貞彦182話 『心ある対応』

 

 

「これは……とても、その、
 あの…えっと」

記録に目を通した警察官が、
DVの説明をする前とは
別人のような顔つきになり、
声も低く丁寧な言葉を
探してくれているようだった。


「弁護士さんにお願いしながら

 子供と一緒に、夫には
 知られないよう家をでることも
 考えて離婚する予定です。
 
 診断書がないので身体的暴力に
 当てはめるのは難しいと思い
 ますが、この紙に書いてある
 説明をみると精神的暴力には
 十分あてはまると思います」
 
「え、ええ、あぁそうですね。
 ちょっとお待ちください」


そういい、個室をでて3分くらい
したところで戻ってきて、
一呼吸置いてから言いづら
そうに


「…こんな大変な思いをされて
 心苦しいのですが、こちらでは
 今、なにかをすることは
 できないんです。
 現在もアザができるとか身体的
 暴力はないんですよね」

「夫は頭のいい人です。
 そういう単純な暴力をしたら
 すぐばれる事がわかっている
 ので、そんなことはしない
 はずです。
 自分のせいにならないよう
 やるから怖いんです。

 この紙には、暴言も暴力に
 なると書いてありますが、
 今回、私があてはまらないという
 ことは、あてはまる暴言と
 いうのは、どういうことを
 言うのでしょうか」

「そうですよね、ただ身体的な
 暴力で診断書があれば…
 それがないとですね…
 本当にお辛い思いをされて
 いるとは思うのですが……
 なにかあれば電話してください。
 近くの交番からすぐ行きますから」


弁護士さんから聞いていた通り
何かが変わるわけではなかった。

今回の目的は相談に行ったと
いう記録を残すだけだから、
これで大丈夫だけど知らな
かったことや驚く事ばかり。

警察へ行くような家族関係の
相談は、身体的な暴力のみかと
思っていたけど、ちゃんと暴言や
性的な事も暴力になるという
用紙まであった。

ただ、それは実際に行われて
いたとしても、対応をしてもらえる
ことはあまりなくて警察が
認めるのは、身体的暴力と
その証拠になる診断書が大きな
ポイントになるという事だと思う。

ここで、親身になり説明を
してくれた警察官にお礼を
いって去ろうと思ったけど、
どうしても1つ気になる事が
あり、最初に見せなかった
私と貞彦さんの性的関係が
記録してある書面を渡してみる。

アダルトビデオを無理やり
みせることが暴力なら、
貞彦さんの性行為は
暴力だと思うけど、これも
精神的暴力と同様に認め
られないのかということが
気になった。
同時に認められたいという
思いもある。

けれど警察官とはいえ、
さっき会ったばかりの男性に
性的な記録を読まれると
いうのは、自分の性行為の
映像を一緒に見るような
気持ちになり、最初は躊躇したけど
貞彦さんの性行為でも
『あてはまらない』
というのか知りたい気持ちのほうが

勝った。

記録を読んでもらって
いる間は、やっぱり心の
置き場がなく、壁に貼られて
いる色あせた交通事故のポスターを
眺めながら待つ。

「…よく、ここまで
 こられましたね。
 ちょっと、お待ちください」

警察官が静かにいいながら
記録の紙をデスクに置いて、
個室をまたでて行き、今度は

スポーツ刈りで50代くらいの

警察官を連れてすぐに戻って
くると、その警察官が

「だって診断書とか何も
 ないんでしょ」

と、いきなり雑な物言いで、
丁寧な対応をしてくれた
警察官が、私の記録を年上の

警察官に渡したけど、

記録は最初から読む気もない

ようでパラッパラッとめくり即答で

「何かあったら110番してください、
 すぐいきますから~」


そういいながら足早に
出て行った。

これで性的なことも
実際は、暴力として
認められることがないという
ことがわかり、帰える
準備を始めると


「本当に申し訳ないです。
 なんとかしてあげたいのですが、
 現状では警察として動くことは
 できなくて…
 
 ただ、こういった相手なので
 引っ越しをされるときはパトカーを
 近くに配置して無事に出発できる
 ようにはできます」

 「パトカーですか?
  家の前に?
 それはありがたいのですが
 家の前にパトカーというのは
 逆に目立ってしまい、ちょっと…」

「あっ、あの普通の車でも
 警察が乗っていることが
 わからないやつもあるので。
 場所も家の前じゃなくて
 旦那さんが帰ってくる近所の
 通り道とかでもできます」

