『教え子「法案反対して」 猪口議員「会いに来るのが筋」』という記事があった。
http://www.asahi.com/articles/ASH9K13FTH9JUTIL07K.html


 猪口邦子元国際政治学教授現国会議員が、元教え子から、「安保法制は、先生に習ったことと違う、反対して」と手紙やメールを書いたが、返事がない、というもの。これに対して、猪口氏のコメントは「手紙はかばんに入れて持ち歩いていた。ただ、意見があるのなら面会を求めるのが筋。学者として学問的裏付けのある発言をしており、会えば疑問点を聞き、議論もできた」と取材にてコメント、という内容。

これだけ見ると、変節者で、冷酷で傲慢な人、と響くだろう。


が、僕が知る限り事実は大分違う。


 実は、僕も猪口ゼミ(しかも98)のOBだけど、まず、彼女が主張してたのは、民主主義国家間で戦争起きた事ないから民主主義化が正しいってことで、法的教条的というより、力関係の分析や機能的観点から理論展開する人であって、その理論は制度に従わないから悪という響きではないです。(勢力均衡、ICBMとSLBM、SDIに対するゴルバチョフの対応、スミソニアン体制、とか)

 しかも、ゼミ生ってことは法学部生だろうが、違憲の可能性のある立法自体は制度破壊でなく、司法で審査するのが制度想定で、別に民主主義にも立憲主義にも反してないぐらい理解すべき。アルメニアの嘘法案は仏司法で違憲判断されてる。ちなみに制度の想定は、大衆に媚びやすい政治家の傾向をけん制する為で、今回の状況とはちょっと違う。
 

 ちなみに僕は民主的平和論とか好みじゃなくて、ゼミでは結構猪口さんに食って掛かってた(なので、多分当時僕は覚えめでたくなかったと思う)。が、彼女は「のび太のくせに生意気だ」みたいな態度じゃなく、たかが学生相手でも、正面からバシバシ斬ってきたし、議論を終える時も「またやりましょう!」とかいってくれて、フェアで、アメリカンなアカデミックな世界の美点を態度で示してくれた。(まあ、強烈なキャラであることは間違いなかったけど)。
 

 個別の手紙なんて有名人ならいちいち返事してられないなんて普通だし、そういう理論、そういう姿勢なんだから、「学者として学問的裏付けのある発言をしており、会えば疑問点を聞き、議論もできた。」なんていうのは当たり前だし、議論したら彼女らしく正面からガンガンやると思う。
 

 海外で戦争しないポリシーや、あるいは単独自衛の正しさを正面切って主張するならそれもいいと思う。また僕は政治家としての彼女を別に特別評価しているわけでもない。が、自分の勝手な解釈を元に、師が変節したとか、逃げたとか、相手が悪だからとか、理論的でない言い方は違うだろ。それこそ、主張と感情を分けて考え、異なる主張に対して正面から理論的にガンガンやる、という彼女が示してきた教えに反するんじゃないの、と言いたい。

 

 記事についても『教え子「法案反対して」 猪口議員「会いに来るのが筋」』ってタイトルも悪質だ。猪口さんは傲慢だって暗に言ってるが、これも状況を捻じ曲げてる釣りだ。まあ、歯に衣着せず率直な物言いをする人ではあると思うけど、勝手に曲解して(「学問的に裏付けある話をしてる」っていうのはそういう意味だと思う)裏切られたとか主張し、しかも、新聞社二社を通じて公開質問状にしたそうだが、手紙に反応してもらえなかったからか知らんが、マスコミ使って騒いで、公衆の前に人の顔に泥塗るなんて、ガキじゃないんだから、という話に僕には見える。こんなのに対して、猪口さんがムッときたとしても、そりゃそうで、いちいち手紙なんて疲れることは勘弁してほしいが、(立場上変なエビデンスが残るのは普通の人なら避けたいでしょう、まして政治家なら)何なら直接ガンガンやろうぜ、っていうのは普通の反応だと思う。タイトルと実態は大きくかけ離れてる。朝日は朝日なのでそういうものだと理解するしかないけど、この教え子、というのは、ちょっと学問的理解が間違ってる、のは一歩譲って大目に見るとしても、表面上は丁寧に振舞ってるようだけど、対応が子供じみている、というのはいかんだろうと思う。


