「オズの魔法使」で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優ジュディ・ガーランドが、47歳の若さで急逝する半年前の1968年冬に行ったロンドン公演の日々を鮮烈に描いた伝記ドラマ。「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのレニー・ゼルウィガーが、ジュディの奔放で愛すべき女性像と、その圧倒的なカリスマ性で人々を惹きつける姿を見事に演じきり、第92回アカデミー賞をはじめ、ゴールデングローブ賞など数多くの映画賞で主演女優賞を受賞した。1968年。かつてミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨したジュディは、度重なる遅刻や無断欠勤によって映画出演のオファーが途絶え、巡業ショーで生計を立てる日々を送っていた。住む家もなく借金も膨らむばかりの彼女は、幼い娘や息子との幸せな生活のため、起死回生をかけてロンドン公演へと旅立つ。共演に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のフィン・ウィットロック、テレビドラマ「チェルノブイリ」のジェシー・バックリー、「ハリー・ポッター」シリーズのマイケル・ガンボン。「トゥルー・ストーリー」のルパート・グールド監督がメガホンをとった。

2019年製作/118分/G/イギリス
原題:Judy

 

        

レネー・ゼルウィガーの演技に圧倒される

アカデミー賞授賞式のレネーは貫禄十分、洗練されたドレスがよく似合い、美貌・実力ともに備わった並みいるスターたちの中で女王のオーラをまとっていた。
それもそのはず、主演女優賞は彼女しかないと言われていた、そして本作を観て納得、ジュディ・ガーランドに憑依されたような迫真の演技、そして圧巻の歌唱力でレネーの作る世界に引き込まれてしまった。
ただ、それは映画世界に引き込まれたというわけではないのが残念だが、平板な脚本、演出の映画を見ごたえある映画にしている彼女の功績は大きい。

映画では47歳で早世する最晩年、薬物に蝕まれ子供とも引き離されロンドンで再起を賭けるそのわずかな日々を描いている、それと交互に『オズの魔法使い』のドロシー役を得てスターダムを駆け上がる頃が描かれる。伝記というわけではないが大体のところは推測できる。
合法覚醒剤と睡眠剤で管理される、そんな風にスターを育てる時代だったのだろう、そういえばハリウッドでの子役上がりの俳優はドラックでつぶれてしまう人が多いのはこういうことかもと思い当たるところもあった。

ステージママ、というか幼いころからショービズ界で育ち条件付きではない親の愛を知らなかったのかもしれない。
4度の結婚、子供たちへの依存、薬物依存、そこに見えるのは愛情飢餓症ともいえるものかもしれない。
永遠の子供という感じがした。

求めても求めても得られないもの、人生とはそういうものだとはある程度の年齢になると諦念のようなものを持つ、悲しいけれど人は孤独だ、それを受け入れるしかないのだけれど。
それができなかった47年の人生、そこを映画そのものでは描けてはいない。
しかしレネーが作り上げたジュディには魂がこもっていた。
ドラッグでやつれ精神が壊れかかっている、そんなところもリアルだった。

47年を生きた心のありったけで歌う、それは観客の心を惹きつけて離さないものがある、その姿を再現するレネーは凄い説得力だ。
プロのジャズ歌手としても申し分のない魂のこもった歌いっぷり。
ロンドンでの最初のステージで心つかまれた、そして人生のすべてを歌に籠めたようなラストステージに圧倒される。
愛を求め苦悩に満ちた彼女の人生がすべてこの一瞬で彼女にとって光り輝くものになったような気がした。

精いっぱい生きた、求めた、そして歌った、彼女は不幸ではなかった、報われた、そんな気がした。