「ありがとうございます。
 そのほうが助かります」

「日程が決まりましたら
 連絡ください。
 その他にも、何かあった時は
 すぐかけつけられるように
 しますからご連絡ください。
 

 なんといっていいか…

 本当にすみません」


十分、親切な対応をして
いただき何もいうことは
なく、この警察官に
対応してもらって本当に
よかったと思う。

最初からあの上司のような
人だったら、悲しい気持ちに
なったかもしれないと思い、

お礼をいい個室をでる。

そして出入り口付近の
ほうを見た時、デスクで
丼ぶりにはっている蕎麦を
すすっている、足早に出て
いった50代の警察官がいた。


☆当時、警察署での対応は
このような感じでしたが、
現在はDVやモラハラの理解も
広まりつつあり、ゆっくりでは
ありますが良い方向へ向かって
いると思います。

 

☆まだスマホがなく携帯電話が主流の時の

お話です。

現在は離婚して平穏に暮らしています。

 

☆個人の特定につながらないよう

一部の表現をかえています。

 

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【お気に入りの紹介です】

 

パン屋さんをやっている
からすの夫婦に、可愛い4羽の
赤ちゃんが産まれたという
ところからパン屋さんと家族の
お話が始まります。

育児に大忙しでいると、パンを
買いに来てくれるお客さんは
減ってしまい、売れ残った
パンは子供たちのおやつに
なり、それがきっかけで色々な
パンが焼けていきます。

主役である、からすの家族以外にも
たくさんのからすが登場して、
それぞれの表情や年齢を想像
することができます。

各ページに書いてある文の長さは
絵本を聴くことに慣れていない
子には長く感じるかなと思います。

けれど最初からすべての文章を
読んであげなくても、
長い文章の本は、聴いていられる
くらいの長さに調整して
読むこともできます。

このカラスのパンやさんも、2歳の
ぷう助に読んでいたころは、
『森にカラスのパンやさんがありました』
(次のページ)
『カラスの赤ちゃんがうまれました』
(次のページ)
『お父さんとお母さんはおおいそがしです』
こんな感じでそのページの要点を
短い言葉で読んであげ、成長と共に
文章を増やしていきました。

ぜひ、どのパンがいいかな、
何個買おうかなと想像して楽しんで
みてください。

 

〈余談です〉

この絵本の作者かこさとしさんは
生前、子供への深い思いを
色々な記事やインタビューなどで、

家が貧乏で軍人を目指したけど、

病気がわかり死なずにすんだという

お話をされています。

けれどそんなご自身の事を、
判断力がなく世の中を知らなかった
から軍人を目指すという戦争に
加担する行為をしたといい、
戦争で死に損ねた惨敗者の自分は、
未来を生きる子供たちへ罪滅ぼしを
したいという思いであると話されて

いました。

子供たちが自分のような過ちを
おかさないよう、己の頭で考え
大人がなにをいっても、おかしいと
思う事には、おかしいというように
なってほしいとも書かれています。

そんな、かこさとしさんの思いを
知りながら絵本を読んでいると、
さらに絵本の良さをしることが
できるかもしれません。

 

まぁみとぷう助のmy Pick

↑絵本やお菓子を紹介しています。

 

最後の最後までお読み頂き

ありがとうございます。

 

当時、警察署へいった時から

数年後、裁判中に元夫とは

関係ない出来事で警察官を

自宅へ呼ぶ事があったのですが、

私が身を隠しているということで

大勢の警察官がかけつけ、徹底的に

夫のやったことではないという

ことを調べ、原因を追究して

くれました。

 

その時の事は、だいぶ後の

投稿になるのですが書かせて

いただきたいと思います。

お付き合いいただけると

嬉しいです。