 今回のブログは、記事の声が全ての教え子の考えでない、それどころか、先生の教えを誤って理解し、かつ彼女が示してきたフェアなやり方でないやり方で議論をしている、という意見を発することが、客観的理解につながり、特に同じ世代の、猪口ゼミのOBとしての義務ではないか、と感じ、書きました。


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ところで、一応安保法制、安保政策に対する僕のスタンスをもう一度書いておく。

存立危機条項は実質個別的自衛権で全然問題なく、海外に兵を出すのも例外なく国会の事前承認、ということだから、問題ないし、それ以上に全然大した変更じゃなくて、別によい。

この程度のことで騒ぐには大げさすぎる。(マイナンバーとかの方が問題だと思うが)


一般的な安保政策については、日米同盟が一番効率的ではあると思う。後50年の内に世界最強国になるであろう中国に対して、できるだけ軍事均衡を保つ為にはアメリカの軍事力は不可欠だろうと思い、それが効率的だと思う。アメリカが意のままに操るには日本は大きすぎるし、太平洋を挟んでいる分アメリカの支配は限定されてちょうどいい。


一方、

日米同盟主義の場合、アメリカの戦争に巻き込まれる危惧、あるいは、日本が戦争したくない国と戦争しなければならない、という危惧がある、

アメリカの事大主義の下にいると自ら判断できなくなり、いざ状況が変わった時に、果断に対応できず、民族の生存の危機になる、ので、独立自営主義がよい、

というような反論はそれなりの説得力はあると思う。

一方、例えばだからアメリカと同盟せず独立自衛する、というなら、軍事費のGDPに占める割合は、中国がGDPの2%、アメリカが、3.5%、の中、今日本は、1%なので、

http://www.globalnote.jp/post-3874.html

2~3倍ぐらい増やさねばならないし、逆にスイスのように徴兵制が必要かもしれない。

ということをテーブルに並べて論議するならよいと思う。


また、武器を輸出しない、平和主義、というのも、特に、欧米は中東であまりにもめちゃめちゃやってるので、当然信用されず、そうした時に、独自の説得力を持ち得るので、それはそれで、他と迎合しないで、土国の存在感を強調しよう、という戦略もあり。


一方、非同盟非軍事、みたいな主張は、警察いらない、といっているようなもので非現実的、ともかく9条があるからダメ(であるなら自衛隊自体僕は駄目だと思う)、中国と仲良くすれば武器はいらない(逆、軍事均衡があるから、外交に頼ろうとする動機を生み出せる)とか、選挙で選ばれた人よりも、街頭で大きな声をあげる人に従うのが民主主義、とか、バカバカしい主張だと思っている、が、反論を、全部現実知らないお花畑、みたいにいうつもりもなく、反論にもいろいろあって、いい意見はそれなりに考えてみたいと思う。


で、結局、


「軍事費はあんまり払いたくなくて、

徴兵制も嫌、

でも、中国が日本近海のサンゴ礁とかガス田開発とか好き勝手やるのはやめさせたい、

朝鮮半島で何か起こったら、一緒に守ってもらいたい、

そのあたりの戦闘はさすがにいっしょにやるのはいいけど、

でも、イランとか結構仲いいから、アメリカがヤる、っていっても、少なくとも付き合いたくない、

でも、アメリカには、お前ら俺たちがいないとホント駄目だな、とかでかい面されたくない」


というのが、恐らく大方の国民の意見だろうが、傍目に見れば、自分勝手としかいいようなく、この自分勝手なことをどううまいこと、かつ、長い間に実現させるか、というところで政策は決まっていくべきだと思う。

