第六場 (誠吉と常彦とタミとカナコ 前編)
続きを打ちながら、早百合に気になった
事をたずねる良一。
良一 (打ちながら)なぜ、自分の名前が嫌いなのか分かった
けど、美河早百合と言うペンネームは何が由来なの？
早百合 『それでも僕は君のことが好き』って言う学園漫画に
登場する美川さゆりちゃんがとても共感出来るキャラで、
その子の名前を少し変えて・・・
良一 ペンネームにしたんだね？
早百合 （頷く）
良一 なるほど・・・。じゃぁ、この作品の元は？
早百合 実家で同居してる祖父母の若かりし時の話が元になっ
てるの・・・
良一 （打つ手を止め、画面を見ながら）フーン・・・
早百合 小学3年のある日、母の幼少時代のアルバムを見せて
もらった事があって・・・
良一 お母さんの？
早百合 そう。はじめは、母と二人で見てたんだけど、途中か
ら祖母も加わって三人で見ていたら、祖父母の写真が何
枚か混じってて、その写真を見ながら祖母が懐かしそう
に当時のことを話してくれたの・・・
良一 写真か。そう言えば、僕の家族も昔結構撮ってた・・・。
それがいま、僕の手元にあるのはチョビも一緒に写る一枚
だけになってしまった・・・・。（少し切なそうに）た
まに思うんだ・・・
早百合 思うってナニを？
良一 あの時、親父に異動が出てなかったら、僕ら家族は
にならなかったし、賑やかな毎日を送ってただろなって・・・
早百合 ・・・・・。そうだったかもしれないね・・・
良一 もし、過去に戻ってやり直すことが出来るなら、引っ越
しをするより以前に戻りたいよ・・・
早百合 ・・・・・・
良一 なぁ～んてね。いまの冗談だから・・・。(早百合をチラッ
と見て）話、変えるね。作品の中では近所に越して来たタミ
子さん家族が揃って正吉さん家に挨拶しに来たのが、二人の
最初の出会いってなってるけど、実際もそうだったの？
早百合 実際の二人は中学の同級生で、中学2年の時に祖母が祖父の
いるクラスに転校してきたのが最初の出会いだと聞いてる
良一 そうなんだ
早百合 当時祖父は学級委員長をしていて・・・
良一 それはおじいさん自ら進んで立候補したの？
早百合 それが違うの。後日、祖父から聞いた話によると・・・
誠吉が現れ、舞台中央に低いテーブル。誠吉が新
聞を見てる隣に早百合が座り、スポットがあたる。
早百合(マヤ） ねぇ、じいちゃん？
誠吉 (新聞を見ながら）うん？なんじゃ？
早百合(マヤ） このあいだ、ばあちゃんが言ってたんだけど、じいちゃん
は昔、学級委員長だったの？
誠吉 あぁ、そうだよ。中学2年の時な・・・
早百合(マヤ） へぇ・・・
誠吉 (新聞をたたんで、コソコソ話すように）ココだけの話。
正直言って、学級委員長なんてホントはやりたくなかった
んだ・・・
早百合(マヤ） え、そうなの？
誠吉 そうじゃよ。ホームルームにクラスでの体育祭や文化祭
の決め事を仕切らなきゃならないし、集合した時に点呼を
取ったりと、面倒くさい事が多かったから・・・
早百合(マヤ） そうだったんだ
誠吉 同じ事をじいちゃんだけでなく、クラス全員思ってたか
ら、立候補する生徒が一人も居なくて、担任の先生を困
らせる事になってな・・・
早百合（マヤ） 一人もっ？！それで、どうやって決めたの？
誠吉 （不満げに）くじ引きじゃ。担任が用意した一枚だけ当た
りくじの入った箱を順番に引いていき、その結果・・・
早百合（マヤ） じいちゃんが当たりくじを引いちゃったんだね
誠吉 （不満そうに）フンッ、ナニが当たりくじだ！あの時、貧
乏くじを引いた気分になったわ・・・。なんとなく、引く
前にいやぁ～な予感がしたんだ。その予感がまさか見事的
中するとは・・・
誠吉のスポットが消え、良一に当たる。
良一 クジ引きで決めたのかぁ・・・。僕もクジ運悪いんだよね。
だから、ドリームジャンボ宝くじなんて一度も買ったことない
・・・。買ったことある？
早百合 (首を振りながら）一度もない・・・。話の続きだけど、学
級委員長になってからじいちゃん、性格が真面目だから、内
心嫌々ながらも仕事はしっかり務めたって言ってた
良一 そっかぁ・・・。（何かを思い出す）そうだ。学級委員長だ
ったらさぁ？おばあさんを学校案内したんじゃない？僕も転
