第4幕の5 | 百火繚乱

百火繚乱

特撮大好きです。変身する前も後も、変身した中の人も、声の人も好きです。
ゴーカイジャー、シンケンジャー、仮面ライダー中心かな。
シンケンジャーの小説、殿様で恋愛小説も書いてます。

「母上は何の用だった?」
丈瑠が、座敷の自分の席に座ると栞に聞く。
 薫との話で、栞はすっかり丈瑠を意識してしまっていた。同じ部屋に二人きりでいるだけで、ドキドキしてくる。いつから丈瑠を好きになったのだろう。ここに来る前からずっと丈瑠の事は気に掛けていた。自分の代わりに影武者になった丈瑠の事を。でも、それだけだと思っていたのに。もしかして、あのころから好きだったのだろうか。だからあんなに丈瑠が心配だったのだろうか。
「栞?」
栞が考え込んで答えないので、丈瑠がもう一度声を掛け、栞がはっとして、気取られないように気を付けて返事をする。
「すみません、姫は、私が黙ってこちらへ参ったことをお責めに。姫もずっとお一人でしたから、私のような者でも、いないよりはマシだったのでしょう」
「お前は一人でどんな相手でもできるから、俺に取られて不機嫌だったんだな」
丈瑠がさり気なく言った言葉にも、栞の胸が一つ鳴る。
「姫にも許嫁の方がおられます。これからはその方が相手になってくださるでしょう」
「母上にも?」
驚いてから、前に彦間が話していたのを思い出す。
「当主も大変だな」
丈瑠が困ったような顔をする。
「ご結婚されたら、丈瑠様はその方を父上と呼ばれるのですか?」
栞が、丈瑠の困った顔を複雑に思いながら尋ね、丈瑠が思い切り嫌な顔をした。
「年下の両親か」
「大丈夫です。その方は姫より大分年上でしたので、丈瑠様より年上です。まあ、父上と言うよりは兄上くらいですけど」
栞が慰めるように言う。
「本当に栞は何でも知っているな。丹波もお前を姫と同様に扱っていた。本当に何者なんだ?」
栞は何も答えずただ微笑む。丹波は姫様大事の家臣だ。志葉家の者にしかかしずかない。栞を大事にするのにも、それなりの理由があるのだが、まだ丈瑠には話せなかった。
「姫の近くにいれば、いろいろと耳に入りますので」
何とかすり替えたが、丈瑠はあまり気にしない。
「俺は戦うだけの当主だからな。面倒な事は全てジイに任せてきた」
「志葉家の当主とは、元来そういうものです。お気になさらず」
丈瑠が何も知らされていない事を慰めるように、栞が微笑んでそう言った。


 翌朝はモヂカラの稽古だった。
 栞が座敷で一人、丈瑠の来るのを待っている。
 自分は丈瑠を好きだ。でもそれで、何かが変わる訳ではない。自分の置かれた立場は同じなのだから。
 栞は目を閉じて精神を集中させた。余計な事を考えないために。
 そして、筆を取り、無心になって文字を書いた。屋敷へ来るまではずっと稽古していた文字を。
 一瞬炎が上がり、栞がはっとしてすぐに消した。自分のやった事に呆然として、それからようやく、誰にも見られなかったか辺りを見回した。幸い辺りに誰もおらず、見られていないと思ってほっとする。
 しかし、丈瑠が見ていた。座敷へ入ろうと、奥からの障子を少し開けた時炎が見えた。幻かと思うくらい一瞬だったが、栞の様子から、栞のモヂカラだと気が付いた。栞は火のモヂカラが使えるのだ。丈瑠が幼い頃から必死に稽古して身に付けたモヂカラを。何故?その疑問が頭を渦巻く。栞の使ったのは、モヂカラ増幅機能の付いたショドウフォンではなく、普通の筆だった。それであれだけの炎が出せるなら、かなりの力だ。
 栞は稽古の時、時々モヂカラは使った。初めて使った時の様な弱いモノではなく、少し強くはなった。しかしそれは、稽古で強くなったのではなく、栞の初めから持っている力で、栞が力を自在に出している事には気が付いていた。しかし、火のモヂカラを、しかもこんなに強い力を持っているとは。そして、それを隠している。丈瑠は、ますます栞の正体が分からなくなって、眉をひそめた。


 その日の午後、栞が黒子たちと庭掃除をしていると、薫の所に使いに行っていた黒子が戻ってきた。入れ替わった方の黒子だ。黒子同士、すぐ気付くはずなのに、彦間から事情を聞いているらしく、誰も気に止めない素振りをしている。
 その黒子も、すぐに他の黒子にとけ込んでしまう。頼んだとおり黒子の経験のある者らしかった。
 栞が落ち葉を掃いていると、その黒子が簑をもって栞の足元に座った。
「嶺と申します。何でもお申し付けください」
栞にだけ聞こえるくらいの低い声で黒子が言う。栞は簑の中に落ち葉を掃き入れた。
「ありがとう」
栞は掃除を手伝ってくれた礼のように、申し出に礼を言う。
「私の部屋に、大体の経緯と、これからの指示を書いたものを置いてあります。後で、掃除の時に渡しましょう。共に来てください」
嶺が小さく頷いた。


 そして、残った荷物を受け取るのは、お茶の時間になった。彦間が栞に直接渡す。
「それは何です?」
彦間も気になっていたのか、栞に問う。丈瑠はまだ座敷には来ていない。
 栞が悪戯を思い付いた子供のような顔で包みを開けた。中から黒地に赤の差し色の入った男物の着物生地が出てくる。
「反物ですか?」
彦間が意外そうに呟いてから、思いついてにやりとする。
「もしや、殿にですかな?」
栞が、恥ずかしそうに頷く。
「これは、殿の好みにぴったりです。できあがるのが楽しみですな」
栞がはにかんだように笑った。
 その笑顔に、彦間も笑顔になる。薫の話では、栞も自分の気持ちに気付いていないようだった。恋愛オンチは丈瑠だけかと思っていたのに、栞もだったとは。しかし、この表情なら、栞は自分の気持ちに気付いたのかもしれないと、彦間は嬉しそうに栞を見た。


 突然屋敷に現れた姫、薫。栞は薫とかなり親しい様子。この二人の相談には一体何が隠されているのか。そして、火のモジカラを使えることを隠している栞、それを見てしまった丈瑠、果たしてこれからどうなりますやら。殿様御家騒動恋模様、第四幕、まずはこれまで。




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