江別市で樹齢800年の栗の木を見る | 幕内秀夫の食生活日記

幕内秀夫の食生活日記

「食」にかかわる諸々を綴っていきます

 

 私どもでは「通信講座」を行なっています。受講、修了者には『F&H通信』をお送りしています。以下、その通信の8月号の一部です。

 2023年8月号

実りの秋に「木の実」を考える

木の実を忘れた日本人

 米や小麦、蕎麦、トウモロコシなどの「穀類」、あるいはさつまいも、じゃがいもなどの「いも類」。そして、柿やみかん、りんごなどの「果物類」がたくさん収穫される季節になりました。これらには、もっとも大切な「炭水化物」が豊富に含まれています。主たるエネルギー源が収穫される季節だから、「実りの秋」と呼んできたのでしょう。今、私たちはごはんやうどん、蕎麦、さつまいも、じゃがいもなどで空腹を満たせる時代に生きているため、それが当たり前と考えがちですが、日本の長い歴史の中で考えると昔からそうだったわけではありません。実際、縄文時代は狩猟採集が中心でしたから、穀類、などはほとんどありませんでした。

一頃、「糖質制限食」が話題になったことがあります。その主張は、「人類の長い歴史の中で農耕が始まったのはたかだか一万年程度に過ぎない。それ以前は狩猟が中心で肉や魚介類を中心とした食生活をしてきた。穀類やいも類などから炭水化物の摂取は極めて少なく、肉類などに含まれるタンパク質や脂質が中心だった。したがって、私たちの体は炭水化物の接取に慣れていない。肥満や糖尿病が増加したのは、穀類やいも類などを摂るようになったからだ」。と言うものです。これらの主張をしてきた人たち、実践した人たちは大事なことを忘れていました。いや、日本人全体が忘れてしまったと言ってもいいかも知れません。それは「木の実類」の存在です。

 

「栗」は主食だった

 奇跡的に見つかった栗の柱の断面

 たとえば、青森県には日本最大規模の縄文遺跡、「三内丸山遺跡」があります。そこに行くと、物見櫓が再現されています。その櫓の跡が発掘され、なんと直系約1メートルの木が使われてきたことがわかっています。その木は「栗の木」でした。栗の木と言えば、せいぜい直系20~30センチ,樹高2,3メートル程度のイメージしかありません。まさにこれは巨木です。しかし、それは驚くことではないようです。

 実際、北海道の江別市には高さ18メートル、木の周囲の長さが4メートルを越すものが残っています。樹齢約500年と推定されています。私たちは人間が剪定して手が加えられた栗の木しか見てないから、直系一メートルの木に驚いるだけなのです。

 したがって、縄文時代の栗の木から収穫された栗も、現在とは比較できないほど大量にとれていたようです。稀におやつで食べるレベルではなく、「主食」になっていたと考えれています。これは栗に限りません。くるみやドングリなども同じです。しかも、これらの木の実には米と同じように、炭水化物の一種、「でんぷん」が豊富に含まれています。米や麦などを栽培しなかった時代にも「炭水化物」を中心とした食生活をしていたことがわかっています。「糖質制限食」の主張はまちがいだったことが明らかになっています。

 ただし、栗やくるみなどが「堅果類」呼ばれるのは、硬い殻に覆われているからです。食べるには大変な手間がかかります。どんぐりなどはあく抜きしないと食べられないものがあります。私たちの先人が、穀類やいも類などで空腹を満たすことを目指したのは賢明な判断だったのです。ただし、ここまでになるには大変な時間と労力が必要でした。秋の夜長、栗だけの「栗ごはん」ではなく、「もち米」に栗が入った美味しい栗ごはんを食べながら、先人の叡智と努力に感謝したいものです。

▼と言うわけで、いつか機会があったら栗の大樹をみてみたいと思っていました。しかし途方もなく大きな森林の中にあります。交通機関もないのでタクシーで近くまでいくしかないと諦めていました。熊さんに出会う覚悟も必要になります。

 そこで札幌の知人夫婦にお話しして無謀な願いことを叶えてもらいました。ちなみに、北海道の皆さんは近いと言っても、行くことを勧めません。近くに行って数人の人にお会いしましたが、全員、山登りの服装です。スーツの私は奇異な目で見られてしまいました。しかも、栗の木を見ようとする人はめったにいないのでしょう?道らしい道は残っていません。ガサ藪を歩かなければなりません。

 ちなみに、この木は江別市にあります。江別市の子ども園の園長はその存在さえ知りませんでした。

 現在、これほどの大樹はほとんど残っていません。主に線路の枕木として使用され、伐採されてしまったようです。したがって、縄文時代などはこのような大樹がたくさん生えていたんだと思います。屋久島の縄文杉がうっそうと生えているのと同じような景色が広がっていたことを想像することができます。まさに、「主食」にするほど収穫されたのでしょう。長い間の「夢」を叶えることができました。

 

  お付き合いしていただいたご夫婦には感謝しかありません。