婦愛の物語。

 

1920~30年代のパリ、NY、ベニス、ハリウッド、魅力的な映像、ケヴィン・クラインとアシュレイ・ジャッドの着こなす洗練された衣装はため息ものです。