第9幕の6 | 百火繚乱

百火繚乱

特撮大好きです。変身する前も後も、変身した中の人も、声の人も好きです。
ゴーカイジャー、シンケンジャー、仮面ライダー中心かな。
シンケンジャーの小説、殿様で恋愛小説も書いてます。


 翌日、彦間が廊下を通ると、栞が一人で花を生けていた。丈瑠が精神統一のために剣を振るように、栞も余計な事を考えないようにやっていた。彦間は足を止めて、その部屋へ入る。
「屋敷に女性がいるというのは、華やかで良いものですな」
栞が気が付いて、笑顔で会釈する。彦間が栞の前に座り、何か話があると察した栞が、手元を片付ける。花はほとんど生け終わったいた。
「綺麗ですな。栞殿は本当に何でもお上手です」
栞が居住まいを正して彦間に向き直った。彦間もそれに気付いて、少し改まる。
「栞殿、聞いてもよろしいですかな?」
栞が頷く。
「栞殿は、殿が当主でなくなれば、いかがするおつもりですか?」
栞が質問の真意を問うように彦間をじっと見つめて、彦間は質問を替えた。
「では、単刀直入にお聞きしますが、栞殿は、殿に当主のままでいて欲しいのですか?それとも、当主の座を降りて欲しいのですか?」
はっきりと聞かれて、栞は顔を伏せて、少し間をおいてから顔を上げた。
「彦間殿は、丈瑠様がまた当主の座を追われる事になったら、どうなるとお思いですか?」
栞は彦間をじっと見据えて逆に問う。
丈瑠は、薫が現れた時影に戻り、全てを欺いて守り通した当主の座をなくした。丈瑠はその時、他に何もない自分を持て余し、外道衆のような戦いに身を投じた。丈瑠がまた当主の座を追われるとは。
 彦間が何も答えられず、栞を見つめて、そして確信する。栞の父が画策している謀反に、栞も関わっていると。
 彦間は言葉を選ぶように答えた。
「殿はずっと、この世を守るためとはいえ、ご自分の意に反して周りを欺き、志葉家十八代目当主として生きてきました。私が叱咤してそうお育てしました。突然当主の座を追われた時は、家臣達に嘘を付いていた事を責め続け、とても見てはおれず、あの時は、何とか家臣達との絆を思い出し、姫のご配慮で十九代目当主を継ぐ事が出来、殿は元に戻られましたが、もう一度あのような目に遭わせる事は・・・」
彦間が言葉を切る。
 栞は辛そうに目を伏せてから、また彦間を見つめた。丈瑠が苦しんだ話は薫から聞いている。
「姫も同じです。丈瑠様をまた同じ目に遭わせたくないと。何とか丈瑠様を守ろうとしています」
「姫のお考えは分かりました。では、栞殿はどうお考えですか」
栞が困ったような表情になる。さすがに彦間にはすり替えはきかない。
「お父上の事は存じておられるのでしょう。榊様の用意している、殿を当主から退ける確実な手段とは一体何ですか。大体栞殿は何故屋敷へ?お父上が、殿が当主になられた事に反対しておられるのならば、栞殿との縁組みにも反対されているはず」
矢継ぎ早に質問されて、栞が両手を握りしめる。
「丈瑠様はドウコクを倒した真の功労者です。なのに、ただ当主を取り上げてしまっては、あまりに酷だと父達が思ったとしたら?」
栞の言いたい事が分かって、彦間が身を乗り出した。
「代わりに栞殿との縁組みを認めるという事ですか?」
栞が頷く。榊が栞に命じたのは、丈瑠が当主を降りた時のみ、丈瑠に嫁ぐことだった。
「でも、そのような事気にしないでください。丈瑠様が当主を降りる必要はありません。私など、代わりにもなりません」
栞が少し微笑んで言う。
「栞殿、ご自分をそのように言ってはなりません。殿は当主の座に拘ってはおりません。いつかは返すつもりだったと」
栞が首を振る。
「そうだとしても、私の代わりに返す必要はありません」
静かに言う栞に、彦間が首を傾げる。
「栞殿は、殿に、ご自分より当主を選んで欲しいのですか?」
栞が頷く。
「地位を失えば、今まで周りにいた者が突然いなくなる。一瞬にして、自分が疎まれる存在になるのです。存在する事さえ許されないほど」
ぞっとするほど孤独な表情だった。それは、栞の経験なのだろうか。
 栞が影武者にならなかったのは、榊を継ぐためだった。栞の両親が相次いで亡くなり、伯父の榊には当時子供はいなかった。榊もまた志葉にとって必要だったため、先々代の当主は、栞を影武者にする事を諦め、栞は榊の跡継ぎになった。それが十歳の時、弟が生まれてその地位を失った。
 栞は、丈瑠が自分と同じような境遇になる事を恐れているのだろうか。
「殿は、そのような事を気に掛けたりはいたしません。現に、一度当主の座を失った時も、誰も殿を見捨てはしませんでした」
栞もそれは分かっている。大体それが栞がこだわる理由ではない。でも、まだ彦間に本当の事を言う訳にもいかない。
「それでも、殿様でない生き方が丈瑠様に出来るとお思いですか?」
「殿はまだ若い。これから、侍ではない生き方もきっと出来るはず」
栞が静かに首を振る。
「彦間殿と黒子さんがいなければ、一日も持たないと仰ったのは、彦間殿です」
「しかし、それは・・・」
反論しようとする彦間に、栞が強く首を振った。
「とにかく、私は、丈瑠様が殿様でないと嫌なのです」
話を打ち切ろうとする栞に彦間がため息をつき、他から攻める。
「しかし、栞殿は、殿を慕っているのではないのですか?」
彦間に聞かれて、栞の瞳が少し驚いたように揺れた。




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