密度の高い闇がひしめき合っている。
月はどこであろうか、と一瞬今晩は新月であったかと思い違いをしそうになるが、密やかに煌々と、月が身を弓なりにして浮かんでいる。
それは、細めた猫の瞳よりもか細く繊細な曲線であった。
こういう空では大抵、さっと撒いたように星屑がさやさやと光るものであるが、分厚い雲が自由に空を闊歩しているらしい。星の光は切れ切れに地上にサインを送るのみだ。モールス信号を解する者がいたのなら、その光の信号を何と捉えただろうか。
その空の下、一匹の黒猫が大きな瞳を爛々とさせながら歩いていた。
頭からしっぽの先まで、どこまでも黒い。気を抜けばこの夜の最中、見失ってしまいそうなほど。
猫はしゃなりしゃなりと歩いていく。
うすら淋しい月明かりの下、猫は恐れず進んでいく。遠くから犬の鳴く声が、悲痛な色を帯びて響いたとしても、気に留めない。
と、何にも頓着しなかった黒猫が不意に足を止め、じっと暗がりを見つめた。
どこから光が差し込むのか、その瞳は眩い。金色の瞳で何かを見つめた後、もう興味を失ったのか、猫は再び前を向くと前進を始めた。
黒猫の視線の先には、取り立てて変わったものがあるわけではなかった。
ただただ、周りと同じように、瓦礫が山をなしているだけである。
砂塵と変わり果てた世界の慟哭を、敏感に嗅ぎ取ったのか。それは誰も知ることはない。
誰もいないのだから。
黒猫はやはり物怖じせずにしゃなりしゃなりと歩いていく。
遠くの犬はやはり哀惜を含んだ声色で遠吠えを繰り返す。
それが一層静けさを際立たせる常夜の世界に、ゆっくりと黒猫は消えていった。