僕は痛みを知らない。君の痛みなら知っている。
いたいよ
花が咲くんだ、と僕は嘯く。昨日夢の中ですべて散ってしまったけれど、それはそれは特別な花なんだ。散ってしまって僕が世の無常を感じてしまうくらい、一緒に散れないこの身に違和感を覚えるくらい、特別。
君の花だった。
欠けらは赤く、僕にはそれしか見えず、あと何色かあった筈なのに疾うに失われている。失われるための花。
僕はそれに痛くならない。けれど君は痛んでいると知ったから、僕もそれを知る。
その花が咲いて散るたびに僕は知る。
君のすべてがそこに練り込まれていて、僕はそれに乱反射する過去の僕のスライドを見かける。突然いなくなった猫も蓋の下の夥しい数の御玉杓子の白い腹も二次元になった雀も御影石に刻まれた名前もブラウン管の向こう側からお別れを告げた彼も、なるほど僕に痛みを教えたのだろう。
けれど僕は痛みを知らない。
知っているのは君だろう。
痛いよ、と叫んだ声は宙返りをして僕にこう聞こえる。
痛い、いたい、居たいよ、居たいんだ!
体がそう叫んでいるなら、僕だって居たいんだ。
ここに。この場に。どこにでもなく。
できれば君と。できなければそれなりに。
だから君の花が咲く。
痛みを僕は知らない代わりに、君の痛みを知っていく。
極彩色のたったひとつ、赤い欠けらだけを追いかけながら、僕は高らかに叫ぶ。
痛い、痛いよ!君は痛い!
居たい、居たいよ!君は居たい!
それを忘れない為に花が咲く。
散って散って散って散って呻く。
嗚呼、なんて居たいんだろう!
僕は痛みを知らない。君の痛みなら知っている。
君が痛いと言うたびに僕は居たいと言う。
だから僕には花が咲くのだ。
それはきっと、今夜は涼やかな鈴の音を立てて散っていく。