貞彦305話  『退院と意見書』

 

 

私の個人的な事情は、
すべてカルテに書かれて
いるから先生も知って
いるはずだけど、若い
研修医の先生に、なるべく
時間をとらせないよう、
調査官調査のことを

どう手短に説明すれば
いいのか迷った。


「実は親権で揉めていて、
 近々どちらが親権を
 持つのかを決める調査が
 入ります。

 その調査はぷう助にも
 直接父親の事をきい
 たりして大きな負担に
 なるので、調査を延期
 してほしいという意見を
 だす予定なんですが、
 どんな形でもいいので
 先生の意見書を頂け
 ないでしょうか」


そう伝えると先生は
即答で明るく返事を

してくれ、退院時に
渡してくれるという。


そして、そこからの

3日間は思い出せない

ほど忙しかった。

もう1日夜勤をして、

ずっとやっていなかった
家の掃除に、寒さと
湿気でひんやりと
してしまった布団も
干す。

冷蔵庫はぷう助が
入院した日からほとんど
開けていなくて、野菜室
には溶けたもやしがあり
目を伏せながら捨てる。

その後は買い出しへ
行き、ぷう助の帰宅に
備えた。

 

 

退院当日、看護師さん
に手順の説明を聞いてから、
最初に費用の支払いへいく。

事務の人に書類を渡して
金額をだしてもらうと、
5000円弱という金額に
驚き「えっ」という声が

もれてしまう。

医療費は助成してもらえる
ことを知っていたけど、
食事代やその他にも
こんなに立派な大学病院
だから、数万円には
なると思っていた。

そんな気持ちが表情に
でていたのか、事務の
人に謝られてしまう。


「すみません、食事代は
 助成がないのでかかって
 しまうんです。
 申し訳ないです」

「あっ、いいえ、そういう
 意味ではなくて、三食
 とてもおいしそうな
 食事に病棟でもたくさんの
 スタッフがいたのに、
 この金額でいいのかと
 思ってしまいました」


そんなやり取りをすると、

事務の人は優しい

表情で言葉を濁しながら、

これが病院の方針で

あるということをなんとなく

教えてくれた。

病院には豪華な特別室という
個室があり、入院中の
食事も、希望者には別途
有料でコース料理のような
食事にしてもらうことも
できる。

その他にも、宿泊して
行う豪華な食事付きの
健康診断など、経済的に
豊かな人むけの選択が
あるおかげで、その
医療費が他を補い、
私たちはたった5000円弱で
良い環境と医療をうける
ことができていたという
ことを知った。

そして、病棟へ戻り
廊下を歩いていると、
二宮先生が声をかけて
くれて、意見書を頂く。

意見書を頂けるという
ことだけでも十分
ありがたい。

私は先生のことを

とても素晴らしい医師

だと心から思っては

いるけど、大学病院と

いう大きな組織の1人で、

教授回診でもほぼ1番

後ろをあるく研修医と

いう立場だから、書いて

もらえなくても仕方が

ないと思っていた。

「今ここで読んで
 もらっていいですか?
 もし何かありましたら
 すぐ書き直します」

そういわれ、内容なんて
まったく気にせず、
感謝しながらバッグに
しまいかけた封筒を
開けて意見書を見ると、
最初に驚いたのは
とても長い文章。

私の伝え方が悪くて、
何か誤解を招いてしまう
ような言い方をしてしまった
のだろうかと、戸惑いながら
読み始めるとその内容は、
子供の心が体に影響することや

変化が快復に影響を与える事

など、書けることをすべて書き
きってくれたような意見書
だった。

私はその場で涙がこぼれ
落ちそうになる。


「こんな丁寧に書いて頂ける
 なんて思ってもみなくて…
 ありがとうございます」

「ぷう助くんが本当の元気に
 なるためには必要な事
 ですから。何かありまし
 たらいつでも書き直し
 ます。
 これで大丈夫ですか?」

「もちろんです」


私はもう涙を抑えるのが
限界で、トイレへ行き
個室で押さえていた涙を
全部出す。

出しきったところで、
帰れることを待ちわびて
いたぷう助の元へ行き、
看護師さんに見送られ
ながら病棟をでた。

そして病棟をでた
ところのすぐ近くにある
ソファーへぷう助と
座り、何気ないそんな
行動が一緒にできる
喜びをかみしめていると、
二宮先生が走って病棟へ
入って行く後姿を見る。

ぷう助が「あっ!」
と声をあげたけど、
忙しそうだったから
声はかけずに、その後ろ姿
に心の中で感謝していると、
振り返り私たちの元へきてくれて

「元気でな!苦しかったら
 お母さんに伝えて我慢
 しないでね、約束!」

と、ぷう助と握手して、
最後の最後まで感謝で
いっぱいの退院だった。

 

 

☆まだスマホがなく携帯電話が主流の時の

お話です。

現在は離婚して平穏に暮らしています。

 

☆個人の特定につながらないよう

一部の表現をかえています。

 

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最後の最後までお読み頂き

ありがとうございます。

 

週末、一緒に暮らすことが

苦痛な夫との時間を耐えた

人がゆっくりできる明日に

なりますように。

 

無理だと思うことも、1度は

信じてみようと思える

明日になりますように。