貞彦461話 『1番怖いもの』
7月。
貞彦さん側から和解に
関する話はないまま夏を
迎える。
少し前に母から、田舎に
住んでいる祖母の認知症が
進んでいるという話を聞き、
お盆の帰省ラッシュを
避けて一足早くぷう助と
祖父母の家へ行くことにした。
私にとっては故郷といって
しまうほど、ずっと暮らして
いたわけではないけど
大切な場所。
幼い頃、夏休みや連休は
ずっと植物や動物、虫や
蛇がいるなかで
すごしていた大切な
思い出で、そこで教わった
ことの大きさは大人に
なってから気が付くこと
ばかりだった。
自給自足の生活はずっと
働いているようなものだから、
祖父母が私のためだけに
付きっきりで遊んでくれる
なんていうことはなく、私は
1人で遊んでいるか、
畑や家畜の世話をしている
祖母のところへいって一緒に
作業をするかのどちらか。
でも、何1つ淋しいなんて
いう事はなく、夏休みが
終わり自分の家へ帰って、学校へ
いかなくてはいけないことが
憂鬱に思うくらい楽しかった。
3頭の大型犬はいつでもしっぽ
をふって遊んでくれるし、
夜中に始まる動物のお産は、
普段聴いたこのない鳴き声を
あげ目に涙をためて、命を
産み落とす瞬間を目の前で見る。
時には産まれたばかりの
可愛いひよこを触りたくて
近ずくと、にらみをきかせた
雌鶏が鼓膜に響くような
鳴き声で襲ってきたりもする。
だけどそんな雌鶏が翌朝、
野犬に食い殺されている姿を
見つけ泣いたりもして、
綺麗な事だけではない
生と死を学んだ。
ぷう助にも、そんな事を
学ばせたかったなと
1時間に1本しか
来ない電車に乗り
景色を眺めていると、
ぷう助のおしゃべりが
始まる。
「ねぇねぇお母さん、
ひーばあちゃんちって
トイレが長い廊下の
むこうにあるでしょ。
夜一緒にトイレへいってよ」
「いいよ。でもおばけなんて
でないから平気だよ」
「だって怖いんだもん。
おかあさんはおばけ
怖くないの?」
「おばけじゃなくても
脅かされたらびっくり
するけど、いるぶんには
怖くないかな」
「じゃーお母さんの1番
怖いものってなに?」
そういわれて、考えては
みたけど何もでてこない
自分に少し驚く。
もう幽霊がでたくらいでは
怖くないし、そうなると
病気とか交通事故にあう
というような事になる
のかなと思いつつ、
1番は何だろうかと
電車に揺られながら
まじめに考えて、その
答えが分かった。
「1番怖いことが分かったよ。
『ぷう助を失うこと』
この世でこれに勝る
怖い事はない!って
いったところで
伝わった…?」
「えー、おばけでしょ1番は」
「うん!やっぱりぷう助の
いう通りおばけだね!」
その意味がまだ伝わらない
事に私が笑い、おばけに
変更するとぷう助も
笑った。
私はいつの間にか幽霊も
お化けも怖くなくなっている。
小さい頃は夜、電気の消えて
いる部屋へ行くのも怖くて、
兄に電気をつけてもらったり
するほどの怖がりだったはず。
でも今となっては、
男性とデートをした
としても
「きゃっ、こわ~い」
なんて可愛く彼氏の後ろに
隠れることは出来なく
なっている。
それどころか、そんな事が
おきたら自分から彼氏の
前に立って守り対処する
ほうが、自然な行動だなと
思ったら随分、私は強く
なったものだとさらに
笑えてしまう。
守る物ができるというのは
こういう事なんだと、
よくわかるぷう助からの
質問だった。
☆まだスマホがなく携帯電話が主流の時の
お話です。
☆個人の特定につながらないよう
一部の表現をかえています。
【お知らせです】
いつもお読み頂きありがとう
ございます。
あと何回かの裁判で離婚が
決まり、ぷう助が小学生に
なる前で、お話を終了します。
終わった後は、そこから
現在に至るまでに起こった
いくつかの出来事、この
ブログに登場してくれた
人たちの現在、ぷう助の事、
伝えるつもりが抜け落ちた
部分などの投稿をしてから
ブログの更新を終わらせて
頂く予定です。
あと数ヶ月の更新になるかと
思いますが、お時間の許す
時に読んで頂けたら
幸いです。
皆様のおかげで、とても
幸せな時間を過ごさせて
頂きました。
ありがとうございます。
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【お気に入りの紹介です】
ブログでご紹介している
『ねこはるすばん』を描いている
町田尚子さんの絵本です。
ずっとネコヅメのよるをご紹介
したかったのですが、楽天で
確認すると、いつ入荷されるか
わからず、ご紹介できる日を
待っていました。
道を歩いていると、たまに
今日はよく猫を見かけるな…
という日があるのですが、
この絵本を読んだ時、
道を歩く猫たちのひみつを
知ったような気持ちになり
ました。
ねこたちが大好きな、ある夜の
お話です。
最後の最後までお読み頂き
ありがとうございます。
大きな不安をすべて信じて
しまいそうな時でも、
自分が大切にしている
ものを忘れないで
いられますように。