誰か一人でもいいから救われろと思うのは甘いだろうか

花宵道中 (新潮文庫)

posted with amazlet at 16.12.01

宮木 あや子
新潮社
売り上げランキング: 11,290

Amazon.co.jpで詳細を見る

映画にもなった「花宵道中」ですが、実写の方は観ていません。

先に漫画を３巻まで試し読みして、すっごく面白かったので続きが気になってたんですけど、どうせなら活字の方を読みたいなと思っていて遂に読破しました。

言わずもがなとてつもなく面白かったので、２日のうちに読了。

つい口をついて面白いと言ってしまうのですが、物語としては一口に「おもしろい」とは片付けられないなんともやるせない余韻が残ります。

やるせないとは思いつつも、深く納得させられる結末だと言えますが、苦界がテーマなだけあってそれはもうとことん残酷であります。

花宵道中 3 (フラワーコミックスアルファスペシャル)

posted with amazlet at 16.12.01

斉木 久美子 宮木 あや子
小学館 (2010-08-10)
売り上げランキング: 39,541

Amazon.co.jpで詳細を見る

表題の「花宵道中」から物語ははじまるわけですが、登場人物たちが全６話からなるそれぞれの物語において巧い具合に交差していて、最終話の「大門切手」を読み終えるとすべてが一本に繋がっていて、そういう意味ではスッキリする作品かなと思います。

そうは言いつつも、途中ものすごいヘビーなんですよね。霧里姉さんと東雲の話が特に。私はこの姉弟の生い立ちとその後の物語がガツンと記憶に残りました。この物語で一番好きなキャラだし、物語の根幹になる重要な二人だと思います。

現に、表題を背負った朝霧は、姉さんの弟と運命的に出会うわけだし。その朝霧と半次郎の架け橋となるのが、青い牡丹ってのがまたいい。しかも、縁日でにぎわう深川八幡の人でごった返している場所での邂逅ってのが、運命に拍車をかけてるみたいですごくいいですね。

シンクロは青い牡丹だけではなく、吉田屋とも繋がっていくわけですが…残酷。

霧里さんが殺意を抱きそうなもんだけど、父親に父親らしい父性を乞うあまり東雲をいじめてたわけですから、やっぱりどこか歪な愛情を持ってたんですかね…って思うと、なんだか救いようもなくてつらい。

江戸にやられた後に一度でいいから東雲に会わせてあげたかったですけど、なんでそこですれ違うのか。皮肉なもんです。ほんの僅かに届かない歯がゆさ。

そして、半次郎の読みの甘さというかなんというか…過ちを犯してしまった後だから、もう欲の赴くままにしか行動できなかったんだろうかとも思うけど。もう少し慎重に考えられたならと思うのは実にたやすいのだけど、そういう結末にしてしまうのは現実感に欠けるのかもしれないですね。愚かだけど人間らしい。まさしくそこが哀れなんですけど。

朝霧から八津を飛ばして、三津。この人も好きだな。

郭での暮らしにさして不満もなさそうな彼女は、おそらく体さえ丈夫であればまた違った感覚で生きていたんだろうなとも思うし、娑婆の頃に覚えた罪悪感を郭の中で、しかも八津のすぐ隣で着実に育てて大きくし、抱えきれなくなって最期に吐露せざるをえなかったのは哀れだと思いました。

茜に対して手厳しいのも、実は八津に対する罪悪感から生まれたものだったのか…と、それが後から発覚して納得してみたり。病身をおして客をとりつづけたのも、水蓮や八津に対するせめてもの償いなのかもしれないですね。その辺は書かれていないけれど、そういう感情をかすかに匂わせる感じにハッとさせられます。

そう、「匂い」が出たので思い出したのですが、三津は「杏」のような匂いがすると緑は言っています。三津の顛末ありきで考察したのですが、彼女の体から漂う甘い匂いはなんとなく病を彷彿とさせます。三津の身体的特徴から考えるに、やっぱり「栄養失調」の線が濃い気がします。彼女は幼い頃から飢餓感が強かったんじゃないですかね。三弥吉が持ってきた鰻を嬉々として頬張る三津の描写は、微笑ましいものでした。あれが最後の贅沢だったのかも…。