なので、ゼロイチ、筋とか正義とかの話(本質これは大事なんだけど)でなく、この自分勝手を実現する為に、どううまく立ち回っていくか、という戦術論、技術論、ずるく、かつ懸命に頭をひねればならない、というところだろう。

、、と考えると、今まで日本がとってきた政策は、上記を満たすための結構いい線いってると思う。日米同盟でアメリカに頼りつつ、自分たちのポリシーとかで、アメリカを助けるのは最小限にして、かなり効率的にやり過ごしていると思う。なので、だから、逆にいうと海外からはまあずるいというか偽善的というかに見えて、いい加減お前れももっと自分でやれよ、とアメリカには、まあ言われはするだろう。実際、トランプにはそう言われてる。(トランプ発言がでても、デモに何の影響もない、というのもどうかと思う。)


これをどううまいことしのいでいくか。イランとかの戦争に付き合わされたくなければ、攻撃を受けた場合は、相互支援は義務で、攻める場合は、この限りにあらず、とか、それなりの筋のあり、かつ日本に有利な基準で、どこまで協力が義務で、どこから義務じゃないか、相手国の個別判断にゆだねられるか、とかは、相手国に説得的に響き、かつ、うまい具合に歯止めを果たすよう、よく練られるべきだと思う。(まあ、イランと北朝鮮は、核技術軟化の関係で仲良かったそうだが、今はどうなんだろう)。今安倍政権のやってるのも、アメリカから見れば、亀みたいな進展に思え、牛歩戦術なんじゃないの、という気さえもする。


いわゆる平和主義ということに誇りを持つ、ということなら、例えば、ODA予算は最近かなり減ってるらしい(ODP比率も決して高くない)がもっと増やすべきだろう、と思うし(が、使い方はちゃんと考えねばならん。悪い場合、独裁の延命を助長し、社会の進化を遅らせる)、積極的平和主義、ということで、例えば小国の紛争停止後の監視、いわゆる警察力を提供するようなことは、やらんと、それなりに、自分たちにポリシーあって、やることやってます、とは言えんだろう。なので、イラク戦争には反対し参加すべきでない、だけど、積極的に平和主義はぜひやるべし、という主張もあっていいし、その方が整合性取れると思う。民主主義がアフリカ経済を殺す、っていう結構興味深い本にあったが、アフリカの国は、自国内で警察力を提供するには国が小さすぎ、内部で紛争が起きないにしては大きすぎる国が多いが、こうした場合、外国の部隊が、少量の警察力を提供することは、学問的研究結果として、かなり効果的なんだそうだ。

そこまで生真面目にやらんで、適当にお茶濁しとけ、っていう意見もあるだろうが、まず、であるなら、他国がやる程度に紛争にもそこそこかかわらねばならんが、それこそまさに平和主義に反するので他国より強い制約がかかるから難しくて(だからそうじゃない領域で、頑張っているとこ見せないと説得力ないだろうし、また、個人的にも、あんまりずるがしこく切り抜ける発想は、なんだかんだ結局海外に信頼されず、また、自国民への影響も悪いので、世界とは違うポリシー採るんなら、それはそれで胸張れるような哲学がなきゃいかんだろうと思う。

そういえば、ドイツも、歴史的経緯から軍事的な貢献には消極的らしいが、だからこそ、今の難民受け入れなんか、真剣にやっているので、それなり筋は通してると思う。


日本というのは、資源がなくて、人口が密集してるんだから、世界が平和であって、貿易が自由に行える状態でないと一番困る国であるし、そもそも、中でグダグダやってんじゃなくて、外からどう思われるか、外に対して胸張って自分達の考えを主張できるのか、ということはもっと考えるべきだと思う。


今日はこの辺にしておきます。