自慢じゃないけど、私の恋愛はかなりの確立で破綻する。
一度目は思いを告げる前に相手と会えなくなってしまった。
二度目は好きなのだと気付くのが遅くてその人には恋人ができてしまった。
三度目は二股をかけられた。因みに私がキープの方だった。
そして今、またしても私は恋をしている。
出会ったのは夏になる前。塾の帰りに友達と寄り道していたコンビニのバイトの人だ。どうして好きになったのか、わからないし、時々、これは恋愛感情とは違うんじゃないかな、とも思う。今だかつて、私は彼ほど歳が離れている人に恋をしたことがない。
軽く見積もって、七歳は違うはずだ。
ネームプレートには、井浦の文字。
「……というわけなのよ」
「どういうわけだ?」
要領を得ない私の説明に、隣の貴一が冷静に突っ込む。だけど私は笑って言葉を濁した。
私が誰かに恋をした時、私が相談するのは何故か貴一だ。鏡花ではない。
貴一はマフラーを首に巻きつけて浅く息をしている。確かに寒いけれど、まだマフラーは早いと思う。十一月下旬、今から冬が始まるという時期なのに。街道の木々だって、まだ色づき始めたばかりだ。
「これって恋だと思う?」
「お前がそう思うならそうだろ」
貴一の返事に、私は頬を膨らませてみせる。
「つれない返事ね」
「不細工な顔だぞ」
そう切り返されたから、私は息を大きく吐き出した。
「で、脈はあるのか?」
貴一が聞いてくる。無下に扱うけど、ちゃんと気にかけてくれてるってわかってるから、私は貴一に話すんだろう。
「よくわからないけど……目はよくあうよ」
「それって、向こうもお前を見てるってことじゃないのかよ」
「さぁ……?できればそうであってほしいけど。でもあまり期待したくないし」
「消極的なやつだな」
「今までが過酷だったからね」
私がそう言うと、貴一が黙った。少しの間の後で、お前はいい女だと思うよ、と言われた。
「慰め?」
「本心だぜ」
「……ありがと」
十数分間の散歩は終わった。家の周りをぐるりと歩いて、私たちは家に帰ってきた。これがもっと温かい日なら、立ち話もするだろうけれど、肌寒い時期には辛かった。
「じゃね。話し聞いてくれてありがと」
「ああ。……あ、そういえば」
ドアに手を伸ばしかけたところで、貴一がそう言ったから振り返った。
「鏡花、応募したやつ佳作に入ったってさ」
「え」
「じゃな」
「ちょ、貴一っ」
もっと詳しく聞きたかったけど、私の言葉を封じ込めるかのように貴一はドアの向こうに消えていった。仕方なく、私も鞄のポケットから家の鍵を取り出す。
その時、かさりと音がした。それを掴んで引き出すと、皺くちゃになった新聞記事が出てきた。
大きな文字と、戦車の写真。
今まで忘れていた。
戦争が終わった後もあの異国の地では戦渦が尾を引いているらしい。だけど、私には遠すぎる。
ただ一つ、わかっていること。
私たちの生活は変わらない。
でも少しだけ、本音を言うとしたら。今世紀は平和な時代の第一歩になると思っていたのだ。公害もなくなって、飢えて死ぬ人も、地雷で死ぬ人もいない世界で。緑に溢れる世界。
でも、それはテレビの中の戦争よりもよっぽどうそ臭い。
時が経っても、私たちは変わらず生きていて、恋もする。そうやって明日が紡がれていく。こっちの方がよっぽどリアリティがある世界。
「ごめんね」
薄い新聞はもう一度ポケットにしまわれた。
終