そして火曜日、栞が玄関に向かうと、丈瑠と彦間が待っていた。
丈瑠が、少し驚いた様に栞を見る。
「変、ですか?」
丈瑠の視線を感じて、栞がおずおずと聞く。今朝まで着物だったのに、今はふわっとしたワンピースにボレロ。大きめのショルダーをかけ、髪も下ろして、リボンを付けている。栞の髪は元々ふわふわしたくせ毛だ。
「いや」
丈瑠が慌てて目を逸らす。彦間も驚いた様に見ている。
「これはまた、いつも和服なので見違えますな。とてもお似合いですぞ」
同意を求めた丈瑠が栞の方を見ないで頷くのを、彦間がおもしろそうに見ている。
彦間に挨拶をして、二人は玄関を出て、栞は丈瑠の少し後ろを歩いた。丈瑠の後ろ姿を見ながら歩くのは好きだ。
どうして丈瑠は誘ってくれたのだろう。といろいろ詮索してしまう。彦間に言われたのだろうか。それが一番可能性がある。断るべきだったのか。でも、一度でいいから丈瑠と一緒に出かけてみたかった。多分最初で最後だから、今日は何も考えずに楽しもう。丈瑠の後ろ姿を見つめながら考えていたら、振り返った丈瑠と目が合って、栞は赤くなって俯いた。
「歩くのが速いか?」
栞が慌てて首を振る。
「ずっと一緒にいるのに、二人で出かけるのは初めてだな」
栞が頷く。丈瑠が栞の顔を覗き込んだ。
「喋らないな、どうした?」
「・・・なんか、慣れてなくて」
丈瑠が笑う。
「俺も一緒だ。出かけるのも慣れてない」
栞が丈瑠をそっと見上げて笑った。
遊園地へまでは電車に乗った。時間が半端なのか、空いていて、並んで座る。
「電車は初めてか?」
珍しそうに辺りを見回している栞に丈瑠が尋ねる。改札も丈瑠がするのを見よう見まねで抜けてきた。丈瑠も電車にはあまり乗らないが、仲間がいた頃、たまに乗っていたので、乗り方くらいは分かる。
「乗ったことはありますけど、もう何年も乗っていないから。実は、遊園地も初めてです」
栞が打ち明けるように言って、丈瑠が驚く。
「テレビで見て、行ってみたかったんです。丈瑠様は?」
「ああ、小さい頃ジイがたまに連れて行ってくれた」
「彦間殿は優しいですね」
「他にも行ったことのない所があるのか?」
この調子では、他にもありそうだと、丈瑠が尋ねる。
「家の車で、家と学校の往復だけで、他はお稽古ごとをしていたので」
丈瑠が栞を改めて見る。
「本当にお嬢様なんだな。嫌じゃなかったのか?」
栞が首を振る。
「姫もそうでした。ずっとお一人で頑張っておりました。私はまだ学校に通えたからマシなくらい。丈瑠様も似た様な感じでしょう?」
そう言われればそうだ。
「でも、お前は俺たちとは違うだろう」
別に、何も背負ってはいないはず。
「俺は、・・・・嫌だった」
小さい頃はよく泣いていた。とまでは言わない。
栞は両手をぎゅっと握りしめた。自分のせいで丈瑠に辛い思いをさせていたんだと思うと気が咎める。だから栞も、多分丈瑠がやっているだろうと思える過酷な稽古を自らに課した。