この土曜日に観てきた『夕凪の街 桜の国』ですが、レビューを書こうかどうか迷いました。
今も少し迷っています。
突っ込んだレビューをしてしまうとネタバレが多くなってしまうし、かといってあまり内容に触れなかったらレビューの意味が薄くなってしまう気がして……
でも、ま、一応。レビューというか、ネタバレしない程度の感想を書きたいなと思います。


この話は、ヒロシマを巡る二人の女性の物語です。
原爆が落とされて13年後の広島に住む平野皆実の物語『夕凪の街』と、それから50年後の現代に生きる石川七波の物語『桜の国』の二つの話で成り立っています。
詳しいあらすじを知りたい方は、こちら、公式ホームページ を参照してください。

戦争物は大体大丈夫な私ですが、原爆を取り扱っている映画やドラマ・アニメ・ドキュメンタリー等は大の苦手です。活字の状態ならば大丈夫なので、ふたりのイーダをはじめ、原爆の話はたくさん読んできました。
でも、本当に映像化されたものは駄目なんです。絵はまだギリギリセーフなんですが、写真となると見ることが出来ません。あのキノコ雲だけでも駄目なんです。
そんな私が、何故この映画を観ようと思ったのか。理由は三つあります。

一つは、映画情報サイトのレビューで、「投下直後の直接的なイメージはなく、被爆者の描いた絵や写真が数枚出てくる程度」という情報を得た為。「絵だけなら大丈夫」と思いました。
しかし、よくよくこの文章を読めば、投下直後の直接的なイメージはない、と言っているだけで、その後の凄惨な場面は出てくるかも、という推測が出来るはずであり、かつ私は「写真」という単語を軽く読み流していました。写真も数枚だけならなんとかなるかも、という風に思ったのです(そしてそれは間違いでした)
二つ目は、レビューされていた方々が、平野皆実役を演じた麻生久美子の演技が素晴らしい、と言っていたのを見たからです。どれだけ素晴らしいのか気になって、観てみたいと思いました。
三つ目は、既存の原爆を取り扱った作品とは別の観点をこの作品は持っているのではないか、と思ったからです。それは、『桜の国』で明らかにされる、被爆者や被爆二世に対する差別(主に結婚差別)です。被爆者に対する差別などは、もしかしたら取り扱っている作品はあるかもしれませんが、被爆二世に対する差別まで取り扱っている作品は、私の知る限りありませんでした。原爆は、過去あったことではなく今もあること、というスタンスが新しいと感じ、どんな風にそれが描かれているのか気になったのです。

そういう理由で映画館へ行きました。
当初報告したように、お客さんは私と母の二人きり。もしかして貸切?と思っていたら、カップルらしき人たちがやってきて、貸切の夢は消えました(笑)
で、鑑賞開始。


前評判のとおり、麻生久美子さんの演じる平野皆実はとても綺麗で儚げで、素晴らしかったです。
『夕凪の街』では心にぐさぐさ来る言葉がたくさんありました。それを書いちゃうと見るときの楽しみが半減するので書きませんが……とてもよくまとまった作品だと思いました。
少しネタバレになってしまうんですが、皆実の苦しみというのは、自分が生き残ってしまったという罪悪感もさることながら、「誰かに死ねばいいと願われた人間」である、という、その苦しみの方が大きいのではないか、と思いました。自分でそう思うことによって、自分のアイデンティティは「死を願われた人間」というものであり、本来ならばその願いどおり死ななければならないのに、こうして今生きている、その為に自分のアイデンティティは否定されたままだという、そのことに皆実は苦しんでいたんじゃないかなぁと。だからこそ、死に際のあの悲しい言葉があったんじゃないかと思うんです。一見、恨みがましいような言葉ですが、皆実は全然怨みつらみを述べているわけじゃなかった。純粋に、そう願っての言葉だと感じたから。
でもきっと、皆実だって生きたかった筈なんですよ。そして、たぶん、その皆実に生きる意欲を与えたのは、打越の存在と、あの言葉だったんだろうと思います。
あ、ちなみに、上記で触れた「被爆者が書いた絵や当時の写真」はここで出てきます(写真は、『桜の国』でも間接的に映りますが)。絵は二回に分かれて出てきます。最初の方は大丈夫、だと思うんですが、二回目の絵は一回目よりも精神的に見るのが辛い絵になっています。広島や長崎の史料館の一番酷い写真が直視できない人は、辛いかもしれません。(そしてそれは私のこと)でも、絵や写真は一応段階を踏んで(見やすいものから見辛いものへ)表示されるので、直視する勇気のない方は、来そうだな、と思ったら目線をずらせばいいと思います(そしてこれも私のこと)

物語は、半世紀の時を越え、現代の『桜の国』へと続きます。
石川七波演じる田中麗奈の演技は、前半の平野皆実をみているとやや不自然に思えます。が、二人の女性を対比させている、という点では、とてもよいものだと思います。
見ていると、前半の『桜の国』で皆実が見せたような激情は、七波は見せません。だからか、非常に淡々としているというか、七波の背負っているものの重たさを、私たちは見過ごしてしまいがちかもしれません。
けれど、七波は、すでに葛藤や不安を乗り越えてそこにいるんですよね。ある意味、もう肝が据わっているんです。自分はこういう人間なんだ、という事実を、既に受け入れているんです。受け入れて、そして被爆二世という自分の立ち位置に悲観も楽観もしていない。それはきっと、弟の凪生もそうなんだと思います。東子に宛てた手紙の内容から、私はそう思いました。


この作品は、観る人の立ち位置によってどんな風にでも解釈することが出来るんだろうなぁ、と思いました。
解釈、というか、捉え方と言った方がいいのかも知れません。
原爆のことを何も知らない人、知っている人、被爆者の人、二世、三世の人……
きっと、視点が違うだろうから、心に残るものも違うのかもしれません。

それを承知で言わせて貰うとすれば、被爆者や被爆二世に対する結婚差別は、あっても仕方がないのかなぁと思っています。なければないで越したことはないのですが、人間の本能とすれば、リスクのある相手と結婚して子供を作るのは避けたい事柄だろうし。
「被爆者だからとか、被爆二世だから、といって結婚を反対するのはおかしい!」というのは、確かに正論なんですが、その正論だけで割り切れない事実があることは確かです。
それに、例えば親に反対されても、結婚したい人は結婚するでしょうし……要は、当人達の問題なのかもしれませんね。


こんな風に淡々と書きましたが、映画観てる時はほとんど泣きっぱなしというか、ハンカチ一枚で乗り切るには辛いものがありました(苦笑)隣で見ていた母も、後ろで見ていたカップルも、泣いていました。
少しでも興味がある人は観てみれば良いと思います。
ちなみに、原作はこうの史代さんという方が描かれた漫画です。


レビューで、反戦映画と捉えている方もいらっしゃいましたが、私はそうは思いません。
こうのさんは、二人の女性の生き方を通して、「ヒロシマ」の歴史を描きたかったのだと思います。
反戦のプロパガンダではなく、核兵器反対という主張でもなく、ただただあの日あったこと、そしてそれが確かに続いているということを、描きたかったのではないのかな、と。
あくまでこれは私の感想なのですがね。



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