第8幕の5 | 百火繚乱

百火繚乱

特撮大好きです。変身する前も後も、変身した中の人も、声の人も好きです。
ゴーカイジャー、シンケンジャー、仮面ライダー中心かな。
シンケンジャーの小説、殿様で恋愛小説も書いてます。

 観覧車に並んでいるのは恋人同士ばかりだった。丈瑠達の番が来て、栞は丈瑠と向かい合って座る。
 ゴンドラの中は思ったより狭くて、丈瑠の膝が、くっつきそうなくらい近くにあって、栞は、窓の外を見ている丈瑠をそっと見た。息が詰まりそうな程丈瑠が好きだ。また来ればいいと言ってくれた丈瑠の言葉を、ただ素直に受け入れる事が出来たら、どんなに幸せだろうと思うと苦しくなる。栞は、泣きそうになるのを両手を握りしめて堪えた。
「怖いのか?」
急に聞かれて、栞が顔を上げる。俯いて両手を握っていたので、怖いのかと思ったらしい。
「怖いなら怖いとちゃんと言え」
真顔で言われて、栞は首を振った。
「大丈夫です。高いところは好きなんです。・・丈瑠様は?」
苦手な物に無理に付き合わせてばかりだったので、また不安になる。
「俺も、高いところは大丈夫だ」
丈瑠が少し笑って言ったので、ほっとする。
「じゃあ、今度は、眺めのいい所に、・・・」
ほっとしたあまり口走った言葉に、栞ははっとして唇を噛むと、目を逸らした。丈瑠も栞の言いかけた言葉に驚く。
 先の事を言うと寂しそうな顔をしていたのに、今の言葉は、栞から次の約束をしようとした。丈瑠の気持ちが通じたのだろうか。丈瑠は確かめるように小指を立てる。
「じゃあ、今度は、眺めのいい所に行こう」
栞が、丈瑠の指を戸惑う様に見た。守れない約束はしたくなかった。でも、それでも、約束したら、いつか叶う日が来るのではないかと、あり得ない希望も胸に浮かぶ。栞は握りしめていた手をそっと持ち上げた。丈瑠が途中から、立てた小指で栞の小指を絡め取り、栞が一瞬身を竦ませて、指切りをしたままそっと丈瑠を見上げた。
丈瑠が栞を見つめている。栞も揺れる瞳で丈瑠を見つめた。そのままじっと見つめ合って、どちらからともなく二人の距離が少し近付いた時、ゴンドラが小さく揺れて、二人ははっとした様に目を逸らして、指も離れる。
 丈瑠が外を見ると、ゴンドラがもうすぐ着きそうだった。丈瑠は黙って栞を先に降ろしてくれる。
 二人の間に流れた空気に、二人ともあまりに不慣れで、何も話さないまま遊園地を後にした。


 帰りの電車は混んでいた。丈瑠は栞と向かい合って、他の乗客から栞を庇う様に立っている。電車が揺れるたび体が触れて、丈瑠の香りをのぼせそうなほど近くに感じて、栞は早くなった心臓の音を聞かれるのではないかと怖かった。
 電車が大きく揺れて、栞がバランスを崩して丈瑠の胸に倒れ込む。慌てて体を起こそうとしたら、丈瑠の腕が背中に添えられた。驚いて顔を上げると、丈瑠の顔を見る前に耳元で丈瑠の声がした。
「そのままでいい」
栞はどうしていいか分からなくて、かなり躊躇してから、丈瑠の胸にそっと体を預けた。丈瑠を直接感じて、息もできないくらいだった胸の支えが引いていく。
 丈瑠もまた腕の中で初めて触れた栞が、小さく震えていて、思った以上にとても頼りないことに驚いた。





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