先日、石川県の農政課の方とお話しする機会があり、現在の自分の取り組みをお話しさせていただきました。

その方から今度「中山間地域活性化フォーラム」というのがあり僕にパネリストとして出てくれないかという打診がありました。

今回は、農業者を元気にする話題、金沢市近郊の方が農業、食、農業に明るいイメージを持つ話題の提供を考えているということです。

対談の件、非常に光栄に思います。
お受けさせていただけるものならぜひお願いしたいです。

僕のような若輩者が業界でご活躍されておられる食のプロの方々と対談するというのは恐れ多いとは思いますがもともと奥能登の酪農家で生まれ育ち現在はジェラート・チーズなど県内の原料にこだわった乳製品加工で奥能登の牛乳に付加価値をつけ、さらにそこから発展し、九谷焼などの伝統工芸(アート)とジェラートなどの食品との個々では拾えない新たな複合販路の開拓の模索、
自社の商材や店舗に主体性のあるデザインを取り入れV・I(ヴィジュアルアイデンティティー)で視覚的にも消費者の購買意欲をそそる試みなどから
総合的に自社商材のブランディングを図り、地場に根ざした手作り乳製品の総合メーカーを目指している立場から、何かしら中山間地域への提言はできるかと思っています。



僕の立場から実現可能であろう提言の一つとして、例えばジェラートの主原料である奥能登の牛乳と一言で言いましても各酪農家で牛の管理の仕方も違い牛乳の味も違います。
与える飼料や舎飼いなのか放牧主体なのか、また季節によっても味が違ってきます。
当然と言えば当然ですが乳業メーカーはそれらをタンク内で一緒に混ぜて、さらに味の均一化を図っています。
僕ら酪農家はその当時乳業メーカーから求められていたのは、ある一定の基準値を満たした牛乳(特別牛乳)を優先的に集乳していき、
基準を満たしていない牛乳に対してはペナルティーを課していました。
乳牛の健康状態は、「体細胞数」という、牛乳の中に含まれる抗体的な細胞数で判定されます。
人間も病気にかかるとリンパ球等の特殊細胞数が通常より多くなるように、乳牛も「体細胞数の多い牛は健康面に何らかの懸念がある」と判断されていたためです。
平均的な乳牛の「体細胞数」は、1cc当たり30万個。「体細胞数」が多いと出荷時に金銭的なペナルティーが課せられます。酪農家によっては出荷できずに捨てることもありました。

僕はこうした制度に疑問を感じざるを得ませんでした。
朝4時に起きて人間よりも先に牛に餌を与え、搾乳しお産の際に難産のときはてを添えて手伝い、越冬飼料の牧草を収穫するため広大で急斜面の牧草地を管理し・・・そうして365日年中無休で酪農業に従事し真摯に牛乳生産と向き合っている者にとって搾乳は農業で言えば収穫です。せっかく収穫したモノを捨てる気持ちは言葉にならないくらい悔しいものです。
さらに追い討ちをかける輸入飼料の高騰、押し付けられる物価高騰のしわ寄せ、後継者不足・・・僕が携わってきた酪農業界が危機に瀕している現状に心を痛めています。

こうした現状も踏まえ結局のところ、悪いのは乳業メーカーなどではなく、春には春の青い草の、冬には引き締まった味の・・季節季節の旬の味を楽しめる心のゆとりというものが消費者に求められているのかも知れません。
スーパーに並ぶキュウリがみんな真っ直ぐなのはどこが不自然です。昔僕の畑で採れたトマトやキュウリはイビツな形状をしておりもっとゴツゴツしていました。それが自然の産物です。変わるべきは僕ら消費者の価値観なのかも知れません。
そこから考えていくと、これだけ食の安全神話が崩壊し、より顔の見える生産者が作る商品が求められている昨今、
牛にも個別にオーナー制度を導入してはどうかとも考えています。牛の管理は牧場主がすることには変わりないのですが首都圏や近隣の食育に熱心な方々がターゲットです。
奥能登の牛乳からもっと突っ込んで、どこの牧場の、さらに突っ込んでどの牛から搾られた牛乳で作られたジェラートなのか。
その様子をweb上で逐一オーナー会員様向けにリポートしていきます。会員になるには年会費がかかります。
ジェラートの原料を生産する母牛の乳量・乳質などのオーナーが所有する牛の個体別データが随時公開されます。
そしてその牛乳が殺菌処理されジェラート・チーズ・ヨーグルト・バターなどの乳製品に加工されていく様子がリアルタイムでweb上を通して会員に伝わっていき、ある日会員のもとにそのプレミアムな出来たて手づくり乳製品の詰め合わせセットが届くという仕組み。