校先の学級委員長に案内してもらったから・・・
早百合 そう言えば言ってた。先生に頼まれ祖母を案内したって・・・
（何かを思い出し、 表情が曇る）
良一 （表情に気づき）どうかした？
早百合 話しの途中で、買い物から帰って来た祖母も話に加わったん
だけど、この時思いがけない話を聞かされる事に・・・
良一 ナニ？その思いがけない話って？
早百合 それが・・・
良一のスポットが消え、再び誠吉に当たる。
誠吉 担任の先生から転校生を校内案内するよう頼まれてな・・・
早百合(マヤ） で、案内したんだ・・・。その時、ばあちゃんとナニ喋ったの？
誠吉 ナニって、校内案内したのがその時がはじめてだったから、正
直言って何を話せば良いか分からず、それで学校の役に立つかど
うか分からないような話をしながら案内していると、突然背後か
ら声を掛けられて・・・
外出してたタミが帰って来る。
タミの声 ただいまぁー
早百合(マヤ） (声に気づく）あ、ばあちゃん帰って来た！！
タミが登場して、スポットが当たる。
早百合(マヤ） ばあちゃん、お帰りなさい
誠吉 お帰り、タミさん
タミ ただいまぁ。(疲れた表情で）ハァ・・・・。今日はデパート
がとても混んでたから、用事を済ませて、地下の食料品に少し寄
って帰って来ちゃった・・・
誠吉 そうだったの。お疲れさま・・・
タミ ホント、疲れました・・・。マヤちゃんは、じいちゃんとナニ
をしていたのかな？
早百合(マヤ） あのね、じいちゃんとばあちゃんの昔の話聞いてたの・・・
タミ そう。昔の話を聞いてたの・・・ （誠吉をチラッと見る）
誠吉 （目を反らす）・・・・・・・
タミ ・・・・・・・・。(何か思い出し）あ、そうだ。いちご大福買
って来たんだけど、マヤちゃん食べる？
早百合(マヤ） えっ？いちご大福？！うん、食べる！！
タミ リビングのテーブルに置いて来たから、持ってくるね(立ち上が
ろうとする）
早百合(マヤ） （立ち上がり）ばあちゃん、座ってて。マヤが取ってくる！
タミ あら、ホント？じゃ、テーブルに置いてる紙袋を持ってきて・・・
早百合(マヤ） ハァーイ！！(去る）
マヤが取りに行くのを見届け、誠吉に気になった
事をたずねるタミ。
タミ マヤちゃんに、昔の話をされたのですか？
誠吉 話したって言っても、聞かれた事を答えただけで、それ以外
はなにも話してない・・・
タミ なにを聞かれたんですか？
誠吉 学級委員長をしてた時の事だよ。ワシがタミさんを校内案内し
たと言う話をしてるところへタミさんが帰って来たんだ。大丈夫。
あの話には全く触れてないから・・・
タミ そうですか・・・。このあいだ、三人でアルバムを見たあと、
マヤちゃんが居なくなってから、「あの話をマヤちゃんに話をす
るのは、もう少し先にしよう」と愛美とも話がついてるんです
よ・・・
誠吉 そっかぁ、参ったな・・・。マヤちゃんにコレからどう話の
続きをすれば・・・
タミ だったら、誤魔化さず全て話すしかないじゃないですか？愛美
には私が責任を持って話して謝りますから
誠吉 良いのか？
タミ いつかは話さなければならないのですから・・・
誠吉 そっかぁ。分かった
早百合(マヤ）がいちご大福の入った紙袋を持って
戻って来る。
早百合(マヤ） ばあちゃん、持ってきたよぉ
誠吉・タミ (マヤの声にビクッとなる）
誠吉 (小声で）いまの話、マヤちゃんに聞かれたかな？
タミ (小声で）さぁ・・・
誠吉とタミ、ゆっくり振り向く
タミ ありがとうマヤちゃん・・・
早百合(マヤ） 開けていい？
タミ えぇ、いいわよ
早百合(マヤ） (開けて）うわぁ・・・。いただきます！
三人、イチゴ大福を取って食べる。
早百合(マヤ） (食べながら）じいちゃん。さっきの話の続き聞きたい・・・
誠吉 話の続きだな？ヨシ、ヨシ・・・
タミ ねぇ、マヤちゃん？ばあちゃんも入って良いかな？
早百合(マヤ） 良いよ
タミ ありがとう
誠吉 それじゃ、続きをはじめるね・・・。転校生のタミさんを校
内案内していると、背後から聞き馴れた声で名前を呼ぶのが
聞こえたから振り返った先に、違うクラスの親友が嬉しそう
に手を振るのが見えてな・・・
タミ このあいだ見てたアルバムに、男性が一人で写ってる写真