1頭の牛に一人のオーナーとは限りません。1口いくらというふうに公募します。一頭の牛を何人かで所有するのもよいでしょう。
有名人なども何口か絡むかもしれません。一頭の牛をめぐり交流が生まれるかもしれません。
そうして本来、牛乳というものはスーパーで並んでいるものではなく牧場で牛のお乳から出るもの、そして本来は冷たいものじゃなく太陽みたいに温かいものなんだよということで牛乳の生産現場を知っていただき、実際に牧場に足を運んでもらうのが狙いです。
こうした取り組みは食育に熱心な知的富裕層をも動かすのではと考えています。

わが石川県は素材の宝庫です。ただ農家はそれを首都圏・世界にアピールする術を知らないだけかもしれません。
webで広域に販売を広げるのも一つの手段でしょう。ただ、webで並べていても商材は動きません。そこにデザインという観念を入れ、すべてに主体性を持たせることが重要と考えます。
そして自分の作る商材に物語を付加すべきです。お客に語れるストーリーが多ければ多いほどその商材の付加価値が高まります。

実際に商品を手にとって味わいその物語に触れたとき、お客は遠く離れたその商品が生まれた場所に出向いてみたいと思うはずです。
首都圏では絶対に真似のできないビジネスモデルを模索すべきです。中山間地域でしかできないビジネスモデル。
地域が一丸となって伝統的工芸技術や地元の素材を活かし、製品の価値や魅力を高め日本を表現しつつ
世界に通用するもの作りを実現すべくジャパンブランド。
しかし、その『ジャパンブランド』が一過性のブームになりつつあるのでは。昨今のブームである地域にどっと観光客が押し寄せ嵐のように去っていく。本当の地域の魅力を知ることもなく上辺だけの体験農業で地場の一片をかじっただけなのにすべての魅力を知ったかのように錯覚して帰っていってしまう。農家にとっての本当の幸せって何なんでしょうか。一過性のブームで押し寄せる方々に牧場主はどう対応していったらよいのでしょうか。

地方にスポットが当たること自体は歓迎すべきことかも知れません。ただむやみやたらに多くの人を呼び込めお金を落として行ってくれたからといって果たしてそれが農家、お客さん双方にとってハッピーなのでしょうか。

日本ではすでにフードジャパンネットワーク が地方にレストランを作ろうと動き出しています。地場の素材を使うこととトータルサービスという点でも都心の高感度層も満足させるものを目指している。

こうした核となる施設が奥能登にできることによって地域活性化が図れる可能性もあることをこの事例が示しています。
わざわざそこに行ってしか食べられないもの、またそこに行かないと受けられないサービス、そうした施設が奥能登にできると想像するとワクワクします。僕は前述の一頭の個体牛に対するオーナー様向けの牧場体験型宿泊施設も一つの案として考えています。都心からの宿泊者自らが隣接する牧場で搾乳を手伝い、その搾りたて牛乳を併設の工房でジェラート・チーズ・バターに加工し、朝食でいただく。もちろん自分がオーナーの牛から搾った牛乳も飲みます。宿泊ホテルはいかにものログハウスはあえて止めておいて、家具など調度品にもこだわるべきです。その施設にもV・Iを持ち込みます。数組限定で体験型の奥能登でした受けられない世界で唯一無二の最上級のおもてなしを目指すべきだと考えます。


僕は平成19年、農林水産省が主催の意見交換会に出席してきました。当時の農山漁村の活性化を図るため、農水省幹部が地方に出向き、地域づくりや生産現場の悩み・問題点を聞いて、その中に含まれる積極的な提言を受け止め施策に反映させるため、農山漁村の活性化に関する現地意見交換会といったものでした。
そこでいくつか酪農業の窮状を訴えました。僕の携わる乳製品加工業もやはりどんなに素敵なジェラートのアイデアがあっても原料の能登の牛乳を供給してくれている酪農業が衰退していくと、お互いに未来がありません。早急に酪農を営む人間が誇りを持って安心して仕事に従事できる仕組みと環境づくりをやってくださいとお願いしました。

農政は本当に危機感を持って取り組んでいるのでしょうか。あの意見交換会から何か対策が進んだのでしょうか。

僕は今、僕が取り組めることから始めています。そしてジェラート職人としての腕も磨くため1月にイタリア・リミニ市(フィレンツェの近く)で開催の
ジェラートの世界大会に出場してきます。僕の作る能登・金澤の素材のジェラートがジェラートの本場イタリアでどれぐらい通用するのか知りたいのです。そしてイタリア人の色彩感覚を盗んでこようと思います。

対談はイタリアでの挑戦が終わり帰国した1月後半になりそうですが、地元を愛する僕にとってもここ石川で大切な課題が山積しております。今後も石川県を革新していきたいと思います。

taizo