があったの覚えてる？
早百合(マヤ） うん、覚えてるよ
誠吉 そんな写真があったのか？
タミ えぇ、最後の方に・・・。アルバム持ってきましょうか？
誠吉 あぁ、すまないねぇ
タミ (立ち上がって取りに行く)
誠吉 その親友は、前に住んでた家の隣人で、産まれたのも近所
の同じ病院で向こうが1日早く産まれた
早百合(マヤ） へぇ。そんな偶然あるんだ。すごいね・・・
タミがアルバムを持って戻り誠吉に渡す。
タミ ハイ
誠吉 あっ、ありがとう(アルバムを受け取り、パラパラめくる）
タミ 山に登ることがなにより好きで、登ったことをいつも楽し
そうに私達に話してくれたの・・・
誠吉 あ、あった。（写真を見て微笑んで)嬉しそうに笑ってる
よ・・・
早百合(マヤ） ばあちゃん、この人のこと知ってるの？
タミ (ニッコリ微笑みながら)知ってるもなにも。ばあちゃんは
ね、この人と昔付き合ってたのよ・・・
早百合(マヤ） （驚く）えっ、この人と？
タミ えぇ、そうよ・・・
早百合(マヤ） (少し混乱してる）えっ？えっ？じゃぁ、じいちゃんとはい
つ付き合ったの？
誠吉・タミ (気づかれないように、アイコンタクトで会話する)
タミ (優しく微笑みながら）あのね、マヤちゃん？
早百合(マヤ） ナニ？
タミ 実は、マヤちゃんに聞いてもらいたいお話があるの・・・
早百合(マヤ） 聞いてもらいたいお話し？？？？
タミ そう。ホント言うと、マヤちゃんがもう少しお姉さんになっ
た時に話すつもりだったけど、ある理由でいま話すことになっ
たの・・・聞いてくれる？
早百合(マヤ） いいよ
タミ ありがとう。じゃぁまず、さっきした質問の答えだけど、じ
いちゃんと付き合ったのは、二十歳を過ぎてから。それまで
ばあちゃんは、この写真に写ってる村瀬常彦さんと付き合っ
てたの・・・
早百合（マヤ） いつから？
タミ 中学三年からよ。じいちゃんと入れ替わる感じで同じクラス
になったある日の放課後、体育館の裏に呼び出され告白され
たの
常彦が現れスポットが当たる。
常彦 （緊張しながら）えぇぇぇっと・・・。去年、廊下であなたを
見た時から、ずっっっと気になってました。なので、ぼっ、僕
と・・・・あの、僕と付き合ってくださいっ！！お願いします
！！！！！！
スポットが消え、常彦去る。
タミ （笑みを浮かべながら）彼、告白するあいだ、ガチガチに緊張
してたわ
早百合（マヤ） へぇ、緊張してたんだ・・・。それで？どんなデートしてた
の？
タミ 付き合い始めの頃は、映画やショッピングデートが多かった
けど、何度目かのデートでハイキングへ行くようになったの・・・
早百合（マヤ） そう言えば村瀬さん、山登りが好きって言ってたね
タミ 聞いた話だと、彼は小学生の時から休日は家族でアウトドア
に出掛けてたそうだけど、ばあちゃんの家族はそう言うのがな
かったから、彼が話す自然の魅力を聞いてるうちに、自然に興
味が湧いてね・・・。それから普通のデートだけでなくアウト
ドアデートもするようになったの・・・。森の中ってね、見た
事のない植物の発見や、小鳥のさえずりや自然の音の心地良さ
を感じるだけでなく、空気がとても澄んでて美味しいの・・・
早百合（マヤ） （想像しながら）へぇぇぇっ、そうなんだ・・・。（あること
に疑問を持つ）・・・・・・んねぇ、ばあちゃん？
タミ ナニ？
早百合（マヤ） 村瀬さんとデートしてて、楽しかった？
タミ えぇ、楽しかったわよ
早百合（マヤ） じゃなぜ村瀬さんとお別れしたの？
タミ （ドキッとなる）・・・・・。えっ？
誠吉 ・・・・・・・・・
早百合（マヤ） だって、お別れしたから、じいちゃんと付き合ったんでし
ょ？！その人と喧嘩しちゃったの？
タミ 確かにそうだけど、喧嘩が理由でお別れしたんじゃないのよ
早百合（マヤ） え、違うの？
タミ そうよ・・・。アラやだ、目にゴミが・・・・（薄っすらと涙）
早百合（マヤ） ばあちゃん、大丈夫？
タミ (涙を堪え）えぇ、大丈夫・・・。大丈夫だからね
早百合（マヤ） （心配そうに見つめる）
誠吉 タミさん？ワシが代わりに話そうか？
タミ （涙声で）おっ、お願いしてもいいっ？
誠吉 わかった
(誠吉と常彦とタミとカナコ 中編に続く）